ひと/帝人/取締役常務執行役員 内川 哲茂 氏/包容力と論理的思考力で

2021年12月27日 (月曜日)

 柔らかな表情で話す人――帝人の代表取締役社長執行役員に就く内川哲茂取締役常務執行役員の第一印象だ。23日の会見の席上で内川氏は記者の質問にもにこやかに答えた。ただ会社の課題や未来を聞かれると表情は引き締まる。包容力と論理的思考、実行力で帝人というチームを引っ張る。

 1990年に帝人に入社し、繊維研究所の技術者としてキャリアがスタートする。アラミド繊維をはじめとする高機能繊維が中心だったが、いわゆる“繊維畑”を歩いてきた人物が同社の社長に就任するのは、長島徹元社長(2001年11月~08年6月)以来のこと。

 ターニングポイントは幾つもあった。一つが入社して5年もたたず命じられた出向。出向先は顧客企業だった。「当時は子会社への出向ですら片道切符といわれていたのでショックを受けた」と振り返るが、「ベンチャー的な企業でオーナーは使命感に燃えていた。それを間近に見られたのは大きなプラスだった」と話す。

 次の大きなエポックはテイジン・トワロン(オランダ)への出向。英語は話せなかったが、何にでも対応できるようにさまざまなことを調べた上で赴任した。ただ聞かれたのは日本人の考え方や日本の企業のことで、全く答えられなかった。「コミュニケーションには相手を知るだけでなく、自分のことを知らなければならない」と痛感した。

 10年代半ばのポリエステル事業の構造改革も担当し、工場の閉鎖や生産技術の海外移転という役目を担った。それまでは「何事も一人で突破するケースが多かったが、事業構造改革は一人では無理だった。チームを作ってゴールを定めて取り組むことの重要性を知った」と話す。

 それらの経験が「論理的に考えて、全てを包み込む包容力」(鈴木純代表取締役社長執行役員)を形作った。内川氏自身は「論理的といわれるのはうれしいが、頑固な面もある。原理原則にのっとっていないことについてははっきりとノーという意思を示す」とした。

 社長就任の内示を受けた時は頭が真っ白になった。結構長い時間言葉を発することができなかったと言うが、やりたいことがやれるチャンスと考えた。「思い浮かんだアイデアをすぐに試せる企業でありたい。始めるのもやめるのも方向転換も軽やかにできる風土を作る」と抱負を語った。

(桃)

 うちかわ・あきもと 1990年帝人入社、2017年帝人グループ執行役員マテリアル事業統轄補佐兼繊維・製品事業グループ長付、20年複合成形材料事業本部長、21年4月帝人グループ常務執行役員兼マテリアル事業統轄(現任)などを経て、同年6月取締役常務執行役員。