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2021 秋季総合特集(10)/top interview/帝人/地産地消が大きな潮流に/取締役常務執行役員 内川 哲茂 氏/順調な時に次の手を打つ

2021年10月25日 (月曜日)

 帝人は、2021年9月に現中期経営計画の中間点を迎えた。中計は新型コロナウイルス感染拡大下での始動だったが、アラミド繊維の需要は旺盛な状況が続き、同社マテリアル事業統轄も積極的に伸ばすと意気込む。低迷した航空機用途向けの炭素繊維も復調の兆しが見えつつあり、需要に応えるべく体制を整える。中計の後半戦に突入する下半期以降も順調に推移すると予想するが、内川哲茂取締役常務執行役員は「順調なうちに次の手を打つ必要がある」と強調し、次の中計や10年先を見据えた施策を進める。

  ――日本を含むアジアの生産体制はどのように変化するのでしょうか。

 国と国との分断は以前からあったのですが、今回の新型コロナ禍によってサプライチェーンが分断されるという事態に陥ってしまいました。半導体が端的な例と言えるのではないでしょうか。半導体を製造・供給する国・地域のロックダウン(都市封鎖)によって自動車の生産に大きな影響を及ぼしています。他の製品もアジアで作って、欧米へという流れが途切れてしまいました。

 こうしたことから地元で生産された物を地元で消費するという地域生産・地域消費、いわゆる地産地消がこれまで以上に大きな潮流になりつつあります。グローバル化はこれからも進むことに変わりはないのですが、各国・各地域で地産地消の輪が構築され、その輪がつながるという図式が出来上がっていくと予想しています。これからは地産地消の輪を分断せず、つなぐことが求められるのではないでしょうか。

  ――変化したものに対応するには。

 輪の全てに応じられるわけではなく、自分たちでできる輪を作っていけば良いと考えています。その輪の一つがエコシステムです。ポリエステルのケミカルリサイクル技術をライセンス展開するのもその一環です。グループ会社の帝人フロンティアが展開していない地域では、われわれがケミカルリサイクルの輪を作ります。ポリエステルだけでなく、アラミド繊維や炭素繊維のリサイクルも同様ですが、誰と輪を作るのかが大切だと思っています。

  ――マテリアル事業統轄における21年度上半期(4~9月)の業績は。

 事業によって凸凹はあるのですが、新型コロナ禍の中でも需要は総じて回復に向かい堅調だったと言えます。アラミド繊維は、需要が回復していたのですが、パラ系の「トワロン」が生産設備増強に伴う定期修理のタイミングとちょうど重なってしまったこともあって販売機会のロスになってしまいました。現在は迷惑をかけてしまった顧客に対して全力でデリバリーを行っています。年間では着実に数量を伸ばせるでしょう。

 炭素繊維はこれまで航空機用途で盛り上がりを欠いていました。当初は24年ぐらいまでは回復は難しいとみていましたが、国内線を中心に想定していたよりも早く復調の兆しが見えてきました。風力発電ブレード用途で旺盛な需要が続いているほか、レジャー用途も底堅い動きを維持しているなど、良い風が吹いています。アラミド繊維や炭素繊維などの素材事業は回復基調の流れの中にあります。

  ――新型コロナ禍が続く中で、経済や事業環境をどのように捉えていますか。

 20年度前半は自動車の生産が止まったことが大きく影響しましたが、いち早く回復しました。自動車自体は新型コロナ禍でも需要が減らなかったようですが、欧州などで電車通勤から自動車通勤に切り替えた人がいたという話を聞きました。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による外出自粛で巣ごもり需要が増え、タブレットやスマートフォンなどのモバイル機器も伸びました。

 こうしたことなどから新型コロナ禍は続いているものの、経済自体は悪くないと思っていました。しかしながらここに来て半導体をはじめとするサプライチェーン分断が顕在化してきました。中国の電力問題もあります。コンテナ不足によるデリバリーの遅延をはじめとするロジスティックスの問題も残っています。これらがどれほど深刻になるのかは分かりませんが、懸念材料であることは間違いないでしょう。

  ――下半期はどのような方針の下で事業を進めますか。

 アラミド繊維、炭素繊維ともに旺盛な需要が継続すると予想し、きちんとモノ作りを行い、販売に全力を傾けます。トワロンは上半期に販売機会損失があったので、はそれをキャッチアップし、順次行っている能力増強分でしっかりと顧客に供給します。トワロンの25%増強は22年春に完了予定ですが、少しでも前倒しできるよう取り組みます。パラ系の「テクノーラ」、メタ系の「コーネックス」の販売も伸ばします。

 炭素繊維は航空機の需要が戻ってきましたので、他の用途に振り向けてきた製品を元に戻して対応するほか、北米の炭素繊維工場も早く立ち上げたいと考えています。こうしたことによって航空機用途はもちろん、風力発電ブレードやレジャー用途の需要にも対応していきます。

  ――国・地域ではどこに重点を置いていますか。

 トワロンは増設もあるので全世界で販売拡大を志向していますが、その中でも需要の伸びが大きい中国市場向けの販売を伸ばしたいと考えています。光ファイバーケーブル向けなどが狙いです。中国メーカーも攻勢をかけてくると思いますが、われわれは品質もコストもナンバーワンと自負しており、優位性は発揮できます。炭素繊維は宇宙領域などにも目を向けています。

 現在は順調といっても良い状況ですが、順調なうちに次の中期経営計画や10年先を見据えた手を考えておかなければならないでしょう。例えばCO2の削減が言われますが、その先はもっと環境に良いことが求められるでしょう。今から準備が必要だと思っています。

〈私のターニングポイント/顧客企業への出向と海外赴任〉

 1994年12月に顧客企業へ出向する内川さん。これがターニングポイントの一つになった。大手企業のように会社の資金ではなく、経営者自身の金で事業を運営することの厳しさに直面し、「石にかじりついてでも成功するという気概を感じた。やるべきことをやることにストレスはないと知った」と言う。オランダのテイジン・アラミドへの赴任も転機だった。企業買収とその融合を目の当たりにし、多様な意見を持つ人と議論を重ねる機会を得た。本社とは違う会社での経験が内川さんを形作った。

〈略歴〉

 うちかわ・あきもと 1990年帝人入社、2017年帝人グループ執行役員マテリアル事業統轄補佐兼繊維・製品事業グループ長付、20年複合成形材料事業本部長、21年4月帝人グループ常務執行役員兼マテリアル事業統轄(現任)などを経て、同年6月取締役常務執行役員。