秋季総合特集Ⅱ(8)/トップインタビュー/大和紡績/トレーサビリティーの要求強い/社長 有地 邦彦 氏/ESG、SDGsが中心テーマに

2021年10月26日 (火曜日)

 「繊維のサプライチェーンが揺らぐ中、トレーサビリティーへの要求が一段と強まっている」――大和紡績の有地邦彦社長は指摘する。コストの安さだけを求めて生産地を移動するやり方は、新型コロナウイルス禍によって成り立たなくなった。今後はESG(環境、社会、企業統治)重視やSDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けた取り組みが不可欠になる。同社も今期(2022年3月期)から始まった中期経営計画でESGなど社会的価値を重視し、研究開発体制の強化などに取り組む。

  ――新型コロナ禍以降、サプライチェーンも動揺しています。

 東南アジア諸国でのロックダウン(都市封鎖)や、コンテナ不足による物流停滞など問題が起こっていますが、繊維のサプライチェーンに関しては新型コロナ禍後も劇的に変化するとは思えません。ただ、中国での生産は、ますます難しくなっていくと思います。当社も江蘇省・蘇州で縫製を行っていますが、人件費の上昇が続いており、低額品の生産がだんだんと難しくなってきました。さらに最近では中国・新疆ウイグル自治区での人権問題への懸念から新疆綿が世界的に忌避されるなどポリティカルな問題も無視できなくなっています。このため中国は今後、生産拠点としてよりも、市場としての重要性の方がますます大きくなっていくでしょう。

 ESG重視やSDGsの実現に向けた取り組みの必要性が高まる中、サプライチェーン全体で環境や人権への配慮が求められるようになりました。このためトレーサビリティーへの要求が一段と強まっています。当社はインドネシアで紡績から縫製まで一貫のオペレーションを展開していますから、こうした要求に応える上で強みになるでしょう。長らく欧米向けを手掛けてきたことから、第三者監査もクリアできる体制になっています。こうした強みを生かすためにも、インドネシアでの生産が軸になるという考え方は今後も変わりません。いずれにしても単純にコストの安さを求めて生産地を移動するようなやり方は、今回の新型コロナ禍によってますます成り立たなくなったことは確かです。

  ――21年度上半期(4~9月)も終わりました。

 全体としては売上高がやや苦戦しました。合繊事業で抗ウイルス加工マスクや除菌シートなど昨年あった特需が一服したためです。海外からの輸入も増加しており、流通在庫も増えています。このため需給バランスの緩みから市場全体が調整局面となっています。ただ、レーヨン部門は順調でした。環境配慮型素材として注目が世界的に高まっています。これまで差別化のための開発を地道に続けてきた成果でしょう。その意味では、繊維事業が進むべき方向性の一つのロールモデルになっていると言えるかもしれません。

 産業資材事業は、フィルター生産を出雲工場(島根県出雲市)に集約する作業を進めていますが、再編途上ということもあって、やや需要を取り逃がしている面があります。土木資材、サインシート、テントなどは子会社のカンボウプラス(大阪市中央区)を含めて新型コロナ禍によるイベント需要減退の影響を受けました。

 製品・テキスタイル事業は衣料品が中心ですから、やはり緊急事態宣言による店舗休業・時短営業や外出自粛の影響を大きく受け、厳しい環境でした。対米輸出する縫製品は4~6月から回復基調にありますが、8月以降はやや調整局面となっています。米国の需要自体は経済正常化に合わせて悪くないのですが、主力生産拠点であるインドネシアで新型コロナ感染が拡大し、なかなか稼働率を上げられず、需要についていけなかった面もあります。中国の縫製子会社は、既に生産能力を適正化しているので順調に稼働しています。

  ――下半期以降に向けた課題と戦略は。

 ダイワボウグループは今期から3カ年中期経営計画がスタートしました。ESGの重視やSDGs達成への貢献が中計のテーマの一つですから、大和紡績としてもESGやSDGsが中心的な課題となります。そのためには研究開発を充実させます。例えば生分解性などは大きな開発テーマでしょう。オーガニック素材の活用や生産プロセスでの環境負荷低減などサステイナビリティーへの取り組みも重要です。そこでこのほど、合繊、産業資材、製品・テキスタイルの各事業本部の研究開発部門を一元化し、播磨研究所(兵庫県播磨町)として集約しました。これにより100人近い研究開発人員を擁することなり、各事業の技術に横串を通すことで新たな開発に取り組む体制が整いました。

  ――各事業の今後の見通しは。

 合繊事業は、需給調整がある程度進んできますから、おそらく年明けから受注も回復基調になるとみています。産業資材事業も新型コロナ禍が収束に向かう中で需要も回復していくはずです。そうした需要をしっかりと取り込んでいくことが重要です。製品・テキスタイル事業は引き続き厳しい事業環境が続くでしょうから、一つはQRを徹底することで、受注を確実に獲得していくことが必要です。サステイナブル素材など新たなニーズに応える商材を活用することで需要を掘り起こしていくことも重要です。

 海外市場の開拓も大きなテーマです。新型コロナ禍で取り組みが事実上ストップしていますが、これから徐々に海外渡航の規制も緩和されていくはず。今のうちに収束後に向けた準備を進めることが大切です。海外市場に対して何を売っていくのか。当社はこれまで特徴のある原料や加工によって独自の商材を開発する“ファイバー戦略”を推進してきました。そうやって日本の独自素材や加工を活用していくことが海外市場の開拓には重要でしょう。

〈私のターニングポイント/管理する立場から実行する立場に〉

 「もしかしたら、今がターニングポイントかも」と話す有地さん。繊維事業出身ながら、これまでダイワボウホールディングスの専務として事業会社を管理する立場だったのが、今度は大和紡績社長として実行する立場に。「やはり、使うエネルギーがまったく違う」。そこで月に一度、全従業員に向けて業績に関するレビューや日々の気付きなどを書いたメッセージを配信するなどコミュニケーションを重視する。「とにかく今は、無心で仕事に取り組んでいる」とか。新しい経験によって、考え方も大きく変わる予感。

〈略歴〉

 ありち・くにひこ 1987年大和紡績(現・ダイワボウホールディングス)入社。2017年ダイワボウホールディングス執行役員経営企画室長兼大和紡績取締役、18年ダイワボウホールディングス取締役兼常務執行役員、19年ダイワボウホールディングス専務兼大和紡績監査役、21年4月から大和紡績社長。