特集 コットンの日(3)/先端テクノロジーと綿花/持続可能性と追跡可能性を確立

2022年05月10日 (火曜日)

 国際綿花評議会(CCI)は現在、「米綿は世界で最もサステイナブルな綿花である」と強調する。科学的精密農法の導入によって栽培時の環境負荷を大幅に低減したことに加えて、先端テクノロジーを応用したサステイナビリティーとトレーサビリティー検証システム「USコットン・トラスト・プロトコル」も拡大が進む。

 米国では現在、最新の科学技術を応用して土壌の変動、栄養要求量、植物へのストレスなどを総合的に管理し、水や農薬、肥料の投入量を最適化する科学的精密農法が急速に普及し、綿花栽培農家の70%以上が何らかの科学的精密農業を導入しているとされる。

 これによって栽培過程の環境負荷は劇的に低下した。サステイナブルな農業を目指す組織・企業連合であるフィールド・トゥ・マーケットの計測によると1981年から2016年までの35年間で米綿栽培による環境負荷は土地利用で31%、土壌侵食が44%、水資源は82%、エネルギーを38%、温室効果ガスは30%ぞれぞれ軽減されたとする。

 米綿業界はさらに野心的な数値目標を掲げる。25年までに「綿花1ポンド当たりの土地利用面積13%削減」「水1ガロン当たりの収穫高18%増」「綿花1ポンド当たりの温室効果ガス排出量39%削減」「綿花1ポンド当たりのエネルギー使用量15%削減」「土壌流出50%削減」「単位面積当たりの土壌炭素量30%増」という目標を掲げる。

〈USコットン・トラスト・プロトコル/グローバルブランドも参画〉

 全米綿花評議会(NCC)を中心に米綿業界が導入を進めている米綿のサステイナビリティー・トレーサビリティー検証システム「USコットン・トラスト・プロトコル」が順調に拡大している。

 USコットン・トラスト・プロトコルは綿花栽培のサステイナビリティーを定量的に計測するシステム。綿花農家が栽培時の環境負荷をシステムの基準を基に自己評価する。データはサステイナブル農業を目指す団体であるフィールド・トゥ・マーケットのフィールドプリント・プラットフォームを通じて、アパレルや小売業者で共有する。

 プロトコル認証綿は1㌔ごとに1電子クレジットが付与され、プラットフォーム上のプロトコルバンクに預託される。アパレル・流通がプロトコル認証綿を使用する際に電子クレジットが引き出されることで、プロトコル認証綿の生産と消費・流通は電子クレジットの収支によって管理するトレーサビリティー管理システムも実装された。

 米国やアジアの繊維企業が多く参加し、日本からは日清紡テキスタイル、大和紡績、シキボウ、東洋紡STC、旭紡績、綾部紡績、クラボウ、丸三産業、近藤紡績所、南海テックス、山忠棉業、カクイ、カイハラ、豊島、東洋棉花、STX、シーアイランドクラブ、グンゼなど、国内外子会社も含めて38社が加入している(4月末現在)。

 海外のアパレル・小売企業の参加も加速しており、既にギャップやリーバイ・ストラウス、「トミーフィルフィガー」「カルバンクライン」など有力ブランドを展開するPVHなどグローバルアパレル・リテーラーが相次いで参加した。

 アパレル・流通はトレーサビリティーの確保を一段と強めている。こうした課題を解決するツールとしてUSコットン・トラスト・プロトコルは今後、グローバルアパレル、リテーラー、SPAの取引条件への導入など調達戦略への組み込みが加速する可能性がある。

〈「コットンUSA」マーク/サステイナブルな米綿の印〉

 良質な米綿使いであることを証明するのが、CCIが認証する「コットンUSA」マーク。サステイナブルな科学的農法で栽培される米綿使いの印として注目が一段と高まっている。

 コットンUSAマークは、米綿を51%超使用し、認定サプライヤーである紡績や不織布メーカー、テキスタイルメーカーから原材料を調達した繊維製品に添付することができる。もちろんマークにふさわしい品質やブランド力があることも前提となる。

 近年、世界的にサステイナビリティーへの要求が一段と強まる。消費者の間では綿花の栽培過程での労働問題を重視する動きが加速した。このためトレーサビリティーを確保したサステイナビリティー原料を使用した綿製品を消費者にアピールする際にコットンUSAマークが有力なアイコンになる。

〈「シーアイランドクラブ/海島綿の認知度向上へ〉

 綿糸を販売するシーアイランドクラブ(東京都中央区)は、海島綿(シーアイランドコットン)の認知度向上に継続して力を入れる。比較的高い年齢層には世界最高級のコットンとして知られているが、40代以下の若年層への浸透も図っていく。同時にサステイナビリティーにも取り組む。

 海島綿は、カリブ海地域に生育する超長綿。他の超長綿と比べても繊維長が長く、繊度の細さや光沢感にも優れている。超長綿の収穫量は綿花全体の2%以下といわれているが、海島綿はその超長綿の中の0・01%しか収穫できない。品質はもちろん、希少性の高さも特徴の一つだ。

 日本では1976年に協同組合西印度諸島海島綿協会が立ち上がり、ブランディングが始まった。組合員に向けた事業運営が主体だったため入会資格や組合員以外への海島綿の販売などに制約があった。2021年7月に一般社団法人に登記変更し、マーケティングや販売促進活動を加速している。

 同社はカリブ地域と米国産海島綿の原綿を輸入し、国内で紡績して販売している。海島綿100%の太番手糸(10番単)から細番手糸(140番単)までそろえる。従来は高級シャツが主用途だったが、一般社団法人化もあって間口が広がり、「タオルやデニムで使いたい」という声も上がる。

 今後もステータスを維持しながらの販売拡大や認知度向上に継続して力を入れる。現状の収穫量はカリブ地域と米国を合わせて150トンだが、3倍程度は増やせるという。持続可能性も課題。カリブ地域ではジャマイカでの生産に限られているが、バルバドスなどでの栽培を復活させる。