秋季総合特集Ⅳ(5)/トップインタビュー/東洋紡STC/勝てる分野で勝負かける/社長 清水 栄一 氏/中東・スクールに重点化

2021年10月28日 (木曜日)

 東洋紡STCは今年度を最終年度とする中期4カ年計画を進めており、2019年度までは目標数値を超過達成してきた。しかし、新型コロナウイルス禍で様相は一変。強みの中東輸出やユニフォームでも苦戦を強いられ、21年度上半期は営業損失の計上を余儀なくされた。強みと位置付ける事業により磨きをかけていくため、今年4月、それまでの4事業部を5事業部体制に再編。21年度の1年間をかけてコロナ禍で傷んだ事業を修復し、22年度から再び成長路線へと回帰させる。清水栄一社長に中期戦略を聞いた。

  ――変化の目まぐるしい時代を迎えています。

 激動の時代を乗り切っていくには、自らが持っている技術、商流、顧客を精査した上で勝てる分野で勝負していくことが何よりも重要だと考えています。当たり前のことですが、東洋紡がその昔、繊維事業で2千億円以上を稼いでいた当時のやり方はもはや通用しません。顧客の見極めも重要でしょうし、取り組める相手といかに強いチームを作り上げることができるか、こういったことを1年かけて再検討しています。

  ――東洋紡STCが自らの強みと位置付けるのは。

 間違いなく勝ち続けないといけないのが中東民族衣装向けのトーブ地の輸出です。次がスクールユニフォーム。これも当社の強みを発揮できる用途です。事業部としてスクールユニフォームを独立させたのはもっと力を入れて取り組んでいくための措置です。3番目に重要なのがユニフォームとスポーツになります。

  ――一時期、中東輸出では苦戦を強いられていました。最近の状況は。

 ようやく19年度と20年度の中間くらいの状況にまで回復してきました。中東輸出には過去の先輩方が作ってこられたビジネスモデル、顧客からの信頼、さらにブランド力という何者にも代え難い財産があります。ここで負けることは絶対に許されません。

 当社はあくまで三角形の頂点ゾーンに絞って戦っていきます。1ランク下に守備範囲を広げるつもりは毛頭ありません。トレンドの変化にクイックに対応し、連続染色による硬めの風合いがいいのか、液流染色によるソフトな風合いなのか、タイミングよく提案していきます。

  ――ダウンウエア向けに展開するナイロン織物の部門をスポーツから中東輸出に移管しました。

 長年、中東向けのトーブ地の輸出で培ってきた知見をナイロン織物の開発、拡販に生かしていくための組織再編です。スポーツは少なからずトレンドに左右される分野です。もっと長く使ってもらえる商品の開発を強化し、中東輸出のようなスタイルにナイロン織物の商売を変えられないかを模索しています。

 ナイロン織物では顧客からの要望が強まっているエコをどう実現するのかが課題です。欧州ではエコを会社のポリシーとして掲げる企業が多く見られます。技術陣が指導しつつ海外メーカーからエコナイロンを調達する体制は既にできています。中繊度ならば既に開発済みで、現在は細繊度にも商品ラインを広げるための開発を急いでいます。

  ――スクールユニフォームではどういう取り組みを考えていますか。

 最近はこれまでのウール高率混から低率混が求められるようになり、奇麗な表面感で高価に見える素材が引き合いを集めています。

 スクールでは、グループ会社の御幸毛織(名古屋市西区)との連携を強化し、“ちょびウール”で戦っていきます。それとニットによる開発、新規アイテムの掘り起こしに力を入れていきます。

 当社は既にスクール大手4社としっかりとしたパイプを構築していますし、顧客のニーズにしっかり対応しながらグループでモノ作りに取り組んでいきます。

  ――ユニフォームも強みを発揮できる事業の位置付けでした。

 現在はちょっと先の戦略を立てにくい状況にあります。当社が得意なのはサービスや飲食関連、病院関連です。しかし、新型コロナ禍でいずれも状況が悪過ぎます。5事業部の中で最も回復が遅れているのがユニフォームです。新型コロナ禍の収束後も元に戻ることはないとみています。

 これまでの戦略を踏襲して愚直に取り組んでいくだけでは、販売量を伸ばすことはできないと考えています。再度、原点に立ち返って戦略を練り直す必要があります。

  ――海外拠点も活用し、これまでスポーツを順調に伸ばしてきました。

 絶対、続けなければならない事業ですが、製品なのか生地なのかが難しいところです。当社はインドネシアに編み立て・染色工場、縫製工場を構えており、この強みをもっと発揮させなければなりません。テキスタイル開発を改めて強化し、製品OEMをリンクさせながらスポーツアパレルとの連携を深めていこうと思っています。

 海外向けをもっと伸ばすことを考えたいところですが、そのためには商社機能が必要です。当社は商社でもありますが、軸足はあくまでメーカーに置いています。当社の生地、製品を担いでくれるパートナーが欠かせません。

  ――インナーは苦戦を続けていました。

 製品OEMは徐々に縮小していきます。当社の強みは独自性に富んだわたと糸。これをベースにテキスタイル売りも交えながら収益改善に取り組んでいます。新たに始めたマスクを中心とする生活資材の方は特需がなくなり通常ペースに戻りました。不織布のマスク、スポーツアパレルとコラボレーションするニットのマスクを今後どれだけ残すことができるかです。

〈私のターニングポイント/貴重だったインドネシアの4年間〉

 東洋紡に入社以来、「営業一本できて、モノを売るところで戦ってきた」。17年にインドネシアに赴任し、ここで4年間、初めてとなる編み・染め、縫製という製造の責任者を経験した。製造現場ならではの苦労を身をもって知り、「生産効率を高めるために、営業はこういうことをやればいいということを思い知らされた」と話す。これまでは営業といういわばピッチャーだったのが、インドネシアで製造というキャッチャーにも取り組んだ。「この経験を今後の事業運営に生かしたい」と意欲を示す。

〈略歴〉

 しみず・えいいち 1986年4月東洋紡績(現・東洋紡)入社、2017年5月グローバル推進部主幹及び東洋紡インドネシア、東洋紡STC〈インドネシア〉へ出向、21年4月執行役員、同年6月代表取締役社長。