寄稿 生分解製品について/一般財団法人 ボーケン品質評価機構 認証分析事業本部 今枝 大輔 氏
2022年02月28日 (月曜日)
いまえだ だいすけ 2006年京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科応用生物学専攻博士前期課程修了。09年愛媛大学大学院理工学研究科環境機能科学専攻博士後期課程修了。環境分析企業、科学機器メーカーを経て14年一般財団法人ボーケン品質評価機構に入構。同年東京事業所化学分析センターに配属され、アゾ色素由来特定芳香族アミン分析、樹脂鑑別、クレーム分析、熱分析など各種分析業務に従事。18年より大阪認証・分析センターに異動、VOC分析、クレーム分析、生分解性試験などに従事し、現在に至る。
1.はじめに
~プラスチックと環境問題~
私たちの日常生活はさまざまな製品に支えられています。衣服、ペットボトル、パソコン、車、ゴミ袋、冷蔵庫、歯ブラシなど、挙げればきりがありません。これらのほとんど全ての製品にプラスチックが使用されています。プラスチックは合成樹脂ともいわれており、その大半は石油(ナフサ)を原料として作られます。これほど身近なプラスチックですが、いつごろに登場し、どのように普及していったのでしょうか。
プラスチックの工業的製造で最初に成功したのは、1869年に誕生したセルロイドといわれています。ただ、セルロイドの主成分であるセルロースは天然高分子なので、真の意味で工業化に成功したプラスチックは、1909年に誕生したフェノール樹脂といえます。フェノール樹脂はコールタールから得られるフェノールとホルムアルデヒドを原料としています。フェノール樹脂を皮切りにさまざまなプラスチックが発明されましたが、特に第2次世界大戦以降大きな躍進をみせた石油化学工業によって、プラスチック工業は目覚ましい発展を遂げました。現在、私たちが使っているプラスチックのほとんどは、石油の恩恵によるものです。
プラスチックの特徴としては、丈夫・軽い・良好な成形性・安価などが挙げられます。軽くて丈夫なので、元々金属を用いていた部品がプラスチックに置き換えられています。また、良好な成形性があるため、極薄のフィルムから分厚い構造物まで容易に加工できます。加工の際、金属など従来材料よりもコストを抑えることができるため、大量生産が可能です。そのこともあり、特に衛生面を考慮しなければならない医療・食品分野では使い捨て製品としてプラスチックが大活躍しています。
一方でこれらプラスチックの特徴が災いしてさまざまな環境問題を引き起こしています。丈夫で軽いという性質から、環境中に流出すると長期にわたって残留し、容易に越県・越境してしまうことが挙げられます。最近では海洋プラスチックごみ問題としてよく目にされる方も多いのではないかと思います。これら環境中に流出したプラスチックは、海岸に打ち上げられるなどして景観を損ねることがあります。廃棄されたプラスチックを餌と間違えて野生生物が摂食すると、腸閉塞や胃潰瘍などを引き起こすといわれています。さらに、プラスチックは環境中では風雨や波、光などの自然の作用によって劣化し、微細化され、いわゆるマイクロプラスチック(一般に5㍉以下のプラスチック片)という形態をとります。マイクロプラスチックの影響は現在多方面から研究されているところですが、人体に有害といわれている化学物質の運び屋として作用する、あるいは大きさによってはそれ自体にも毒性があるなどのことが明らかとなりつつあります(これら海洋プラスチックごみ問題については、2019年6月に大阪で開催されたG20サミットで、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を日本が提案し、80を超える国や地域でその内容が共有されています)。
それでは実際に環境中に流出するプラスチックの量はどれくらいなのでしょうか。16年にエレン・マッカーサー財団より公表されたショッキングな報告があります。それによると、陸域から海域に流出するプラスチックごみは、少なくとも年間800万㌧以上と試算され、このままだと50年には海洋のプラスチック総量が魚の総量を上回ると予測されていました。
このようにプラスチックについては、プラス面だけでなく負の側面も顕在化しています。そして、これら負の側面の解決手段の一つに生分解性プラスチックがあります。本稿では、生分解製品の中でも特に生分解性プラスチックに焦点を当てて紹介をしていきます。
2. プラスチックの生分解とは
~バイオプラスチック概説~
生分解性プラスチックと聞いてどのようなものを思い浮かべるでしょうか。最近では有料になりましたが、コンビニやスーパーのレジ袋が有名ではないかと思います。これらには生分解性プラスチックを使用していることを示すマークが入っているものもあり、多くの方が目にしたことがあるのではと思います。
生分解性プラスチックというと、自然界でプラスチックが細かくバラバラになっていく様子を思い浮かべる方、またそれ自体が生物由来材料のみで作られていると思っている方が多いようです。そこで、ここでは生分解性プラスチックの定義について確認したいと思います。日本バイオプラスチック協会では生分解性プラスチックを、「単にプラスチックがバラバラになることではなく、微生物の働きにより、分子レベルまで分解し、最終的には二酸化炭素と水となって自然界へと循環していく性質」と定義しています。循環型社会を考える上で、「自然界へと循環していく性質」が重要になってきます。単なるプラスチックの細片では、自然界への循環は起こりません。また、原料が必ずしも生物由来である必要はありません。実際に生分解性プラスチックの多くは石油由来、もしくは石油由来と生物由来のハイブリッド型です。「生物由来材料」であることが重視されるプラスチックは、「バイオマスプラスチック」というものです。最近では、生分解プラスチックやバイオマスプラスチックのことを一括してバイオプラスチックと呼ぶことが多くなっています。これらはよく似た用語であり、いずれも「生物」をキーワードとすることから、どれがどのような特徴を持ったプラスチックなのか混乱される方も多いのではないかと思います。そこで、表1と図1に用語と概念図をまとめました。
本稿で取り上げている生分解性プラスチックは、使用済みプラスチックの廃棄問題や海洋プラスチック問題の解決策の一つとして期待されている素材と言えます。次の章で生分解性プラスチックの評価方法について紹介したいと思います。
3. プラスチックの生分解性評価法について
~コンポスト、土壌、海洋~
プラスチックの「生分解性」とは、先述しましたように微生物の作用によって最終的に二酸化炭素と水にまで分解されるものをいいます。「これは生分解性プラスチックです!」とアピールするためには、そのプラスチックが微生物によって分解されることを証明する必要があります。これを証明するための標準的な試験方法が各国・地域で規格化されています(表2参照)。環境によって生息する微生物の種類や数は異なりますので、それぞれの環境に応じた試験方法が考えられています。日本ではJIS(日本産業規格)として枝番を含め七つの方法が存在します。他には国際規格のISO、欧州規格のEN、米国規格のASTMなどが存在します(表2参照)。
試験方法の細かい内容については、規格によってさまざまですので、ここではよく利用されるコンポスト(JIS K6953及びISO14855)と土壌(JIS K6955及びISO17556)の規格を例に概略を紹介したいと思います。
まずコンポストの試験方法について紹介します。試料を粉末状にします。粉末試料と植種源(微生物を含んだコンポスト)を混合し、温度58℃で6カ月間培養します。培養期間中に一定の間隔で、二酸化炭素発生量を測定し、どれくらい生分解が進んでいるかを確認します。生分解の進行具合は、生分解度としてパーセントで表します。試験期間については、6カ月間をベースとしますが、プラスチックの種類によっては早い段階で生分解度が頭打ちするものもありますし、6カ月経っても生分解が進行しているものもあるので、試験期間を短縮もしくは延長することも認められています。この規格は堆肥化施設(コンポスト施設)での生分解を想定していますので、他の規格に比べて温度が高くなっています。コンポスト施設は、自治体等が管理する大型施設と家庭用コンポストに大別され、主に生ごみ処理の用途で利用されています。従って、コンポスト規格のメインターゲットは、生ごみ袋や食品トレーなどといえます。
次に土壌の試験方法についてです。基本的な方法はコンポストと同じなので割愛しますが、試験温度と試験期間に違いがあります。土壌の試験方法では、温度は20~28℃の範囲で選べるようになっており、25℃が推奨されています。試験期間については、6カ月を超えないことが望ましいとされていますが、最大で2年まで延長することができるようになっています。土壌の規格では、農林業に使用するプラスチック(農業用マルチフィルムや育苗ポットなど)がメインターゲットです。
いずれの試験においても、最終的な生分解度は二酸化炭素発生量などで定量的に評価しますが、試料の目視観察も行います。実際の試験試料ではありませんが、目で見て分かるように、土壌に埋めた場合の製品の一例を図2に示しました。
これら生分解性試験専用の規格以外にも、他の試験規格を活用した独自の試験方法を採用している場合もあります。当機構と業務提携しているドイツのホーヘンシュタイン研究所では、セルロース繊維の微生物耐性試験と微生物によるプラスチックの劣化判定試験のISO規格を基にして、独自の試験方法を確立しています。
では、これら評価方法で生分解度が明らかとなったものであればどんなものでも「これは生分解性プラスチックです!」とアピールしてよいものでしょうか。例えば、生分解度が10%で頭打ちし、6カ月以上経過してもその数値が変わらないプラスチック製品があったとして、これを「生分解性プラスチック」とアピールして販売していたとしたらどうでしょう。多くの消費者は、「生分解性プラスチック製品は、いずれは全てが土に返る」と思っています。そのような消費者にとって、10%しか土に返らない生分解性プラスチック製品は少しだまされたように感じるかもしれません。このように「生分解性」を販売戦略の有力な特徴としてアピールする場合、前述のように、確かに生分解はするが…という製品もあるかもしれず、それを消費者が見抜くことのできる制度が必要となります。そこで、次に生分解性プラスチックの表示に関する第三者認証制度についてご紹介したいと思います。
「これは生分解性プラスチックです!」ということを表示するための制度として、国内では日本バイオプラスチック協会が定めている『生分解性プラ識別表示制度』(旧グリーンプラ識別表示制度)があります。制度の概要を表3に示します。
表3の通り、指定の材料を用い、指定の評価方法で60%以上生分解し、有害元素が基準値以内であることが確認されたものに対し、「生分解性プラ」マークの使用許可が日本バイオプラスチック協会より与えられます。生分解性プラのマークを図3に示します。このようなマークは前述の制度にのっとった製品であることを証明するものになりますので、消費者にとってはまがい物を購入しないためにも必要なものといえます。日本国内では、日本バイオプラスチック協会の生分解性プラマークの他に公益財団法人日本環境協会のエコマークがあります。海外でも欧米を中心に試験規格に基づいたマークや認証制度が用意されています。当機構の業務提携先のホーヘンシュタイン研究所でも「生分解性製品検査ラベル」の認証制度を用意しており、日本からはボーケンを経由して申請が可能です。
このように第三者認証制度は、生分解性プラスチック製品の正しい使用方法と普及推進に欠かせないものと言えるでしょう。
4.生分解製品の役割
~循環型社会を目指して~
最後に生分解性プラスチックの役割ついて概説したいと思います。
生分解性プラスチックは、廃棄物処理の合理化やプラスチックごみ問題解決のために開発されました。最近よく目にするSDGs(持続可能な開発目標)の中の「No.12つくる責任 使う責任」「No.14海の豊かさを守ろう」「No.15陸の豊かさも守ろう」の3項目に関わりがあります。中でも特に重要と考えられるのが「No.12つくる責任 使う責任」です。生分解性プラスチック製品をつくる側の責任としては、十分な性能を発揮する製品の開発はもちろんですが、消費者に誤解を与えることのないよう、第三者認証制度等をうまく活用して、市場に提供する必要があります。一方で使う側の責任としては、生分解性プラスチックの特性や存在意義を十分に理解しておく必要があります。言うまでもないことですが、生分解性のマークやラベルが付いているからといって、ポイ捨てなど不法投棄してよいものではありません。これらマークやラベルは、生分解性プラスチックの正しい利用を推奨するために付与されているもので、どこに捨てても構わないというものではありません。つくる側としても、販売の際にはポイ捨てを助長しかねないような表現は避けるべきです。
日本における生分解性プラスチックの普及率は、世界の他の先進諸国と比べると残念ながらまだまだ低いのが現状です。生産コストの問題がよく取り上げられますが、消費者意識の問題も大きいということが分かってきました。海洋プラスチックごみ問題を背景とした2019年の意識調査では、欧米先進国に比べ、日本人の環境問題への意識が圧倒的に低いという結果が出ています。しかし最近では、民間レベルでのSDGsの普及といった変化の兆しも見えつつあります。当機構でも生分解性プラスチックを含む世の中の「サステイナビリティー」のニーズに応じたコンサルティング業務などを推進しており、お客さまのSDGs実践のお手伝いをしています。人類の持続可能な発展の為にも、SDGsの実践は不可欠です。生分解性プラスチックの正しい利用と普及推進に、つくる側・使う側双方が意識を持って取り組むことで、結果として海も陸も守ることに結び付き、目標達成への道筋につながるのではないでしょうか。




