2022年春季総合特集(10)/トップインタビュー/三菱ケミカルHDG/三菱ケミカル経営執行職・モールディングマテリアルズディビジョンディビジョン長 八木 貞輝 氏/繊維事業の成長を着実に

2022年04月21日 (木曜日)

 三菱ケミカルホールディングスグループは、アクリル繊維とトリアセテート繊維の成長に向けて着実なステップを踏む。2021年度(22年3月期)は新型コロナウイルス禍前の19年度には届かないものの、両繊維ともに回復基調をたどる。八木貞輝三菱ケミカル経営執行職フィルムズ&モールディングマテリアルズドメインモールディングマテリアルズディビジョンディビジョン長は「22年度も数量のさらなる回復が見えている」とし、コスト削減や拡販のための施策を進める。同時に環境対応への取り組みのアピールも強める。

  ――ウイズコロナ時代に成長するために必要な要件はどう考えていますか。

 繊維でとらえると衣料と資材で状況が違います。まず衣料から言うと、外出する機会の減少が大きく影響するでしょう。消費者の間で高額品ではなく、安価品を選ぶ傾向が強くなると想定されます。ただ、高機能も欠くことができないキーワードになっていくと考えられます。そうした中でどのように対応していくかです。市場の変化は、顧客の要求の変化につながり、その変化に応じる力が求められます。

 次に資材ですが、例えば自動車などはガソリン車から電気自動車(EV)へのシフトなど、100年に一度の変革期といわれています。素材メーカーに求められる物も当然変わるでしょう。その中で要望が高まる可能性があると思っているのは軽量化です。そうした要求に対して積極的に対応していかなければなりません。サステイナビリティーの意識も高まっており、自分たちの素材が環境対応にどのような形でつながっているのかを知ってもらうことも重要です。

  ――21年度を振り返るとどのような1年でしたか。

 繊維事業は20年度と比べると数量は着実に戻りつつあるのですが、新型コロナ禍前の水準には届いておらず、厳しさは続いていると言えます。素材別で見ると、トリアセテート長繊維「ソアロン」は描いていた絵に近い回復を見せています。中国の復調が見込んでいたほどではなかったのですが、欧米と日本が比較的堅調でした。日本は高級婦人服の需要回復が寄与しました。

 アクリル繊維も20年度と比べて数量が回復を見せています。中国からの引き合いが活発化しているのですが、マイクロタイプの「ミヤビ」や芯鞘構造の「コアブリッド」など、高機能商品がけん引しています。アリババグループのネット通販サイト「Tモール(天猫)」との協業も順調です。日本国内もカーペットや毛布、肌着などの各分野で少しずつですが復調しています。

  ――アクリル繊維は極細の「XAI」(サイ)の展開を強化してきましたが、現状は。

 吸音材として自動車関連で訴求してきました。顧客によるテストも行われ、性能は認められています。半導体不足による自動車生産台数減少の影響は少なくありませんが、少しずつ増やしていきたいと思っています。メインの用途は自動車ですが、工場やリビング関連など、幅広い分野への提案も考えています。ポリエステルと比べてコスト優位性もあるので可能性は大きいと期待しています。

  ――22年度に入りました。経済や市場の動向をどう読んでいますか。

 読めないというのが正直な意見です。中でも原燃料価格がどうなるかが最も不透明と言えます。価格の上昇と下落がどれだけの期間、どれだけの幅で動くかによって受けるインパクトが全く違ってきますが、どのような状況になっても対応できる手段を考えておく必要はあります。為替は年単位でとらえれば影響は小さいのではないでしょうか。衣料品市場については活性化の雰囲気が感じ取れるようになっています。

  ――そうした環境下でどのような方針で事業を進めますか。

 繊維は分野や用途によっては黒字化が実現できています。しかしアクリル原料のアクリロニトリルをはじめ、原燃料・原材料価格が高騰しており、製造面と販売管理費を合わせたコスト削減に力を入れます。販売数量は今年度も着実に戻ってくると予想しているので、コスト削減にしっかりと取り組みたいですね。後は三菱ケミカルホールディングスグループの素材のアピールを強める方針です。

 アクリルは資材用途の開拓に引き続き取り組みます。現状で資材分野向けは約20%ですが、これを着実に引き上げたいですね。繰り返しになりますが、特に自動車関連の深耕に狙いを定めているので、今後もサイの提案強化に努めます。アクリル、ソアロンに限らず、市場は需要の拡大が見込まれる中国はもちろん、欧州と米国、日本の全方位で攻めていきます。

  ――ソアロンは北陸産地との連携が欠かせません。

 北陸には緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除されている時に何度も訪問しているのですが、北陸産地の企業の皆さんがソアロンに対して非常に愛着を持ってくれていると毎回実感しています。その思いに応えられるよう北陸の企業とはこれまで以上に連携を深めたいと思っています。

  ――環境負荷低減への取り組みは。

 ソアロンは各種認証の取得や独自の「ソアグリーンプログラム」を推進し、サステイナビリティー素材として浸透しています。アクリル繊維は製造時のエネルギー削減や温室効果ガス排出削減に取り組んでいるほか、リサイクルも進めています。工場で出るくずなどを再び溶解し、0・6デシテックスクラスのわたを生産しています。資材用途で提案を始めていますが、衣料用途でも可能性があります。

 中長期的にはカーボンニュートラルを志向していきます。エネルギー効率を高める取り組みを進めるほか、グリーンエネルギーへの切り替えも必要になるでしょう。技術的にステップアップが必要なのですぐにではなく、数年後の実現を目指します。アクリル原料のバイオ化も追求します。

〈春を感じる時/車内で見かける初々しい姿〉

 今年は奥さんと桜の花を見に行き、その時に春を感じることができたと話す八木さんは、以前は街や通勤電車などで新社会人と思われる人たちを見ると「春だな」と思っていたと言う。初めて袖を通したようなスーツを着用しながらもりりしい姿は、どこかほほ笑ましく、自身も新鮮な気持ちになった。新型コロナ禍の影響もあってオンラインでの入社式や研修が増え、「春を感じる景色が見られなくなってきた気がする」とつぶやく。来年の春は初々しいスーツ姿が街に車内に戻ってほしい。

〈略歴〉

 やぎ・さだき 1987年三菱化成工業入社。2010年三菱化学四日市事業所機能化学品1部製造部長、15年三菱化学坂出事業所電極材料部製造部長、17年三菱ケミカル坂出事業所管理部長、19年同理事役愛知事業所長、20年同経営執行職愛知事業所長、21年同経営執行職フィルムズ&モールディングマテリアルズドメインモールディングマテリアルズディビジョンディビジョン長。