ベトナム/残業上限、月72時間に緩和へ/人手不足受け、国会に改正提案

2022年04月08日 (金曜日)

 ベトナム政府は、法定労働時間に関する労働法の規定を見直し、残業時間の上限を現行の月40時間から月72時間に緩和することを国会に提案した。新型コロナウイルスの感染拡大で深刻化する製造業などの労働者不足を残業で補い、生産水準を維持する狙いだ。労働者側からも残業手当による所得増への期待から見直しを支持する声が出ている。

 政府公式サイトによると、政府の提案は残業時間の1カ月当たりの上限を現行の1・8倍に引き上げると同時に、1年間の上限時間を300時間とする内容。全ての業種が対象になる。

 残業時間については、2021年1月に施行された改正労働法で、1カ月当たりの上限がそれまでの30時間から40時間に引き上げられる一方、年間の上限は200時間と規定された。ただ、繊維、縫製、皮革、靴、電気、電子製品製造・輸出などの業種や、特別な事情がある場合には、年間上限を300時間に延長できると指定されており、今回の改正では1カ月当たりの上限時間を広げることが主眼になる。

 商工省は、南部各省市などでロックダウン(都市封鎖)に伴う製造業の操業継続規制が実施された昨年夏、残業時間の月単位の上限規制を廃止する規制緩和案を関係省庁などに提案していた。今年2月以降の感染者数は昨年夏を大幅に上回る水準で推移しており、人手不足がより深刻化していることから、政府は月単位の上限時間を大幅に引き上げる改正提案に踏み切ったもようだ。

〈サプライチェーン、再び寸断リスク〉

 国会社会問題委員会の元副委員長であるブイ・シー・ロイ氏は、2月のテト(旧正月)明けから国内の新型コロナの感染者が急増しており、現行の残業時間規制が多くの企業活動の障害になっていると説明。「企業は昨年まで停滞していた事業を前に進め、受注に対応して生産水準を引き上げる必要がある」と述べ、政府の提案を基本的に支持する意向を示した。

 ロイ氏によると、人手不足の深刻度は業種によってばらつきがあるほか、季節要因が重なっている可能性がある。このため、残業規制の緩和対象を一部の業種に限定することや、法改正による恒久的措置ではなく、政令などによる時限措置とする方法もあると指摘。いずれの場合でも、健康を損なうような過重労働にならないことと、適正な残業手当が支払われることが前提になると付け加えた。労働者も残業時間を増やすことによる収入増を期待している状況だと述べた。

 元労働科学・社会問題研究所所長のグエン・ティ・ラン・フオン氏も、2月以降の感染者数の急増によって、サプライチェーン(供給網)が寸断するリスクに直面しているとして、「企業の生産の柔軟性を高めることで、顧客からの注文に応えられるようにすることは、競争力を維持する上で重要だ」と述べた。

〈昨年のロックダウンに続く困難〉

 新型コロナ感染者の増加による人手不足については、企業からも切実な声が上がっている。

 北部バクニン省イエンフォン工業団地でセラミックタイルなどの建築材料を生産するカタラン社のグエン・バン・グエン副社長は、「工場では感染者が急激に増えており、感染第4波初期に集団感染が広がった21年春に続く人手難に直面している」と述べた。

 グエン氏は、残業時間の上限について、月単位を廃止し、年単位のみ規定することを提案している。製造業の多くは季節による繁閑の差があり、注文が一時期に集中する傾向があるためだという。

 北部など8省市に縫製工場を保有する第10縫製社では、2月のテト休暇明け後に、一時は1万2千人以上いる従業員のうち、7割以上の従業員が感染し、10~14日間の出勤停止を余儀なくされた。

 同社のバック・タン・ロン副社長は、テト休暇以降、従業員に占める感染者の比率は平均約40%だとして、「生産は通常から50~70%減少しており、多くの顧客に商品の納入時期を遅らせてもらうなどの影響が出ている」と説明した。同氏も、作業の遅れを少しでも取り戻すための残業規制の緩和を求めた。

〈収入増の期待も〉

 イエンフォン工業団地を含むバクニン省の工業団地では、昨年5~6月にかけて多くの企業で集団感染が発生し、韓国サムスン電子の系列工場などを含む多くの工場がロックダウンの対象となった。その間、従業員も休業を余儀なくされ、所得が大幅に減った例も少なくない。

 首都ハノイのシャツ縫製工場で働く女性は「残業手当は通常の給料の1・5倍になるので、残業時間を増やすことができれば収入面でだいぶ楽になる」と期待した。工場では2月以降、輸入用シャツの注文増に応じるために1日1時間の残業を要請されてきたが、最近は1日2時間になっているという。

 同じ工場で働く女性は、昨年以降の月給が800万~900万ドンに過ぎず、夕方に帰宅してから毎日5時間のアルバイトに出掛け、月額300万~400万ドンの収入を補ってきた。工場での残業時間が増えればアルバイトに行く必要がなくなると話した。

[NNA]