商社アパレルビジネス特集/伊藤忠商事執行役員 谷岡 諭氏に聞く

2002年02月14日 (木曜日)

小売りのDNA、商社機能に生かす/攻めの「切り口はブランド」

 高級品と低価格に消費が二分される流れの中、上のゾーンを狙おうと伊藤忠商事はブランドを切り口に、モノ作りにもかかわりながらリテールに近づく戦略を取っている。ブランドを軸にインポート、ライセンス、モノ作りの3つの切り口を持ち、事業会社との連携を進めるファッション事業部。その向かうところを谷岡諭執行役員・同事業部長に聞いた。

ブランドのアジア展開も

  ――ファッション事業部の特徴は。

 ブランドを軸にしてインポート、ライセンス、モノ作りの3つの切り口を持っている点。有名ブランドを取り扱ってロイヤルティー収入を得ながらも、モノ作りにも携わっている。当社のブランドマーケティング事業部は、数多くの欧米著名ブランドの管理会社的な色彩が濃い。それに対し、ウチはブランドに加えて、生産基盤や物流機能というソフトとハードの両面を備えていることが強みだろう。いわばブランドの総合展開力だ。

  ――事業部傘下のブランドで代表的なものは。

 ヴィヴィアン・ウエストウッド、ストラネス、トミー・ヒルフィガー、ブルガリ、ミラ・ショーンなどがある。昨年7月にジャパン社を設立したストラネスは、近々ライセンス事業を始める計画だ。4月初旬には東京・青山に新直営店をオープンする予定で、新始動後も順調に推移している。ブルガリはプレステージ性が高く、取り扱い自体で波及効果がある。

 このほか、事業会社のジョイックスコーポレーションが持つポール・スミス、当事業部が持つブランドではないがジョイックスでメンズのライセンス展開が決まったランバンなども有力なものに挙げられる。ランバンはデサントでもスポーツ分野のライセンス事業を行う。

 ――ヴィヴィアン・ウエストウッドは先ごろ、ワールドからオリゾンティを買収したことで文字通り一元管理となるが。

 買収によってこれまでのライセンス事業に加えて、インポート商品の販路を得た。オリゾンティはインタープラネット、ドゥニームなど独自の小売り業態やブランドを擁しており、リテール志向を加速させるメリットもあった。人材とノウハウと時間を一挙に得ることができた。今後もこういった動きは模索する。

  ――『軸足をリテールに移す』といった表現で、小売りに接近することを示唆しているが、商社が小売りに乗り出すということか。

 我々の中には、小売りが持つ消費者起点の発想を生むようなDNAが育っていない。商社マンは、消費者側の視点で細かく考えるよりも、どちらかと言えば一気呵成に大きく稼ごうとする癖がある。“リテール志向”というのは、商社がそういった小売りの発想、DNAを吸収しようという意味が込められている。

  ――事業会社との連携をどう進める。

 事業会社とはコラボレーションを進めて連結で事業を大きくする。これもブランドを軸にリテールへ近づきながらの展開となる。先日の天神山との提携は、小売りに近い部分の拡大を具現化したものだ。メンズは郊外型向けのリオンドール、百貨店平場向けの天神山、百貨店高級ゾーンのジョイックス(ポール・スミス)という全般をカバーできた。ブランドから派生するOEM(相手先ブランドによる生産)やリテール展開を事業会社を中心に進めたい。

 当社は全社方針として、単体と海外、国内外事業会社で利益を半分ずつ稼ぎ出す方針を掲げている。当事業部も04年度の連単倍率2倍を目指している。

  ――ブランドの海外展開は。

 現状では、韓国デサントがマンシングウエアを現地の百貨店に販売しているほか、ニューヨーク・ソーホー地区でウエストウッドのショップを展開中だ。ポール・スミスの海外販売も視野に入れている。

 今、韓国、台湾、中国などでブランドの導入、または事業会社による展開を検討している。ただ、現地ディストリビューターに販売するのか、合弁の形を取るのかなど仕組みを精査している段階だ。ブランド名は明かせないが、直輸入品の中国への売り込みでは現段階で3つ、4つ候補が挙がっている。とくに中国はWTO(世界貿易機関)加盟後の流通規制緩和もあるため、積極展開を図りたい。