ベトナム/工場隔離後の操業停止相次ぐ/南部の省で150社、供給網に穴

2021年08月11日 (水曜日)

 ベトナム南部ビンズオン省で、新型コロナウイルス感染防止のための政府の規制に従って「工場隔離」を実施した企業のうち、約150社が7月末までに生産停止に追い込まれた。いずれも規制実施後に従業員の感染が発覚したのが理由だ。国内有数の工業地域である同省を含む南部では、規制のハードルが高過ぎるとして生産継続を諦めた企業も多い。繊維や電子、自動車など世界的ブランドのサプライチェーン(調達・供給網)にも徐々に影響が広がっている。

 ベトナム政府が「操業継続の条件」として実施しているのは、製造業の従業員の「労・食・住」を工場内に集約するよう求める規制だ。住宅地からの通勤を認めず、新型コロナ検査で陰性が確認された労働者を工場などに「隔離」することで集団感染を防ぎ、生産を維持するのが目的だ。東京五輪で導入された「バブル方式」の製造業版といえる。

 ただ、巨大な「クリーンルーム」の維持は難しい。地元各紙によると、同省では3千社以上が工場内にテントを設営するなどして操業を続けているが、このうち150社が一時生産停止を当局に伝えた。従業員同士の距離を一定以上に保つなどの安全対策を徹底できないほか、外部との接触が制限される中で従業員の食事や原材料の確保が困難との指摘が出ている。

 従業員の中には、数カ月以上続く可能性がある「工場隔離」を望まず退職した人も多数いる。規則を破って外出した従業員がウイルスを持ち込み、集団感染につながった例も報道されており、混乱が広がっているという。

〈精神面で不安、交代制提案も〉

 ビンズオン省労働・傷病軍人・社会事業局によると、7月25日時点では省内の3700社が「労・食・住」の集約を実施するか、外部に宿泊施設を確保し、従業員の移動を同施設と工場の1ルートに限定するか、のいずれかを実施し、生産を継続する計画を提出した。

 工場隔離を実施していた企業では7月以降、相次ぎ感染例が報告されている。ベニヤ板メーカーのロンベト木製技術の工場では、従業員200人以上のクラスター(感染者集団)が発生。ベトナム・シンガポール工業団地(VSIP1)で電子部品を製造する韓国系エステック・ビナでは、1700人中136人が感染。ほか17社も、クラスター発生により生産停止が命じられた。

 省政府からは、感染の要因として企業の対策の不十分さを指摘する声が出ている。ビンズオン省共産党委員会のグエン・ホアン・タオ副書記は「宿泊施設を確保する場合、人が密集する状況がうまれるだけで、そこからウイルスが工場に侵入している可能性がある」と話し、完全な工場隔離を実現するべきとの見解を示した。外部の宿泊施設は認めず、従業員の往来を「工場と医療施設」のみに変更する可能性を示唆した。

 ベトナム・豪州商工会議所のサイモン・フレーザー会頭は、ベトナム・インベストメント・レビュー(VIR)の取材に対し、「『工場隔離』の場合はワクチン接種の機会もあり、希望する労働者も多い」と前置きしつつ、「従業員を交代制で勤務させる必要がある」と述べ、経営者や管理者がリモート方式を含めた精神面のサポートに配慮するよう求めた。

 保健省によると、4月下旬以降の新型コロナ感染拡大第4波の市中感染者数はホーチミン市が累計10万人以上。それに次いで多いのがビンズオン省で、同省の感染者数は4日時点で2万人を超えた。ロンアン省、ドンナイ省など他の南部の省でも増加基調が続いている。

〈ナイキやアディダス、ウォルマートも〉

 ベトナムが実施している操業継続規制により、既に世界ブランドの調達には支障が出ている。特に衣服や靴など労働集約型の繊維関連では、ナイキやアディダスなどから受注生産する大工場が生産停止に追い込まれ、長期化すれば混乱が広がる懸念が出ている。

 VIRによると、ナイキ・ベトナムのサステナビリティー責任者、クオン・ルオン氏は「ベトナムには供給業者が約200社存在し、衣服や靴、アクセサリーの材料から完成品まで幅広い」と話した。サプライヤーの従業員数は50万人に及ぶ。

 感染拡大第4波は当初、北部2省(バクザン、バクニン)が中心だったが、その後は南部に広がり、台湾・宝成工業の現地法人ポウユエン・ベトナムや韓国系チャンシン・ベトナムなどナイキの大型サプライヤーが生産停止に追い込まれた。ポウユエンはアディダスの靴も生産している。

 米小売り大手ウォルマートや、スウェーデンの家具大手イケアなど向けにカーテンを生産するチン・フェン・ホーム・ファッションズ(本拠・ビンズオン省)も生産を一時停止した。

 電子機器では、北部2省の感染が拡大した5月以降、韓国のサムスン電子や米アップル社向け製品を受託生産する台湾・鴻海精密工業などの現地工場に影響が出た。2省の感染は抑制されつつあるが、ビンズオン省では台湾のパソコンパーツ大手アスロックの提携工場が操業停止となり、同社の7月の販売額で5~20%に影響が出るという。

 トヨタ自動車は今月、ベトナムの感染拡大で海外からの部品供給が滞ったことで、日本国内2工場の計3ラインを数日間停止すると発表した。7月には、このうち子会社のトヨタ車体富士松工場の一部生産を5日間停止している。

〈「投資有望先」の面目に影〉

 ベトナムはここ数年、中国からの代替生産国として注目され、世界のサプライチェーンに占める比重も高まっている。世界貿易機関(WTO)によると、オフィス・通信機器の輸出額は過去10年で年平均34%伸び、昨年は国・地域別で世界8位に浮上。衣服ではバングラデシュを抜き、中国と欧州連合(EU)に続く世界3位となった。縫製や電子機器の組み立てなど製造サービス輸出もEU、中国に続いて大きい。

 今年初めまではコロナの感染抑え込みに成功し、新型コロナ対策における「優等生」とされたベトナムだが、第4波に伴う規制が長期化すれば、有望投資先としての位置付けも色あせかねない。[NNA]