秋季総合特集Ⅱ(4)/トップインタビュー/クラボウ/サステイナビリティーの意識高まる/社長 藤田 晴哉 氏/次期中計で新たな事業基盤を構築

2021年10月26日 (火曜日)

 「新型コロナウイルス禍で“ニューノーマル”(新常態)の生活様式が求められる中、消費者の間で新しい価値観が広がっている」とクラボウの藤田晴哉社長は指摘する。特にサステイナビリティーへの意識が急速に高まっている。こうした変化に対応するサプライチェーンや生産プロセスが一段と重要になると強調する。同社も現在、こうした要求に応える生産プロセスやサステイナブル商材の拡充に努めている。来期(2023年3月期)から新しい中期経営計画もスタートする。新たな事業基盤の構築に取り組む。

  ――今後、繊維の生産拠点やサプライチェーンはどのように変化するのでしょうか。

 新型コロナ禍を経て消費者の間でサステイナビリティーへの意識が急速に高まったことを感じています。やはり“ニューノーマル”の生活様式が広がる中で、従来型の生活様式に対する反省や危機感が生じているのでしょう。日本政府も50年にカーボンニュートラルを実現すると宣言したように世界もサステイナブルな方向に大きくかじを切っています。このため生産活動の際に発生する二酸化炭素をどのように減らすのか、あるいは廃棄物の削減をどう進めるのかがますます問われるようになりました。加えて、サプライチェーン全体での人権問題もクローズアップされています。今後、こうした問題意識に応える生産プロセスやサプライチェーンが求められることになります。

 繊維は大量生産、大量消費、大量廃棄を前提とした仕組みをどうするかという問題もあります。各企業が得意とする用途で、地産地消の重要性が高まるのでは。その上でサーキュラー・エコノミー(循環経済)が拡大することになり、使用済み繊維製品や裁断くずなどのリサイクル、アップサイクルの重要性はますます高まります。

 一方で、こうした新しい生産背景やサプライチェーンを実現させるためには、法整備も必要でしょう。例えば、回収した使用済み繊維製品や裁断くずは産業廃棄物と規定されているため、国内でも自治体をまたいだ移動に制限があります。リサイクル原料となる廃プラスチックの輸出入も中国や東南アジアでは事実上、禁止されています。こうした問題をクリアするための国際的な枠組みができれば、東南アジアなどでもサステイナブル素材の生産が拡大していくのではないでしょうか。それに合わせて混率表示などのレギュレーションも再整備される必要があります。

 問題は、こうした取り組みはいずれも生産・流通コストが大きくなるということです。それを消費者がどこまで受け入れるかが重要になるでしょう。そのためには、サステイナビリティーの意味に加えて、商品としてのモノの良さもメーカーがしっかりと発信していくことが欠かせません。

  ――今期(21年3月期)も上半期(4~9月)が終わりました。

 4~6月は計画に対して業績も上振れするなど堅調に推移しましたが、7~9月は新型コロナ感染の拡大第5波の影響で思わしくありません。ただ、今期は上半期まで新型コロナ禍の影響が続くと想定し、下期型の計画を組んでいましたから、今のところ計画を上回って推移しています。問題は下半期です。ここに来て原燃料や物流費が高騰しており、収益圧迫要因になっています。自動車関連商材も世界的な半導体不足による生産台数減少の影響がどこまで出てくるかが懸念材料です。

 繊維事業は原糸が欧米向けを中心に堅調でした。国内も需要が回復傾向です。世界的に在庫水準が低下しているのが要因です。特に原綿改質による機能糸「ネイテック」が好調です。徳島工場(徳島県阿南市)の加工設備も増強中です。裁断くずをアップサイクルする「ループラス」も今治タオル産地や奈良靴下産地、播州織産地との取り組みが始まります。ユニフォームは流通在庫の整理が進み、荷動きが回復してきました。電気・電子技術分野の国際規格であるIEC規格に対応した高制電素材「エレアース」などエンドユーザーのニーズを意識した商材も増えています。一方、カジュアル用途は厳しい環境が続いています。生産拠点であるベトナムなどで新型コロナ感染が拡大し、ロックダウン(都市封鎖)が実施された影響が出ています。ただ、新規取引先の開拓が少しずつ進んでいます。ループラスの引き合いも多いです。海外子会社も比較的堅調でした。

 化成品事業は自動車向けや建材が苦戦ですが、半導体製造装置向け製品が絶好調です。倉敷繊維加工(大阪市中央区)もフィルターやマスク材が好調でした。環境メカトロニクス事業は計画通りです。

  ――今後の課題と戦略は。

 今下半期は、来期から始まる新中期経営計画の策定に取り組みます。キーワードは、やはり「サステイナビリティー」です。従来の事業基盤を底上げしながら、新しい基盤事業をどうやって作り上げるかがテーマです。

 繊維事業は、ネイテックやループラスのほか、熱中症対策システム・ウエア「スマートフィット」、フィルパワー850を実現した中わた材「エアーフレイクプレミアムライト」などの拡販を進めます。抗菌・抗ウイルス機能繊維加工技術「クレンゼ」も定番化させます。生産プロセスの革新で国内工場の効率を高めることも必要。その上で、海外工場にも技術導入を進めます。提携する伊藤忠商事さんらとともにジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)の創立メンバーにもなりました。これから具体的な活動をスタートさせます。

 化成品事業はカーボン補強繊維基材や建設用3Dプリンターなど新しい商材も増えてきました。環境メカトロニクス事業はロボットビジョンセンサー「クラセンス」のニーズが高まっています。今後はソフトウエアの面を強化する必要があるでしょう。これら商材も含めて新型コロナ禍収束後に向けて準備することが重要です。

〈私のターニングポイント/工場勤務でリーダーシップに変化〉

 「08年に鴨方工場(岡山県浅口市)に工場長として勤務した経験が大きかった」と振り返る藤田さん。鴨方工場ではコンサルタントも入れて業務改善に取り組んでいたが、「製造現場の意識と距離があることを感じていた」。そこで毎日、現場を定点観測して気付いた改善点は小さなメモにして現場に送ることを繰り返す。これが、リーマンショックで稼働率が低下する中での改善活動につながった。「トップダウンではなく後ろからヒントを与えるサーバント型リーダーシップの重要性に気付けた」。

〈略歴〉

 ふじた・はるや 1983年クラボウ入社。群馬工場長、鴨方工場長、化成品業務部長などを経て2012年取締役兼執行役員企画室長、13年取締役兼常務執行役員企画室長、14年から社長。