企業間ビジネス連携/シキボウ/ユニチカトレーディング/競争から協調へ/強み生かし新たな取り組み

2021年12月02日 (木曜日)

 シキボウとユニチカトレーディング(UTC)は2021年4月、繊維事業において企業間ビジネス連携をスタートすると発表した。競争ではなく協調によるこの新たな取り組みは、海外との激しい競争下にある日本の繊維産業にとって、勝ち残るための一つの方向性を示したと言える。

〈シキボウ 上席執行役員繊維部門長 加藤 守 氏/新商品で新用途の開拓も〉

 日本の繊維企業が今後、生き残るためには各企業が競合するだけでは難しく、協働する重要性が高まっています。その面で、今回の企業間ビジネス連携を最初の成功事例にしていきたいと考えています。

 両社の企業間ビジネス連携は元々、連携ありきで進んだものではありません。通常の取引関係から発展したものです。取り組みを通じて交流を深める中で、お互い学ぶべき点もありましたし、元々、生産、販売、開発において1社では限界があると考えていました。

 自社にはない素材を活用した商品開発はもちろん、それぞれが強い販売先なども補完できる連携だと捉えています。

 強みのある素材を生かした共同開発を行い、新商品を生み出すことだけにとどまらず、新商品を通じて既存用途だけでなく、新しい用途も開拓していきたいと考えています。新しい販売チャネルを共同で開拓し、販売促進方法や提案方法などのソフト面でも知恵を出し合い、新市場を創出していきます。当社の課題でもある海外販売の拡大にも結び付けていきたいですね。

 もちろん、それぞれが持つ既存商品であってもこれまで手掛けていない用途はまだまだあります。まずはそこが手始めになるとは思いますが。

 生産においても今回の取り組みには期待しています。国内外の生産拠点をさまざまな形で活用し合えれば、無駄を省くことにつながります。

 綿花など原料の共同購入もその一つですし、紡績、織布、編み立て、加工のすみ分けなども考えられますので、両社が保有する国内外の生産拠点の維持にも寄与します。

 こうした生産面での取り組みは現在、衣料品で大きな問題となっている大量生産、大量廃棄の改善にも結び付くのではないでしょうか。

 今回の企業間ビジネス連携は2社でのスタートとなりましたが、この取り組みに賛同し手を挙げて頂ければ、新たに参画してもらうことは良いことだと思います。

 両社にはない物を持っている企業であればより良いですが、連携先が増えることは、日本の繊維産業にとっても望ましいのではないかと考えます。

〈ユニチカトレーディング/社長 細田 雅弘 氏/両社の繊維事業を強くする〉

 新型コロナウイルス感染拡大により繊維産業は厳しい市場環境が続いていました。その中で、ご縁もあって、両社での企業間ビジネス連携に至りましたが、経営トップの指示ではなく、現場での合意によって進められた連携でもあります。

 そのため、生産・販売・開発の各面での取り組みもスムーズに進めることができました。それぞれの提案を通じて切磋琢磨できているようにも感じています。その面で良い意味でのライバル心を持ちながら取り組めているのではないでしょうか。

 今回の企業間ビジネス連携は両社の繊維事業が強くなるためであり、そのメッセージを発信していきたいと考えています。

 全世界で求められるSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを強化する上では、サプライチェーンの強化も必要になります。その中でタテのつながりだけでなく、ヨコのつながりも重要になります。織物のように経糸と緯糸として補完しあい、両社繊維事業の基盤を確固たるものにしていきたいと考えています。

 今、経済産業省が中心となって、繊維産業の新ビジョン策定が始まりました。同業他社とのビジネス連携となる今回の取り組みは他社だけでなく、それぞれの顧客からも注目されていると思いますので、成功事例を積み上げていきます。

 スタートは2社での連携ですが、次のステップとして新たに参画してもらうこともあり得ます。ヨコ方向だけでなく、サプライチェーンのタテ方向でのつながりも考えられます。

 そのためにも参画したいと手を挙げてもらえるような成果を上げていかねばなりません。もちろん、衣料用繊維の企業だけでなく、異業種でも参画してもらえる可能性はあります。

 当社は衣料用繊維だけでなく、産業資材用繊維、不織布、非繊維も取り扱っていますから、顧客が多岐にわたります。こうした衣料繊維以外のチャネルも、今回の企業間ビジネス連携において生かしていきたいですね。

 例えば、スパンボンドやスパンレースなどの不織布や製紙用カンバス、フィルター用途などでの連携も期待しています。

〈価値観変化に連携し対応/日本の方向性の一つ示す〉

 日本の繊維業界は今、大きな変化の中にある。世界的に地球環境問題に対し意識が高まり、新型コロナウイルス感染拡大にも関連しライフスタイルや消費マインドが急変する中で、繊維企業、中でも繊維素材メーカーは変化する価値観への迅速な対応が求められている。

 価値観の変化に対応するには1社だけの力では限界もある。そのため、企業間の連携が重要になる。それぞれの強みを生かしながら新たなニーズに素早く対応することができるからだ。これは日本の繊維産業にとって今後の方向性の一つでもある。その先駆者として、今春、シキボウとUTCの繊維事業における企業間ビジネス連携が発表された。

 両社の取り組みは20年、UTCが液体アンモニア(液アン)加工を活用した開発に着手したことが発端だった。グループ内に液アン加工機を持たないUTCは液アン加工機を保有するシキボウに加工を依頼する。当時は単純な取引に過ぎなかった。

 その後、新型コロナの感染が広がる中で、UTCはシキボウの抗ウイルス加工「フルテクト」を活用した開発を進め、シキボウへの加工依頼も増えていった。

 その際、両社に一つのアイデアが浮かぶ。「技術を組み合わせれば新たな可能性があるのではないか」(UTCの渡辺巧取締役衣料繊維事業本部長)、「UTCが持つ合繊と当社の織布・加工技術を組み合わせれば今までにない商品が生まれるチャンスがあるかもしれない」(シキボウの尾﨑友寿執行役員繊維営業部長)と。

 そのアイデアが単なる取引ではなく、取り組みに変わる契機となり、企業間ビジネス連携、いわゆる協業に向けて一気に加速することになる。

 両社は綿の紡織加工では一部重複する商品や用途はあるものの、シキボウには豊富な紡織加工技術があり、UTCにはポリエステル長繊維、ナイロン長繊維などの合繊長繊維の差別化素材がある。

 つまり、それぞれの強みを連携することで新しい価値がある商品を開発するなど、両社が連携すればシナジーを発揮できる素地があったこともスムーズな企業間連携に結び付いたと言える。

〈豊富な機能加工/差別化された合繊〉

 それぞれの強みとは何か。シキボウはフルテクトや制菌加工「ノモス」をはじめとする衛生加工を業界に先駆けて開発するなど、快適性に焦点を置いたさまざまな機能加工を持つ。織布においても独自の校倉(あぜくら)構造を持つ「アゼック」など接触冷感、吸水速乾性など特徴ある組織開発を得意とする。

 日本国内では紡績の富山工場(富山市)、織布加工子会社のシキボウ江南(愛知県江南市)、海外ではインドネシアに紡織加工子会社、メルテックスを有し、国内外で同じ商品を製造できる体制を敷く。

 シキボウの加藤守上席執行役員繊維部門長も「昨今は低コストや身軽な対応力からファブレスがもてはやされるが、有事の際に自家工場を持つことは強みになる」と話す。

 一方、UTCはメーカー機能を有する商事会社だ。ユニチカやグループ企業で生産するポリエステル、ナイロンの差別化糸の開発には定評がある。合繊の紡糸ノズルをグループ企業で製造することも含めて他社にはないさまざまな合繊をこれまでも生み出してきた。

 この数年はサステイナブル素材の開発に重点を置いている。マテリアル&ケミカルリサイクルによる高機能ポリエステル繊維やポリ乳酸繊維「テラマック」、植物由来のナイロン11「キャストロン」などといったサステイナブル・エコフレンドリーマーク対象素材を手掛ける。

 UTCの細田雅弘社長が「サステイナブル素材におけるリーダーカンパニーの地位を確保したい」と話すほど豊富なサステイナブル素材を持つ。独自技術によるポリエステル・綿の複重層糸「パルパー」、超細番手糸など紡績糸にも特色がある。

 同時に商事会社として、中国、ベトナム、インドネシアなど海外法人を持ち、海外での販売体制も構築する。

 海外でのモノ作りにも力を入れており、インドネシアのグループ企業で紡績を行うユニテックスはもちろん、ベトナム子会社のホーチミン事務所、中国子会社の常州事務所、インドネシア子会社に技術者を配置し、日本のUTCと連携してグローバル開発センターとして機能させ、中国・東南アジアでのスピーディーな商品開発にも力を入れる。

〈生・販・開で連携強化/両社の知見合わせる〉

 こうした強みを持つ両社の連携は生産、販売、開発の多岐にわたる。

 第1は両社の強みを生かした新商品開発だ。強みを持つお互いの技術を組み合わせることで、グレードアップした高機能商品の開発を図る。同時に両社の知見を合わせることで商品開発のスピードアップや効率化に結び付ける。

 そのためにも開発担当者の情報交換はじめ交流も促進する。これは国内のグループ企業であるシキボウ江南や大阪染工(大阪府島本町)というそれぞれの染色加工拠点も同様で、インドネシアのメルテックス、ユニテックスでも進める。

 販売面ではメンズ・レディースなどの一般衣料分野に加えて、スポーツ、ユニフォーム、インナー、生活資材、産業資材で新たな用途、販路開拓に取り組む。両社のビジネスが重複する分野については、それぞれが強い顧客には販売を委託すれば、新規ビジネスにつながり、販売増も見込める。もちろん、両社による新商品開発で、新規用途の開拓にも期待が掛かる。

 それぞれの販売増は両社の生産設備にとってもメリットがある上、役割を分担し、一方が生機生産を、もう一方が加工を担い、それぞれの設備稼働率を高めることもあり得る。

 綿花など原料の共同購入もその一つになる。両社はインドネシアに生産拠点を持つだけに海外生産におけるさまざまな連携も進める。将来的には国内外の生産におけるすみ分けなども検討する考えだ。こうしたビジネス連携を進める中で、両社の強みを生かして商品開発した新たな価値のある新素材が今月開催の合同総合展で初披露される。

〈合同総合展で成果披露/「二重爽」テーマに訴求〉

 シキボウとUTCによる企業間ビジネス連携による初の合同展「シキボウ・ユニチカトレーディング合同総合展」が、今月8~10日にシキボウ本社ビル7階大ホール(大阪市中央区)、15~17日にプラザマーム浜町2階ホール(東京都中央区)で開催される。

 今年4月に両社が企業間ビジネス連携を発表後、それぞれの展示会で一部、共同開発品を提案したことはあったが、合同総合展として大々的に披露するのは初めて。新型コロナウイルス感染症防止対策のため、完全アポイント制として、商社・問屋、アパレル、企画、小売り関係約250社を招待する予定だ。

 この約半年間、グループ企業も含めて両社がそれぞれの工場を見学。情報交換を密接に行いながら、共同開発に取り組んできた。その成果が今回の合同総合展で明らかになる。

 展示会のテーマは「二重爽(安心を奏でる)」に設定し「両社の協創により提案する快適性から生まれる爽快感のある素材」はもちろん、それぞれが得意とするプロモート素材を提案し、新型コロナ感染によって生まれた新たな生活様式に対応したイノベーションを協創したという。

 会場は①企業の信頼と価値提案(製品オペレーション・品質管理など)②健康で快適な社会(高機能性快適素材)③安全で安心な社会(高機能性安全素材)④脱炭素社会の実現(環境配慮型商品)⑤多様化社会に対応(新企画製品提案)の五つにカテゴリーを分けて、両社の共同開発品110点、シキボウ製品90点、UTC製品65点の計265点を提案する予定だ。

 合同総合展として、各カテゴリーには共同開発品はもちろん、シキボウ、UTCそれぞれの製品が混在し、両社から担当者が付く。

〈強み組み合わせ機能向上/新用途開拓への提案も〉

 注目される共同開発品の一つはシキボウの校倉構造織物であるアゼックにUTCの差別化糸を組み合わせたもの。アゼックは通気性に優れ、立体構造で肌離れも良く、接触冷感・軽量・吸水速乾などの特徴を持つ。

 この機能をさらに引き上げるため、UTCの複重層糸のパルパーやセラミックを練り込んだクーリング素材「サラクール」、異形断面ポリエステル長繊維「ルミエース」、吸放湿性ナイロン長繊維「ハイグラ」を使用することで、吸水速乾性のさらなる向上や蒸れ感の解消などを実現。アウトドアウエア、スポーツウエアのハイスペック分野を狙う。

 二つ目は液アン加工の活用だ。例えば、UTCが得意とする超細番手綿織物に、シキボウの液アン加工を施すことで、今までにない光沢感や上質な風合いなどを持つ頂点商品も作り上げており、高級シャツ分野に訴求する。もう一つは日本でシキボウが唯一手掛ける糸シルケット加工をUTCの各種糸に施すことで、差別化を図った提案を行う。

 紡績技術ではUTCの差別化ポリエステル短繊維とシキボウが保有する「ボルテックス」精紡を組み合わせた紡績糸も打ち出す。UTCのUVカット効果と透け防止効果が特徴のポリエステル短繊維「サラブリーズ」などをボルテックス精紡することで、ポリエステル100%紡績糸での課題とされるピリングの発生を抑制することにつながる。シキボウは日本だけでなく、ベトナムでも生産できる体制を敷いている。

 そして、シキボウの抗ウイルス加工であるフルテクトは、UTCのユニフォーム地はもちろん婦人服地など一般衣料にも活用した開発品の提案を行う。

 UTCの「ノイエ」など濃染ポリエステル長繊維を活用したアバヤ地(黒)の開発も進めている。

 シキボウは中東民族衣装、トーブ地の大手の1社で、高級ゾーンで高い評価を受ける。これまでは男性用の白いトーブ地だけを手掛けてきたが、UTCの差別化ポリエステル長繊維を活用することで、女性用のアバヤも狙う。両社の連携による商品開発はもちろん、それぞれの強みを生かした新用途開拓の一例でもある。

 シキボウ子会社である新内外綿によるアップサイクルの取り組み「彩生」での連携もそれに当たる。

 彩生は廃棄される裁断後の端材や縫製品を回収し、再び糸にする取り組み。UTCは別注ユニフォームや学販スポーツウエアなどに強い。こうした分野の使用済み縫製品や端材を彩生と結び付ければ、リサイクル繊維を使うだけでなく、アップサイクルとして、さらにサステイナブル対応が強まることになる。

〈協働で各種課題を解決/ビジネス連携の先駆けに〉

 新型コロナウイルスの感染拡大は社会システムや人々の生活に大きな影響を及ぼした。ウイズコロナの中で新たな生活様式への対応が求められている。

 同時に地球温暖化による気候変動が生活に影響を与える中で、脱炭素化社会への具体的な対策や素材が必要とされる。日本では少子高齢化問題も重視されている。

 こうしたさまざまな課題は1社だけで対応できるものではない。企業間で連携し、協働し解決することが必要となってくる。

 それだけにシキボウの繊維部門とUTCによる今回の企業間ビジネス連携はその先駆けになる。