明日へ 縫製編 (31) キップス

2021年10月15日 (金曜日)

切り口や目線を変えて

 「縫製という仕事は変わらないが、切り口や目線を変えた」――東京都墨田区の企業、キップスの田中康雄専務(34)はそう語る。変化から生まれたのが墨田区内の異業種との連携で、ユニフォーム製造や物販支援へと広がる。「やりたいことはまだいっぱいある」とし、これからも挑戦を続ける。

 丸編み地製造として1916年創業。田中専務の曽祖父、田中三弥蔵氏が立ち上げた。三弥蔵氏の弟の信吉氏が独立して裁断・縫製業を営んだが、三弥蔵氏の死去に伴い再び一つの工場になった。3代目社長の正右氏(田中専務の祖父)の時代にはベビー・子供服の縫製が主力に変わっていく。

 社名をキップス(KIPS)に変更したのは88年。キッズ、アイデンティティー、プランニング、サポートの頭文字を組み合わせた。仕事内容は婦人服縫製へとシフトしていく。その後、正右氏の長男が4代目社長に就くが、不慮の事故に遭い社会復帰が難しい状態となり、4代目の弟の康裕氏が5代目として立つ。

 田中専務は康裕氏の長男。家業を継ぐつもりはなく、大学卒業後はコンタクトレンズの販売会社に勤めていたが、父に呼び戻される。転職活動を始めていた時期でもあり、キップスに入ることに抵抗はなかった。ただ「“あやふや”な専門用語が多く、正解の意味が書かれている辞書もない」ことには戸惑った。

 入社後は自家工場でミシンを踏み、桐生の刺しゅう工場やプリント工場で研修を重ねた。ビジネススクール「フロンティアすみだ塾」でも学び、これまでと同じことをしていてはいけないと知った。既存顧客とのビジネスが減少傾向にある中、取引先を増やす必要もあった。

 その一環として始めたのが、墨田区内の町工場や喫茶店などとの連携による独自ユニフォームの製造だった。ステンレス研磨会社との取り組みでスタートしたが、現場を視察してどのような機能が必要かキップス側から助言を行う。提案型のフルオーダーメードユニフォームと位置付けている。

 同じ墨田区内で営業する喫茶店「東向島珈琲店」のエプロンも製作した。同店は幅広い層から支持される人気店で、イベントなども開催している。同店から「独自のTシャツを作って販売したい」という話が持ち上がり、その手伝い(Tシャツ製造)にも乗り出した。

 「やりたいことはまだまだある」と田中専務。その一つが自家工場の田中ニット鮫川工場がある福島県鮫川町の活性化だ。同村は過疎化が進んでおり、「当社の工場だけが存続することは考えられない。近隣には企業や牧場なども存在しているので地域で連携しながら何かができれば」と話した。

(毎週金曜日に掲載)