シリーズ事業戦略を聞く/クラボウ/顧客と共に回復の道を/JSFAにも積極的に参画/取締役兼常務執行役員 繊維事業部長 北畠 篤 氏

2021年09月01日 (水曜日)

 クラボウの繊維事業部は新型コロナウイルス禍によるダメージからの回復に向けて、取引先や提携先などパートナー企業と連携したビジネスの拡大を進める。繊維事業部長である北畠篤取締役兼常務執行役員は「繊維業界全体が打撃を受ける中、産地も含めた顧客と共に回復の道を進みたい」と話す。繊維・ファッション産業が持続可能な産業に移行することを目指す企業連合「ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)」にも設立メンバーとして参加した。JSFAの活動にも積極的に参画する。

  ――事業環境が変化する中、今後の事業の方向性は。

 当社の繊維事業は現在、「歓びと驚きをお客さまへ。ユア・ベスト・パートナー」をキャッチフレーズに掲げています。1993年から「ヒューマン・フレンドリー発想(人と地球の健やかな環境を考える)」を基本理念に掲げています。こうした考えの下、例えば伊藤忠商事さんとの戦略的パートナーシップによるサステイナビリティー商品の開発や、縫製工程で発生する裁断くずを紡績原料にアップサイクルして活用する「ループラス」といった取り組みがあります。ここに来て具体的な成果も上がっています。

  ――2021年度上半期(4~9月)の商況は。

 全体として回復傾向にあります。4~6月は世界的に新型コロナワクチン接種の進展による経済正常化への期待から、アパレルも生産を活発化させました。原糸は特に米国向けのオーダーが好調です。ユニフォーム地も流通在庫が徐々に正常化しつつあるため、堅調に推移しています。カジュアル素材も新規取引の開拓ができつつあります。原点に回帰し、生地開発に力を入れている効果が現われ始めました。ただ、多品種・小ロット・短納期化が一段と進んだことで生産性を確保する面で苦労も増えています。

 加えて、8月に入ってからの新型コロナ感染再拡大も脅威です。特に東南アジアでの感染拡大が懸念材料。タイとインドネシアの子会社は工場稼働を維持していますが、ベトナムも含めて委託生産先である協力工場の稼働が当局の指導による行動制限で低下しています。受注自体は旺盛なだけに、ここで生産が滞るのは打撃です。

  ――今後の戦略は。

 新型コロナ禍は急には収束しないでしょう。否応なく“ウイズコロナ”を余儀なくされます。そうした中、消費者の衛生意識が大きく変わり、衛生加工の需要が一段と大きくなります。このため抗菌・抗ウイルス機能繊維加工技術「クレンゼ」を長期的なブランドとして育てていきます。新型コロナウイルスへの抗ウイルス性もアルファ株やデルタ株など変異株も含めて確認しています。

 新型コロナ禍によって繊維業界全体が打撃を受けたわけですが、当社としては顧客と共に回復に道を進みたいと考えています。顧客や提携先との取り組みで収益を改善させるということです。そのためには、取り組みの中で当社の役割が明確なビジネスを構築しなければなりません。例えばループラスはその一つです。取り組み先も広がっています。エドウインさんのほか、ジーンズアパレルのITONAMI(岡山県倉敷市)さん、衣服生産プラットフォーム事業を手掛けるシタテル(熊本市)さんなどとの取り組みが始まっています。三井物産アイ・ファッションさんの「アンノウト」やサザビーリーグさんの「ロンハーマン」といったファッションブランドでも採用されました。産地との取り組みも進んでおり、一緒に展示会に出る話もあります。

 そのほか、フィルパワー850を実現した中わた材「エアーフレイクプレミアムライト」や原綿改質による機能糸「ネイテック」も期待の商品です。熱中症対策システム・ウエア「スマートフィット」も採用拡大が続いています。採用企業のシステムにアプリケーションとして組み込まれるケースが増えてきました。

 一方、多品種・小ロット・短納期化で国内外の工場いずれも生産量を高めることが難しくなっているという課題があります。そこでテキスタイルイノベーションセンター(愛知県安城市)で研究開発したスマートファクトリーの技術が効果を上げ始めました。これを海外工場にも導入します。

  ――伊藤忠商事と共同でサステイナブルな社会の実現を目指す「アパレルサステイナブルコンソーシアム」を立ち上げるとしていましたが。

 準備を進めていたのですが、ちょうど同じ時期に環境省の「ファンションと環境」タスクフォースの勉強会に両社とも参加しており、そのメンバーでジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)を立ち上げることになりました。当社も伊藤忠さんも設立メンバーになりましたから、今後はJSFAの活動に積極的に参画することで繊維・ファッション産業のサステイナビリティーを実現することを目指します。例えば政府への政策提言や消費者とのコミュニケーションなどに取り組みます。