2021 秋季総合特集(9)/トップインタビュー/ユニチカ/自社の強みに磨きかける/常務執行役員 機能資材事業本部長 竹歳 寛和 氏/ガラス繊維織物を伸ばす

2021年10月25日 (月曜日)

 ユニチカグループは2020年4月から中期3カ年計画「G―ステップ30ファースト」をスタートさせた。同時に機能資材事業本部を新設し、傘下にACF、ガラス繊維、ガラスビーズ、不織布、産業繊維の5事業部を配置。機能資材を統合し、より総合力を発揮できる体制に再編した。中計初年度の20年度は連結売上高1103億円、営業利益60億円の減収増益。新型コロナウイルス禍に見舞われながら、まずまずの業績を確保した。中計の残る1年半をどう乗り切っていくのか、竹歳本部長に聞いた。

  ――混迷の時代を迎えています。

 世界の政治情勢が流動化しています。地球温暖化が進行し、これに対してSDGs(持続可能な開発目標)への対応が先進国を中心に本格化してきました。余計だったのが新型コロナウイルス禍ですが、デジタル化が加速し、在宅勤務が当たり前になり、ウェブを使っての会議が日常的になってきました。この傾向はこの先も変わらないでしょう。

 一方、今後も消費が伸びていくのかというと、決してそうではないでしょう。環境問題との関連で、無駄なものを作り続けることが罪悪視されるような時代になってきました。繊維・ファッション業界では、これまで100の需要に対して200も作ってきました。こんなことが今後も通用するはずがありません。ボリュームが期待できない時代に突入したと言えるのかもしれません。

 こういう難しい環境を乗り切っていくための奇手・妙手はありません。自社の強みを発揮できる分野で戦っていくしか生き残る道はありません。基本に忠実な事業運営を徹底しながら、次の成長を担う事業を育てていくことが重要だと考えています。

  ――昨年は新型コロナ禍に苦しめられた1年間でした。

 当部門の場合、新型コロナ禍に伴うマイナスよりもプラスの方が大きかったというのが実態です。アイソレーションガウン向けのスパンボンド、スパンレースが増えましたし、ポリエステル短繊維も海外のマスク向けの販売が好調でした。

 昨年は4月に組織改正を実施しています。初年度でその効果を出すことはできませんでしたが、今年からぼちぼちプラスの効果を発揮させなければなと思っています。

  ――ユニチカの強みはどこにあると考えていますか。

 当本部の場合ははっきりしていて、ガラス繊維による電子材料に強みがあります。販売量の伸び率を見ても全ての商材の中でトップに立っているのが電子材料で、この間の新型コロナ禍の影響もほとんどありませんでした。半導体そのものや半導体を製造する装置に使われているケースが多く、国内販売よりも中国、韓国、台湾向けの輸出に勢いがあります。

 海外のユーザーとはウェブ会議による打ち合わせに力を入れています。中国、米国では現地法人がフォローしています。半導体業界は絶好調と言われてきましたが、第3四半期を迎えて踊り場を迎えつつあるとの見方が出始めました。

  ――不織布事業の近況はいかがですか。

 スパンボンドでは自動車関連用途向けの販売が回復してきました。生活資材やクリーンルーム用フィルター向けも復調しています。海外は好調を続けています。タイのタスコは1号機、2号機とも前年並みの稼働を続けており、増設した3号機の稼働率もじわじわと上がってきました。スパンボンドの業績は21年度、国内、海外ともかなり改善が進む見通しです。問題は新型コロナ禍に伴う物流の混乱です。フレートコストが2~3倍に跳ね上がりました。タイで地産地消に取り組まなければと考えています。

 コットン100%のスパンレース「コットエース」は苦戦を続けています。当本部でなかなか調子が戻らないのは「コットエース」くらいです。新型コロナ禍でインバウンド需要が激減しただけでなく、コロナ禍で人流が抑制され制菌シートのような商品が売れなくなったのが原因です。次代を担う商材の開発を急がなければなりません。コンクリートを養生するときに使うシート「アクアパック」の販売は着実に増えてきました。

  ――ポリエステル長短繊維の状況は。

 ポリエステル短繊維ではフィルター向けの特化原綿がほとんどを占めており、こちらは順調です。日本のメーカーならではの技術力を背景とする商材では今後も戦っていけるとみています。ポリエステル短繊維の定番品の相場は1~1・1ドル近辺で推移しており、これでは加工費も賄えません。抄紙向けの販売は今後も順調に伸びていくでしょう。

 ポリエステル長繊維では、増産を実施した高強力糸の設備稼働が当初計画よりも遅れています。2成分を貼り合わせたバインダー繊維構造をしているため、例えばネットを作る時にバインダーが溶けて樹脂化しネットそのものをしっかり固めることができます。販売面では、建築向けが第2四半期から回復してきましたが、一度は回復へと転じた土木向けがここにきて腰折れ気味です。

  ――連結業績を19年度の売上高1195億円、営業利益55億円から22年度をめどに1470億円、110億円に引き上げる中期3カ年計画に取り組んでいます。

 今後も電子材料向けのガラス繊維織物の販売を伸ばしていきます。工業資材系のビジネスは今後も手堅く推移していくでしょう。産業繊維では国内の大きな伸びは期待できません。苦戦を続ける「コットエース」は昨年よりも改善が進むでしょうが、大きく反転させられるかどうかはインバウンドの動向次第です。

〈私のターニングポイント/「Z-10」織物開発で先駆ける〉

 ユニチカに入社後12年が経過した34歳の時、婦人ニットから婦人織物担当への異動が「大きなターニングポイントになった」と振り返る。ニットに比べて織物は何といってもマーケットが巨大。当時は「海外にも売り込みに行き始めた」タイミングだったそうで、忙しい毎日が続いたようだ。撚糸をかけるとストレッチ性が発現することを発見し、ニットの販売が先行したストレッチ「Z―10」の「織物の販売をスタートさせたのは私」と当時の奮闘ぶりを懐かしんでいる。

〈略歴〉

 たけとし・ひろかず 1983年4月ユニチカ入社、13年7月執行役員特需部担当ユニチカトレ―ディング代表取締役社長兼任、16年4月上席執行役員繊維事業副本部長兼特需部担当ユニチカトレ―ディング代表取締役社長兼任、19年4月上席執行役員機能材事業本部長、20年4月常務執行役員機能資材事業本部長。