秋季総合特集Ⅲ(9)/トップインタビュー/豊島/国際情勢に合わせ臨機応変に/社長 豊島 半七 氏/繊維にこだわらず変化に対応

2021年10月27日 (水曜日)

 豊島はライフスタイル商社として異業種の開拓を進めている。少子高齢化に伴う人口減少に加えて多様化が求められる現代。豊島半七社長は「会社が成長するためには繊維だけにこだわる必要はない」と強調する。繊維関連にとどまらず、サステイナビリティーといった要素も盛り込みながら新たな商材や提案の幅を広げ変化が激しい時代に対応する。製品部門では実績もできつつあり、前期(2021年6月期)の営業利益と経常利益の2期連続過去最高の達成に貢献。「新しいビジネスは世の中にいくらでもある」とし模索を続ける。

  ――新型コロナウイルス禍の長期化やアジア圏での政情不安によって日本やアジアでの生産体制はどのように変化するでしょうか。

 新型コロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)もそうですが、ミャンマーのクーデターに加えて最近では中国の電力不足の問題などがあり各国で何が起きるか分からない状況と言えます。そうしたことを予測しながら生産体制を変化させるのは大変難しいことです。しかしながら生産が一国に集中してしまうことはリスクヘッジの面から見ても適切ではありません。

 今後、日本への生産回帰も一部はあるでしょうがコストやキャパシティーの問題は切り離せませんし、理論上は中東や北アフリカといった地域での生産も可能でしょうが、生産ロットのことを考えると厳しいかもしれません。いずれにせよ国際情勢が激変する中で生産地をこの国に移そうという話ではなく、その都度状況に合わせて臨機応変に対応するしかないと思います。ですから、これまで以上に世界情勢に敏感になる必要性が増しています。

  ――21年6月期の業績を振り返るといかがですか。

 新型コロナ禍の世界的な感染拡大や長期化、相次ぐ緊急事態宣言の発令による経済活動の抑制など厳しい環境が続きました。繊維業界では店舗休業や外出自粛、インバウンド需要の減少などで国内市場は前年を大きく下回りましたが、デジタル化の加速やライフスタイル、ワークスタイルの急激な変化と進化をもたらしており、それに対応した一部の企業が業績を伸ばすなど企業ごとで明暗を分けています。そうした中で当社の業績は減収となったものの、営業利益、経常利益ともに2期連続で過去最高を更新することができました。これは繊維製品部門の増収が主な要因です。名古屋、東京の部署ともに貢献してくれました。

 各セクションの状況ですが、繊維素材部門は綿花部門が相場の上昇とサステイナブルコットンの取扱い数量増加があったものの、現地法人を含めた営業体制の見直しや取扱数量を制限したため大幅な減収となりました。原糸部門は欧州、インド、中国向けの輸出や三国間取引を増加させることができましたが定番品の国内販売が低調だったため、減収、前期並みの利益でした。生機・加工織物部門は巣ごもり需要を捉えた切り売りやユニフォーム向け加工反の三国間販売も伸長したものの、寝装品向けの販売減少、ユニフォームの在庫調整の影響などが響きました。

 繊維製品部門は主力取引先との取り組み強化のほか、EC専業アパレルや異業種への販売に注力したこと、前期に続いて医療関連の需要もあり増収増益となりました。異業種としては、既存のモールや百貨店とは異なり衣料品をメインとしない小売りのほか、雑貨関連などを開拓することができました。生産面ではミャンマーでのクーデターの影響や東南アジア諸国のロックダウンによる混乱もありましたが、中国生産への変更や品質・納期管理を徹底しロスを最小限にすることができました。

  ――国内ではワクチン接種が進み行動制限も緩和されつつあります。今後の方向性を教えてください。

 経済は上向いてくるでしょうが、今後衣料品の需要が伸びることは考えにくいため、当社としては繊維だけに捉われることなく生活全般、それこそライフスタイルに引き続き焦点を当てていきます。繊維という軸は維持しつつも、持続可能なライフスタイル提供企業として成長していくためには必要以上に繊維にこだわらなくてもよいと考えています。現状では製品の中で衣料品販売の比率はまだ高いですが、衣料品以外の比率も順調に増えています。新しいビジネスは世の中にいくらでもありますから、新たな需要を見つけ出して、各企業様の仕事のお手伝いができたらと考えています。

 素材では天然繊維だけでなく合繊の開発にも力を入れます。ワーキングウエアやスポーツ、カジュアル向けを見据え、新たな機能とサステイナビリティーを備えた素材を開発できたらと思っています。市場でのシェアは合繊が圧倒的に高いため、事業としても柱を2本、3本と作っていきます。

  ――前期は異業種の開拓が進みましたが、その要因は何でしょうか。

 まず、前提として営業マンの頑張りがあります。このような動きにくい状況の中でアンテナを高く張って本当に奮起してもらいました。そして、もう一つ挙げるとしたら、3年前から始めたCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)によって異業種との交流を図ることができた点が大きいと思います。ベンチャー企業を介した開発なども進み、繊維とは全く違う業界との接点が生まれました。当社では東京で展示会を開催していますが繊維関連以外の来場はかなり増えています。

  ――今期の足元の状況はいかがですか。

 出だしの第1四半期は厳しい立ち上がりと言えます。売り上げは維持できていますがコスト高で利益は厳しい状況です。前期で過去最高益となり今のやり方で大丈夫という油断が私を含めた経営陣の中にあったと思います。物流の混乱やロックダウンなどで個別の対応に追われてしまったことは否めません。前期のことは忘れて、今後のことにきちんと対応していきます。

〈私のターニングポイント/商社と銀行の違いにショック〉

 「カルチャーショックという意味ではこれがターニングポイントかな」と話す豊島さん。銀行員という仕事から豊島に転職したとき、風土や慣例のあまりの違いに驚いたという。特にお金の管理の仕方については銀行ではかなり厳しかったため、「豊島に入った時、机の引き出しからお金が出てきたのを見た時はびっくりした」と笑いながら振り返る。35年以上が経過し「商社という仕事にどっぷり漬かり今では何とも思わなくなった」。長い年月をかけ慣れてしまったようだ。

〈略歴〉

 とよしま・はんしち 1985年豊島入社、90年取締役。常務、専務を経て、2002年から現職。