特集 人工皮革/エコ素材を伸ばす/19年度並みに回復/東レ/旭化成/クラレ/帝人コードレ

2021年11月17日 (水曜日)

 新型コロナウイルス禍で2020年度は苦戦を強いられた合繊メーカーの人工皮革事業。しかし、自動車業界の復調に伴い、各社は業績を19年度並みの水準に回復させており、21年度も自動車内装材向けを中心とする拡販に力を入れている。最近はカーシートだけでなく、ドアトリムやインストルメントパネルなどへも搭載部位が広がっており、今後も自動車内装材向けの販売は順調に伸びていくとみられている。各社が重視するのは環境配慮型素材の打ち出しだ。人工皮革を展開する東レ、旭化成、クラレ、帝人コードレに中期戦略を聞いた。

〈東レ「ウルトラスエード」/エコ化100%めざす/次期増設の検討開始〉

 東レは環境配慮型の「ウルトラスエード」の打ち出しを強めている。全販売量に占めるエコ素材の比率は20年度で60%。これを21年度で65%前後に引き上げ、「早急に100%をエコ化したい」との意欲を示している。

 新型コロナ禍で20年度は苦戦を強いられたものの、既に業績は回復基調へと転換しており、21年度上半期は「19年度上半期の業績を上回った」と言う。

 エコ素材として、リサイクルポリエステル使いの「ウルトラスエードRX」、部分バイオポリエステル使いの「同PX」、ウレタンも部分バイオ化した「同BX」という3タイプを既にラインアップしており、現在は白度、トレーサビリティーにこだわって開発したリサイクルポリエステル「&+」(アンドプラス)による新タイプ開発を急いでいる。

 今後、自動運転の普及に伴い、車内空間のラグジュアリー化を求めるニーズが強まるとみている。このため、ウルトラスエードのサステイナブル性、上質感、ブランド力を強力に打ち出し、自動車内装材向けの販売をさらに拡大する。

 年産1千万平方メートル体制に増設後、当初計画では23年度中にフル操業させる計画だったが、現在の好調を背景に「22年度の上半期中にフル操業させたい」考えだ。

 東レグループは22年度までの中期経営課題に取り組んでおり、ウルトラスエード事業部は「超過達成を目指したい」としているほか、次期増設の検討作業を開始した。

〈旭化成「ラムース」/フル生産フル販売続く/海外拡大などで一層成長へ〉

 旭化成の「ラムース」がフル生産フル販売を続けている。自動車内装材用途がけん引役になっているほか、ITアクセサリーや家具、雑貨などの幅広い分野で順調な動きを示す。2022年春には新設備が稼働を開始する予定で、一層の成長を目指して海外販売拡大や展開用途の拡充を進める。

 独自製法による3層構造のスエード調人工皮革のラムースは、上質な肌触りや多彩な意匠性といった特徴を持つ。環境特性にも優れていることから顧客の評価が高く、「20年度下半期以降フル生産フル販売」(パフォーマンスファブリック事業部ラムース営業部)を続けている。

 再生ポリエステルや水系ポリウレタンの使用で環境対応を図っているが、サステイナビリティーへの要求は加速度的に増えていくと捉えており、顧客の要望が多い再生ポリエステルの使用比率を着実に高める。環境対応の“見える化”も重視する。

 見える化の一環として「エコテックススタンダード100」やRCS(リサイクルド・クレーム・スタンダード)などの認証も取得している。GRS(グローバル・リサイクルド・スタンダード)認証の取得についても視野に入れている。

 増設設備が稼働すると年産約1400万平方メートルとなる。継続成長に向けて、主力の自動車関連では欧米を軸にしながら中国を中心とするアジア圏での拡販を狙う。自動車以外の用途では欧米市場の需要を取り込む。

 個社での取り組みはもちろん、日本の同業他社と切磋琢磨(せっさたくま)することで、人工皮革全体の市場拡大につなげたいとしている。

〈クラレ「クラリーノ」/環境配慮型を前面に/中国での再増設視野〉

 クラレの「クラリーノ」事業は新型コロナウイルス禍による苦戦から脱却し、「21年度(12月期)で19年度並みの業績に回復させられる」との手応えを示している。

 クラレグループは22年1月から中期経営5カ年計画に着手。クラリーノ事業では「環境対応型の商材を第一義に位置付ける」とともに、主力の靴・シューズ向けや自動車内装材向けを伸ばし再び拡大基調へと転換させる。

 環境配慮型素材として、有機溶剤を使用しないCATS製法で生産する「クラリーノ―TN」、再生ポリエステル使いの「同―SR」、再生ナイロン使いの「同―NR」をラインアップする。

 現在はバイオ原料による新タイプの開発に取り組んでいる。「かなり完成の域に近づいてきた」としており、22年からの販売を計画する。

 同社はかねて欧米や韓国の造面メーカーに生機を提供し共同開発したクラリーノで車両内装材用途を開拓する取り組みに力を入れてきた。

 既に韓国や米国でカーシートでの採用を具体化している。今後は、EVメーカーからの引き合いが増えているというエコ素材もラインアップし、自動車内装材向けの販売を次期中計で一定の規模に引き上げる。南米で連携できる造面メーカーの探索にも着手する。

 中国では合弁企業ヘーシンクラレが6系列による年産2800万平方メートルに引き上げ、一度はフル稼働へと持ち込んだ。その後の電力事情の悪化で稼働率を多少、落としているものの、次期中計で「再度の増設を検討したい」考えだ。

〈帝人コードレ「コードレ」/天然皮革代替が追い風/環境対応も再評価される〉

 人工皮革「コードレ」を製造販売する帝人コードレ(大阪市北区)は「主力のスポーツシューズ分野に重点を置いた商品開発に注力する」(浅田和重社長)方針だ。同社は2021年、創立50周年を迎えた。生産能力は年間600万メートル(公称)で、スポーツシューズ向けが販売量の60%を占め、その他、各種ボール、ランドセル、一般靴、産業資材など向けにも販売する。輸出比率は約70%と高い。

 20年度(21年3月期)は新型コロナウイルス禍の影響で減収減益となったが、昨年10月以降、需要が回復。21年度は不織布生産設備、仕上げ加工設備ともほぼフル稼働にあり、需要増に対応し、増産を検討する。

 けん引するのはスポーツシューズ向けだ。スポーツシューズメーカーが動物愛護やビーガン(完全菜食主義者)対応として天然皮革から人工皮革への切り替えに動く。その中で競技用を含むスポーツシューズでも引き合いが活発化する。環境対応も重視されるため、ペットボトル再生繊維を使った不織布を基布とすることも再評価されている。

 同社は05年ごろから環境対応商品への切り替えを進め、リサイクル表示基準の「RCS」認証も取得する。今後も競技用スポーツシューズを中心に無溶剤による水系ウレタン含侵技術や各種添加剤を加えた加工技術を生かし、需要家のニーズに合致した開発を進める。

 スポーツシューズメーカーが東南アジアに生産拠点を置くことから、親会社である帝人フロンティアの海外拠点と連携しながら東南アジアでの協力加工場、販売体制など構築も検討する。