東レ/「GRプロジェクト」が前進/「&+」(アンドプラス)の販路が拡大

2021年07月09日 (金曜日)

 東レは2020年度からの中期経営課題「AP―G2022」を通じ改めて環境経営に力を入れている。成長分野でのグローバルな拡大を目指すとの基本方針の元、「グリーンイノベーション(GR)プロジェクト」を推進しており、GRプロジェクトによる売上高を20年度の7118億円から22年度には1兆円に引き上げる中期戦略に取り組んでいる。繊維事業では、21年度は「&+」(アンドプラス)を採用した商品企画が広がるなどエポックメーキングな年になりそう。同社の取り組みを追った。

 東レグループ・サステナビリティビジョンには、50年に向け、地球規模での温室効果ガス(GHG)の排出と吸収のバランスが達成された世界を目指すとして温室効果ガスの排出を実質ゼロまで削減するとの目標を掲げている。

 GRプロジェクトでは、省エネルギー、新エネルギー、環境低負荷、リサイクル、空気浄化、バイオマス由来など8領域における取り組みに重点化し、地球環境問題、エネルギー問題への貢献を目指している。

 20年度、GRプロジェクトでは7118億円の売上収益を計上した。新型コロナウイルス禍による影響に加え、航空機用炭素繊維複合材料(CFRP)などの省エネルギー分野が低調に推移し、全体的には苦戦を強いられた。

 一方、リサイクルや新エネルギーの分野で着実に実績を積み重ねてきており、植物由来繊維「エコディア」の拡販、風力発電用途での炭素繊維の拡販などに取り組んできた。

 新型コロナ禍による店舗の休業などで衣料品全般の売れ行きが低調に推移した中、「ペットボトル再生ポリエステルの販売量は前年を上回った」と言う。

 21年度は白度やトレーサビリティーにこだわって開発したペットボトル再生ポリエステル「&+」(アンドプラス)を採用した商品企画のアイテムが順次、店頭をにぎわすことになる。

 ファイバー・産業資材事業部門が高次加工品の拡販を目指して強化するプロジェクトIでは、取り組んできたカーシート向けのテキスタイルによる販売を「第4四半期からスタートさせる」としており、電気自動車のカーシート向けにアンドプラスによるニットを投入する。

 同社はアンドプラス全体の70%を海外で、30%を国内でそれぞれ生産しており、海外は既に玉不足気味の状況に見舞われているという。

 今後は特品(=差別化糸)のアンドプラス化を加速し、顧客ニーズに応えられる商品ラインを構築する厚みを持たせていく。

 同社はバイオ由来原料によるエコ素材の拡販にも力を入れており、これまではポリエステルによる「エコディア」の販売をスポーツ用途を中心に先行させてきた。

 数年前からスタートしたバイオ由来原料を含むナイロン610を中心とする「エコディア・ナイロン」では、ラインアップが充実しアウトドアなどナイロンへのニーズが高い業界での採用事例が拡大する。

 ナイロンでは、既に古くからケミカルリサイクルを進めているが、今後は市場ニーズの拡大に対応し、バージン原料とリサイクル原料を分別する新しい解重合設備の導入も検討している。

 ポリエステルでは、バイオ由来原料100%使いによるポリエステルの開発を既に済ませており、「20年代後半を目指して量産を実現したい」考えだ。

〈東レ 繊維GR・LI事業推進室長兼地球環境事業戦略推進室主幹(当時)寺井 秀徳 氏/「&+」の拡販に手応えあり/100%バイオ糸の量産目指す〉

 日に日にSDGs(持続可能な開発目標)への関心が高まっており、繊維業界では環境配慮型のエコ素材を持っていなければ今後、戦っていくことはできないといわれるほどだ。グリーンイノベーション(GR)プロジェクトを推進する東レ。近況と今後の方針を寺井秀徳繊維GR・LI事業推進室長に聞いた。

  ――2020年度のGRプロジェクトはいかがでしたか。

 全社のGRプロジェクトは新型コロナウイルス禍による事業環境の悪化の影響を受け苦戦しました。繊維事業のGRプロジェクトでも、新型コロナ禍の影響による衣料品全般の売れ行きが芳しくなかったため、20年度は苦戦を強いられました。それでも、エコを求めるニーズは俄然、強くなってきており、ペットボトル再生ポリエステル「エコユース」の販売量は前年実績を上回りました。ユニフォームが中心だった用途がだいぶ一般衣料へも広がってきています。

  ――白度、トレーサビリティーにこだわって開発した「&+」(アンドプラス)の販売はいかがでしたか。

 20年度上半期は半減以下の苦戦となりましたが、下半期で追い上げることができた結果、全体の販売量は前年をクリアしました。ここに来て国内での仕込みがぐっときた感じがします。

  ――昨年の上半期、合繊メーカー各社の自動車関連資材の販売は伸び悩みました。

 自動車にはさまざまな繊維素材が使われています。当社の自動車向け繊維の販売は上半期は苦しかったですが、下半期から回復へと転じました。特に環境に敏感な電気自動車では、サステイナブル化の取り組みを深めるために、アンドプラスを使おうという商談が進んでいます。

  ――温室効果ガスの削減目標、あるいはカーボンニュートラルの実現はいつごろになりそうですか。

 温室効果ガスでは、13年対比で30年には売上高原単位を30%削減するというサステイナブルビジョンに取り組んでいます。東レグループはカーボンニュートラルの目標をまだ表明していません。海外を中心に事業規模の拡大を続けていきますので、さまざまな複合技でカーボンニュートラルを目指していきたいと考えています。

  ――21年度、GRプロジェクトのトータルの販売はどうなりますか。

 アンドプラスや部分バイオ「エコディア」など全体が回復してきます。大手SPA、大手インナーアパレル、大手スポーツアパレル、量販店からアンドプラスで企画された商品が相次いで店頭に出回ります。アンドプラストータルの販売量はおそらく1・5倍くらいになるとみています。

  ――バイオ原料100%によるポリエステルを業界に先駆けて開発しています。

 まだトライアルの段階で、量産の時期はまだ決まっていません。当社は原料メーカーのベンチャーと連携して開発を進めています。2020年代の後半までには量産を実現したいと考えています。

〈東レ プロジェクトI/新規高次加工ビジネスが始動/70テーマが進行中〉

 東レのファイバー・産業資材事業部門が取り組む“プロジェクトI(イノベーション)”においても環境配慮型素材は重要なポジションを占めている。

 プロジェクトIはこれまで糸やわた売りで対応していたのを、次工程に踏み込みテキスタイル売りや製品売りによって新規商流を掘り起こそうと2020年度下半期から立ち上げたチャレンジングな取り組みだ。

 ファイバー・産業資材事業部門内の事業部がさまざまな企画提案を積み重ねてきた結果、既に40テーマを予算化し、30テーマも予算化に向け順調に開発が進展しているという。

 ランニングシューズのアッパーで既に実績があるほか、新タイプの防ダニわた、デニム、防獣ネット、高速道路のコンクリート剥落防止ネットなどでスペックインに向けた作業を強化しており、このまま順調に進めば40テーマで13億円、70テーマで20億円の売り上げを見込めるという。

 「&+」(アンドプラス)は海外でも関心が高く、これまで取り組んできたサステイナブルに敏感な電気自動車メーカーへのアプローチも実現する見通し。

 これまでは糸売りで対応してきたカーシートでの取り組みが1歩、次工程へと前進。来年の1~3月期からアンドプラスによる軽量カーシート地のテキスタイル売りを新規ビジネスとして計画している。