LIVING-BIZ vol.72(2)/特集 寝具寝装モノ作り/コスト増の影響懸念 サステ素材提案目立つ

2021年07月16日 (金曜日)

 2021年の寝具市場はやや厳しさが見込まれる。20年の反動減や、羽毛原料価格の高止まりによる羽毛ふとんの計画数量の減少などがマイナス要因に挙がる。一方で素材メーカーでは22年の浸透に向けて、サステイナブル素材の提案を強めている。

〈羽毛ふとんの数量減か〉

 経済産業省の生産動態統計によると、20年のふとんの生産数量は前年比3・5%減の296万枚。掛けふとんが20・5%減、敷ふとんが14・2%減と落ち込んだが、こたつふとんが85・8%増、羽毛・羽根ふとんが10・6%増と大きく伸びた。20年後半に20秋冬物の需要が一気に増したことで秋冬を主力とするアイテムが堅調だった。在庫も軽くなった。

 21年は、20年の新型コロナウイルス禍による巣ごもり需要の反動減に加えて、羽毛原料価格の上昇(20年の安値時より2倍以上)によるボリュームゾーンの商品企画の困難により、数量ベースで減少する可能性がある。

 原材料や物流コストの値上がりも今後、影響が懸念される。寝具寝装で主力素材の一つである綿も上昇基調にあり、ニューヨーク綿花定期相場では今年に入って約3割上昇。5月限は4月27日に3月頭以来の90セント台に到達。世界の需給ひっ迫の見込みから強気に推移し、投機筋の投資戦略の下、綿花の買いが進んだ。12月限は86セント中盤(2日時点)で推移する。

 原油高でポリエステルやナイロン糸の値上げも進んでいる。海上運送費もアップしている。「21秋冬までは原材料値上げの影響を何とか最小限にとどめることができるかもしれないが、22春夏向けから製品価格の値上げは避けられないだろう」(寝具製造卸)と見通す。消費者の財布のひもが固くなり価格に敏感になっている中で、大幅な値上げは難しい面がある。サプライヤーが現在持っている原料を値上がりした原料とミックスすることなどで価格上昇が徐々に進む可能性もある。

〈22年に向け再生素材訴求〉

 機能では、新型コロナ禍で抗ウイルス機能が引き続き重視されている。シキボウの抗ウイルス加工「フルテクト」、クラボウの抗菌・抗ウイルス機能繊維加工技術「クレンゼ」使いが浸透するが、高橋練染(京都市)の制菌、抗ウイルス、防カビなどの機能を持つ衛生加工「デオファクター」(ミネラル酸素触媒)なども存在感を増している。ただ21年は、20年と比べて抗ウイルス加工商材の販売が減ると見込む素材メーカーもあり、旺盛な需要が持続するかは不透明感がある。

 サステイナビリティーをテーマにした素材も充実してきた。20年は再生ポリエステルの活用が、羽毛ふとん“側”(中わたを入れる前の半製品)など一部で進んだものの、新型コロナ禍の影響を受けて寝具業界全体の新しい取り組みは停滞気味だった。素材メーカーは22年向けの浸透を見据えて力を入れている。

 シキボウは、「今年の寝具寝装向けはSDGs(持続可能な開発目標)がテーマの年になる」と強調。燃焼時の二酸化炭素(CO2)発生量をレギュラーポリエステルと比べて約60%削減できるポリエステル繊維「オフコナノ」などを提案する。

 ユニチカトレーディングは、20年ほど前から寝装向けにレンチングのリヨセルを原綿に使用した「シルフ」を環境対応型商材として販売しており、再注目されている。再生ポリエステル「エコフレンドリー」使いも訴求し、羽毛ふとん用途を視野に入れた22秋冬向けなどへの浸透を図る。

 東洋紡ユニプロダクツのライフスタイル事業部寝装グループは今期、東洋紡グループのPET再生ポリエステル「エコールクラブ」を活用した寝具用機能生地の試作を行い、22春夏向けに打ち出す方針を示す。

 東レのリサイクル原料を使用した環境配慮型ポリエステル中空原綿「マッシュロン」、帝人フロンティアの吸汗速乾機能を持つ使用済みペットボトルを主原料としたリサイクルポリエステル素材「ポリティエコ」なども寝具向けである。多様なサステイナブル素材がそろい、業界の持続可能な取り組みを後押しする。

〈JBA/適正なモノ作りを後押し/「J―TAS」など〉

 日本寝具寝装品協会(JBA)は6月21日、第8期定期総会をオンラインで開いた(14面に関連記事)。今年度、モノ作りに関わる部分では、羽毛原料・羽毛製品の監査認証システム「J―TAS」の国内外の企業参加を促進するとともに、品質向上と基準策定に向けた取り組みを加速する。

 国内の羽毛ふとん市場では、欧米産地と表示した羽毛原料使いが6、7割程度あるが、産地名の割りに安く売られている商品が散見されるという。欧米から日本に直輸入する羽毛原料はもちろん、台湾や中国などからの原料輸入に対し、両国企業のJ―TAS加入を促進することで、健全な産地表示の証明に努める。

 国内では日本羽毛製品協同組合や日本ふとん製造協同組合と連携し、製造業者、販売業者への加入を推進し、消費者が安心して購入できる羽毛ふとんの提供を目指す。

 新型コロナウイルス禍で停滞する海外での定期監査については、オンラインによる特別措置として、監査の迅速な活動を関係監査機関と規定に沿って行っていく。

 品質向上と基準策定に向けた取り組みでは、ウレタン・敷部会で低反発ウレタン・敷の硬さ基準設定の決定、まくら部会で枕の高さと硬さの計測方法を決定する計画だ。

 JBAは2014年度に一般社団法人化し活動の幅を拡大。会員企業(団体)数は当時の倍以上に増え、同総会でも新たに4社が加盟承認された。今後も会員を増やしながら、寝具寝装品産業の健全な発展と消費者に資する業界基準の策定、運用などに努めていく。

〈衛生テーマにサポートアイテム/田村駒〉

 田村駒は、衛生をテーマに不織布製の使い捨てカバー・シーツ、抗ウイルス黙食用パーティションの提案を強めている。

 不織布製のディスポーサブル(使い捨て)掛けふとん・枕カバー、シーツは、肌触りの良いスパンレース使いで、一般的なポリエステル100%ではなく、レーヨンを50%複合することで吸湿・吸水性を高めた。さらに一般的なリネンシーツに比べて重量が約60%軽く、廃棄・焼却処分しやすい。

 新型コロナウイルス感染症の軽症者などが療養する宿泊施設などに採用されている。衛生管理をサポートするアイテムとして、保育園や学校の保健室など多用途に提案していく。

 黙食用パーティションは、シキボウの抗ウイルス加工「フルテクト」を採用。生地は、ふとんの側用のポリエステル長繊維×ポリエステル・綿の交織を転用した。4方向を囲む形で、50秒で組み立てられる。洗濯可能。

 このほか、同社グループが切り売りなどで展開するライセンスブランドを寝装や雑貨用途にも広げる。童謡詩人の金子みすゞをモチーフにしたブランド「みすゞうた」や、インスタグラマーがキャラクターになった「つむぱぱ」、南仏プロヴァンスのテキスタイルブランド「ソレイアード」、北欧デザインのライフスタイルブランド「キッピス」などを活用する。

〈22春夏向けで再生素材使い/東洋紡ユニプロダクツ〉

 東洋紡ユニプロダクツのライフスタイル事業部寝装グループは2022年3月期、再生ポリエステル使いの寝具用生地の開発を進めるほか、リビング、アウトドア用品の製品での対応にも注力する。

 再生素材使いは、東洋紡グループのPET再生ポリエステル「エコールクラブ」を活用した寝具用機能生地の試作を行い、22春夏向けに打ち出す方針を示す。

 アウトドア用ではシュラフにも対応する。同事業部内でスポーツメーカー向けのアウトドア製品を手掛ける実績を生かす。

 同寝装グループはOEMを主軸に、東洋紡グループの機能素材や、中国の同グループ拠点を活用したモノ作りを強みにする。国内生産した機能素材を中国で製品化して持ち帰る体制を構築し、短納期にも対応する。以前は生地売りが中心だったが、現在は製品売りが60%、生地売りが30%、糸・わた売りが10%程度を占める。

 21年3月期は前期比微減収だったが、下半期に盛り返した。テレビ通販向けなどが広がったほか、21春夏向けで寝装用素材を活用した冷涼感マスクも家庭用品メーカー向けで拡大した。

〈ピザ窯発想の製品洗い加工を開発/丸三綿業〉

 寝具の製造・通販を行う丸三綿業(群馬県高崎市)は、寝具業界初という特許取得の製品洗い加工「トリートメントウオッシュ」を開発した。その第1弾として、人気の「03ベーシック洗える薄掛けふとん」に同加工を施した「トリートメントウオッシュ洗った薄掛けふとん」を発売。6月30日に自社運営サイトで先行受注を始めた。

 創業80余年の同社の強みは自社工場で寝具の一貫生産ができること。2018年に寝具の企画・開発・販売を主力とするディーブレス(東京都中央区)が事業承継して以来、丸三綿業の開発力・技術力に、ディーブレスの企画力と販促力が加わり、斬新なこだわり寝具を世に送り出している。

 トリートメントウオッシュ加工は、原料の風合いを柔らかく、機能性を高める既存の特許技術加工「トリートメント」を応用。ピザ窯に着想を得、国内では貴重なコンベヤー高温乾燥機でトリートメント加工を施す「ピザ焼き乾燥システム」に特徴がある。熟練した職人が、季節や素材に応じて微妙に変わる熱風の温度や乾燥時間を調整する。これにより、使い始めから洗いたて・天日干ししたような心地よさがあり、トリートメント加工の効果も長続きするという。

〈22秋冬向けにサステ素材/ユニチカトレーディング〉

 ユニチカトレーディングの2021年3月期の寝具寝装売り上げは前期比微減だった。上半期は新型コロナウイルス禍の影響を受けて前年同期比約30%減と落ち込んだものの、下半期にふとん“側”(中わたを入れる前の半製品)用生地の販売などが伸びて約20%増と、減収幅を抑えた。

 22年3月期は、サステイナブル素材の提案に力を入れる。「新型コロナ禍で新しい取り組みが進めにくかった」面はあったものの、「エコという大きな流れの中でこの1~2年、再生素材を使ったモノ作りを進めてきた」(同社)とし、羽毛ふとん用途などの22秋冬向けを主戦場に見据える。

 20年ほど前から寝装向けにレンチングのリヨセルを原綿に使用し、環境対応型商材として販売する「シルフ」が再注目されているほか、再生ポリエステル「エコフレンドリー」使いも訴求する。

 4月の組織改編で、サステナブル繊維営業第二部に、ホームテキスタイル向けの東京テキスタイル第一課と、スポーツ向けの同二課が組み込まれたことで、スポーツ分野の素材活用も進める考えだ。