特集 アジアの繊維産業Ⅱ(2)/コロナショック下の日系企業は今/ベトナム編/ロックダウンで活動停止/豊島ベトナム/シキボウ/清原ベトナム

2021年09月22日 (水曜日)

 ベトナムでは新型コロナウイルス感染拡大により厳しいロックダウン(都市封鎖)が敷かれた(9月上旬時点)。自宅待機が続き、買い物などの外出もできない。工場はスタッフが工場に寝泊まりし、細々と稼働を続ける例もあるが、日系各社によると8割ほどが稼働を停止した。21秋冬物の納期遅れが頻発するのは必至だ。ただし、政府はワクチン接種を急ピッチで進め、「経済活動を元に戻す」という。脱・中国を進める欧米諸国も依然、同国繊維産業に熱い視線を向けている。ロックダウンによる瞬間的な被害はあるものの、中長期的にベトナム繊維産業が再び成長曲線を描くことは間違いなさそうだ。

〈GDP成長率予想引き下げ〉

 英スタンダードチャータード銀行は9月上旬、ベトナムの2021年における国内総生産(GDP)成長率予想を6・5%から4・7%に、22年のGDP成長率予想を7・3%から7・0%へとそれぞれ引き下げた。予想引き下げの理由は、経済指標の低迷や新型コロナの感染拡大、新型コロナワクチン接種の遅延によるものだ。引き下げは今年に入って3回目となる。

 6月までのベトナム繊維産業は、欧米ブランドの脱・中国の動きやミャンマーの政情不安などを背景に受注量を拡大させていたが、変異種のデルタ株による第4波が到来し、状況が一変した。

 豊通ファッションエクスプレス〈ベトナム〉の自社縫製工場は7月19日から50%稼働を強いられ、8月23日からは生産停止を余儀なくされた。対日の納期遅れは必至で、2カ月ほどの遅れが生じる可能性もある。

 三井物産アイ・ファッションの協力工場も約9割が稼働停止となった。「下半期や来期の業績に影響が出てくるだろう」と懸念を強めている。ヤギ・ベトナムの協力工場も8月末時点で90%近くが稼働停止に陥った。

 自社工場を持つ島田商事ベトナムはロックダウン下でも人数を絞って稼働したが、稼働停止の縫製工場が多いため、納品の停止、延期、保留が多発した。清原ベトナムでは対日縫製品向けの服飾資材販売が堅調に推移していたが、ロックダウンの影響から特に内需用が急減し、ミャンマー、カンボジア向けも減少した。

 伊藤忠テキスタイル・プロミネント〈アジア〉(IPA)のベトナム事業も6月まで「欧米向けが一気に増えた」ことで好調な推移だったが、7月以降は協力工場の稼働停止が相次ぎ、出荷が停滞している。

〈生産体制の再構築は必至〉

 今後については「コロナ次第」という点で日系各社が口をそろえる。ベトナムなどASEAN各国で新型コロナ感染拡大が続いているため中国への回帰が一部で見られるのも事実だ。ただし、「マクロ、かつ中長期で見ればベトナムの優位性は揺らがない」というのも共通の見解として示される。欧米各国が新彊・ウイグル自治地区での強制労働問題を理由に脱・中国を進めているほか、人口やGDPの拡大が今後も確実視されるためだ。

 「東南アジアにおける中長期的なベトナムのプレゼンスは変わらない」(シキボウ)、「一時的に周辺国へのシフトが見られるが、コロナ収束後には戻ってくる」(島田商事ベトナム)、「22秋冬物からベトナムに戻る」(ヤギ・ベトナム)などアフターコロナについては楽観的な見通しが多い。

 そのために各社が取り組むのが、サプライチェーンの分散。南部に集中している協力工場を、感染拡大の少ない中部や北部に分散させるほか、周辺国との連携も重要になる。「サプライチェーンの断絶を商機と捉え、新たな体制を構築していく」(三井物産アイ・ファッション)との声も挙がる。

 サプライチェーンの分散に加えて中長期の課題になるのが内販だ。IPAがベトナム内販の先駆者として現地大手小売りへの製品販売を拡大させているほか、ヤギ・ベトナムなども鋭意トライを続けている。

〈豊島ベトナム/魅力的なサプライチェーン提案〉

 豊島ベトナムは、新型コロナウイルス感染再拡大が始まった今年6月までは前年並みの受注を確保していたが、以降は苦戦が続いている。

 ホーチミンの事務所スタッフは6月21日から政府の指示に従って在宅勤務中(9月上旬現在)。郊外にある自社工場は7月13日から稼働率6割で操業している。協力工場については、南部は多くが休業しているものの、北部はほぼ通常通りの操業という。

 ロックダウン下で国内外への出張の機会がなく、対面商談ができない中、オンラインコミュニケーションツールの活用を進めているが状況は厳しい。

 素材調達の面では、6月まではコンテナ不足などの影響があり多少不安定な状況だった。7月以降は新型コロナ感染拡大による人的問題で輸入通関でも遅れが生じ、日本、中国からの原材料、服飾資材の調達にも時間を要するになった。

 下半期、来期に向けては「安全でグローバルなサプライチェーンの構築に改めて努める」方針。現時点でロックダウン下にあるベトナムへの引き合いが減少しているのは事実だが、「生産地としてのベトナムは今後も大きな可能性を秘めている」と見る。

 日本本社や中国、東南アジア、南アジアの各拠点との情報交換など連携を強め、「魅力のある差別化したサプライチェーンを提案していく」考えを強調する。

〈シキボウ/アフターコロナに備える〉

 シキボウは2020年1月にベトナム・ホーチミンに事務所を開設し、ASEAN地域での繊維事業強化を進めている。現在の主要業務は現地の協力紡績工場で生産する糸の管理やインドネシアの関連会社と連携した情報収集。米中貿易摩擦、新疆・ウイグル自治地区の強制労働問題などを背景にベトナムの“地位”が相対的に高まり、糸や生地、資材に至るまでの一貫生産体制構築が進められている。その中で、周辺第三国向けを含めて、糸の需要も旺盛だったが、新型コロナウイルス感染拡大の第4波が到来して需要が減退している。

 第4波が到来して以降、ベトナム政府が発出したロックダウンにより工場は操業停止に追い込まれた。とりわけ感染拡大が顕著な南部の工場は8割以上が操業を停止している。

 ただ、同社は「東南アジアにおける中長期的なベトナムのプレゼンスは変わらないため、引き続き環境配慮型商材の開発、販売に注力していく」とアフターコロナを見据える。

 一時的に調達国の見直しも出ているが、ワクチン接種が進めばASEANシフトの流れは変わらないと推測。「規制緩和後は一気に需要は回復するはず。RCEP(地域的な包括的経済連携)の発効も視野に入れながらアジアの自社・協力工場をバランスよく活用していく」考えだ。

〈清原ベトナム/現地調達の要望に応える〉

 服飾資材商社の清原(大阪市中央区)は2015年8月にベトナム法人、清原ベトナムを立ち上げ、現地での服飾資材調達と開発、販売に力を入れている。

 21年度上半期は、20年度にあったマスクや防護服用資材など新型コロナウイルス禍の特需が減少した一方、地産地消の流れを受けて対日服飾資材は拡大した。

 ベトナムではロックダウンが発令され、自宅待機や外出禁止の状況にある(取材時)が、対日服飾資材は堅調な推移となっている。ただし、ロックダウンの影響から内需用が減少し、ミャンマー、カンボジア向けも減っている。

 ロックダウンによる経済状況の悪化は避けられないとみる。少なくとも今年度中は厳しいと予測する。しかし、今後も脱・中国というスローガンの中で引き続き中国からASEANへの生産シフトの流れは強まり、ミャンマー、カンボジアなど周辺国からベトナム縫製への切り替えも進むと読む。伴って資材関連もベトナム国内で調達する要望が増えるため、「品質強化、商品バリエーションを武器に」この需要を取り込んでいく。

 短期的には現地での営業活動が制限されることから、日本を含めた3国間貿易の拡大を狙うとともに、次年度に向けて現地協力工場との関係強化を改めて図る。