特集 商社原料・テキスタイルビジネス/環境配慮が大きな方向性/トレーサビリティー確保に各社が動く/蝶理/帝人フロンティア/豊島/東洋紡STC/増井

2021年09月14日 (火曜日)

 商社はメーカーと違い、幅広い商材を取り扱えることが強み。各商社で縫製品OEM事業の比率が高まっているが、原料や生地でも商社が持つ強みは広範な品ぞろえにある。その商社で今、最も開発、提案が進められているのが、SDGs(持続可能な開発目標)関連商材だ。中でも環境配慮型素材の開発、提案が加速している。環境配慮型素材に続いて動きが活発化しているのが抗菌・抗ウイルス、UVカット、ストレッチなどの機能素材だ。

 環境配慮型素材の切り口も多様さを増す。再生ポリエステル、オーガニックコットンを筆頭に、二酸化炭素排出量や水使用量を低減する取り組み、天然繊維である綿や麻、ウール、和紙、カポック、竹、各種セルロース繊維など日を追うごとに切り口は多様化している。

 切り口の多様化と同時並行的に進んでいるのがトレーサビリティーの確保。例えばオーガニックコットンでは2020年10月にインドでオーガニックコットン認証の大規模な不正行為が発覚した。これにより価格は高騰し、供給量も激減。商社がトレーサビリティー確保に動くのは当然の流れだ。

 日本の製品は元々、世界的に信頼され、ジャパンブランドとして評価されている。日本の商社が狙うのは、この従来からの信頼感に明確なトレーサビリティーを加えた盤石の安心・安全商品を国内外に拡販すること。商社における原料・テキスタイルビジネスの重要性は増すばかりだ。

〈蝶理/「エコブルー」商材拡充/ニーズの多様化に対応〉

 蝶理の原料・テキスタイルの販売状況は着実に回復へと向かっているという。そうした中で特に販売を伸ばしているのが、再生品などの環境配慮型商材だ。ただし、この分野の商材に対するニーズも細分化の傾向にあり、量だけでなく品質や多様性も求められ始めている。この分野でさらにシェアを拡大するため、品ぞろえを拡充していく。

 再生ポリエステルの糸のブランドとして展開してきた「エコブルー」のシリーズ化に乗り出した。再生ナイロン糸なども商材に加えた上で、商品群を四つのカテゴリーに分けて提案する。

 廃ペットボトルを原料とする再生ポリエステル糸は「ファースト」に分類した。リサイクルペレット押出機を導入し、原料から糸が完成するまで一気通貫の生産体制を整えた。ファーストはチップから供給しており、用途はスポーツ・アウトドア、ワーキング、インテリア、カーシートと多岐にわたる。

 「ループ」は、さまざまな廃繊維を原料としたリユース・リサイクルで、北陸産地で取り組み始めた。素材の複合くずの反毛化、ナイロンくずなどをわたにしての短繊維化などのパターンがある。

 「オーシャン」は、国内の特定ルートで回収した廃漁網を原料とした再生ナイロン糸。太番手から細番手までそろえる。ナイロン糸については、バイオベース原料の「アース」の開発を進める。

 独自の高伸縮機能糸「テックスブリッド」も、時代の変化に対応するため進化を加える。6月に子会社化したスミテックス・インターナショナルが得意とする綿などの天然繊維と組み合わせ、快適性のニーズにも応える。

〈帝人フロンティア/環境配慮型素材軸に成長を/国内外で生産拠点強化〉

 帝人フロンティアの衣料素材本部は、環境配慮型素材の拡大を軸とした成長戦略を進めている。衣料素材本部が販売する原料とテキスタイルのうち、環境配慮型の比率は2021年度(22年3月期)で約3割だが、積極展開して比率を高める。同時に国内外の生産拠点の強化も図っていく。

 全体的な市況感は前年と比べて回復傾向にある。特に順調なのはグローバルアウトドアアパレルで、顧客によっては新型コロナウイルス禍前よりも良い水準にある。ユニフォーム関連ではクリーンルーム向けの防じん衣が復調。衣料素材本部の4~6月期の販売も計画を上回った。

 そうした状況下で、原料とテキスタイルの両方で引き合いが増えている環境配慮型素材の展開強化を下半期以降の戦略の柱に据えている。再生ポリエステルの総合ブランドである「エコペット」による機能糸の幅を広げるとともに、バイオ由来の素材や原着糸などにも力を入れる。

 テキスタイルでは非起毛立毛構造体と「オクタ」の技術融合により、保温力と汗処理を両立した環境配慮型の快適保温生地「サーモフライ」などの訴求を強める。同生地は繊維の抜け落ちが起こりにくいため、海洋マイクロプラスチックの発生抑制につながる。

 生産面では、北陸産地との連携で国内を維持しながら、海外を拡充する方針で、22年度にはインドネシアでのニットのオペレーションを本格化する。同国内やタイの機能糸・特殊糸を使って、協力工場で編み立てる。従来は日本アパレル向けでの取り組みだったが、グローバルスポーツアパレルに提案する。

〈豊島/幅広い原料の糸を展開/SDGs見据えた打ち出し〉

 豊島は綿やウールといった天然繊維から、ポリエステルをはじめとした合繊までと幅広い原料を使用した糸をそろえる。SDGs(持続可能な開発目標)の観点から環境配慮やリサイクル、トレーサビリティーといった打ち出しを進めている。

 近年、特に提案を強めているのがトルコ産のオーガニックコットン糸「トゥルーコットン」だ。サステイナビリティーやトレーサビリティーを実現しており、時流に沿った素材として引き合いは増加している。実際、衣料品を中心に採用例も着実に増えつつある。

 トゥルーコットンは「生産者の顔が明確に見える」をコンセプトに掲げる。独占契約を結んだトルコの大手紡績グループ・ウチャクテクスティルが万全な管理体制を構築する。綿花の生産農場から紡績までの工程を一元管理することでトレーサビリティーを実現している。

 食品廃棄のリサイクルに着目したプロジェクトが「フードテキスタイル」だ。食品会社や農園から買い取った規格外の食材や野菜の切れ端などから染料を抽出し活用する。これまで捨てられていたものを生まれ変わらせることで新たな価値を見出しており、糸や生地、製品で展開する。

 ナチュラルな色合いが特徴で、50種類の食材を活用し500色という豊富なカラーバリエーションを誇る。廃棄食材の再利用という点だけでなく、豊島が流通経路や生産工程を徹底することでトレーサビリティーも備える。

 今年で展開から7年を迎え、知名度は徐々に向上している。ファッション衣料向けだけでなく、ライフスタイル全般に広がっている。

〈東洋紡STC/SDGsを前面に/「環境」と「人権」を重視〉

 東洋紡STCの原糸販売事業は、世界的にSDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けた企業活動への要請が強まる中、SDGsを前面に打ち出した糸提案を進める。

 同社はさまざまな原料の中でも、特に綿をSDGsの推進に貢献できる素材と位置付ける。生分解性があり、物質レベルではカーボンニュートラルである点が環境配慮素材として優位性があると見る。

 このためオーガニック素材の国際認証である「グローバル・オーガニック・テキスタイル・スタンダード(GOTS)」取得のオーガニックコットンや、サステイナブルな科学的農法で栽培される米綿を使った「コットンUSA」、綿花栽培の持続可能性プログラム「ベター・コットン・イニシアチブ(BCI)」などの認証を受けた原綿を活用した糸開発と提案に取り組む。

 これら認証は環境負荷低減だけでなく、綿花栽培の労働環境なども配慮されており、「環境」と「人権」を重視した原料調達と商品提案を重視する。これに独自の改質や加工技術を組み合わせることで独自性のある付加価値を実現する。例えば原綿改質による吸汗速乾機能糸「爽快コット」、消臭機能糸「デオドラン」がある。未利用綿(落ち綿)も積極的に活用し、「エコット」として商品化した。

 繊維製品の製造拠点がグローバル化するのに合わせ、国内と海外を問わない開発・生産体制もメーカー系商社としての強み。国内工場で小ロット生産を可能しながら、海外で大ロットの生産にも対応する。

〈増井/サステ対応糸を充実/独自糸の開発にも注力〉

 増井(大阪市中央区)はサステイナビリティー対応糸を充実するとともに、独自糸の開発に力を入れる。シルク販売を祖業とする同社だが、現在は化合繊、天然繊維まで幅広い糸種を取り扱うほか、テキスタイル販売にも力を入れる。

 新型コロナウイルス禍の影響を受けた糸売りだが、2021年12月期は改善傾向にあり、先行き不透明感が強まるものの、前期比約10%増収、利益も増やす計画だ。そのためにもサステイナビリティー対応糸を強化する。

 レーヨン長繊維は土中での生分解性を訴求してきたが、さらにFSC認証の中のCoC(加工・流通過程)認証の取得にも動く。調達先はFSC認証のFM(森林管理)認証を取得するが、認証林から収穫した認証材が消費者に届くまでを認証するCoCの要望が強まっているため。10月末には取得できる見通しで、紡績糸でも活用する。

 合繊はペットボトル再生糸「エコリンク」に力を入れる。先染糸シリーズ「ミコルトーン」でもペットボトル再生糸タイプをそろえる。調達先はリサイクル製品の「GRS」認証を取得する。同社はエコマーク認証を取得済みで、自社でGRS認証取得も検討する。

 綿糸は長綿で高白度、タオル向けで評価が高いウズベキスタン製「サマルカンダリア」のオーガニック綿使いの本格販売も始める。調達先はオーガニックコットン認証の「OCS」も取得する。

 同時にレーヨン長繊維使いを中心に独自の加工糸開発も強化する。他素材と複合化することで機能糸開発を進める。糸売り先が厳しい環境下だけに川中企業を支える一環でM&Aも検討する。