技術の眼

2022年05月17日 (火曜日)

 「技術の眼~NEW WAVE GENERATING TECHNOLOGY~」では将来的にニューウェーブを巻き起こしうる重要な技術にスポットを当て、紹介する。

〈YKK/挿入補助スライダー〉

 ファスナーを閉じる際の挿入作業は、加齢による視力低下などで困難になってくるもの。YKKは、こうした細かい作業を楽にできるようにするため、「挿入補助パーツ」を開発し、2014年から販売している。

 さらにコンパクトさを追求して開発したのが「挿入補助スライダー」で、蝶棒をスライダーの下面に添えて入れることができる挿入補助機能を加えた。従来品よりスライダーの下面を広げることで、さまざまな角度からでも容易に蝶棒を差し込めるようにした。挿入口も拡大したため、上からの視線でも挿入の位置を確かめやすいのも特徴的。

 コイルファスナーNo.3用として展開しており、高機能性を生かして多様なアイテムに向けた提案を進めている。

〈Rinnovation/ビールの副産物をデニムに〉

 地域創生事業を行うRinnovation(リノベーション、東京都文京区)が手掛けるデニムブランド「シマ・デニム・ワークス」はこのほど、サッポロビールと協業し、ビールの製造過程で出る副産物を活用したデニムを使ったストレートジーンズを開発した。織布、縫製は備後地域の企業が協力。30本限定で抽選販売を行った。

 使用したのは、ビールの製造時に出るモルトフィード(ビールかす)や、ホップの収穫時に出る茎や葉など。

 食品のパウダー加工を行うオキナワパウダーフーズ(沖縄県糸満市)がこれらをパウダー状に粉砕。特殊紙を製造する大福製紙(岐阜県美濃市)がパウダーとマニラ麻を混ぜ合わせて和紙にし、ここから糸を作った。デニム製造の篠原テキスタイル(広島県福山市)が経糸にインディゴ糸、緯糸に和紙糸を使って生地を織り、デニム縫製のNSG(同)がジーンズに仕上げた。

〈三陽商会/雨傘基準クリアしたコート〉

 三陽商会が展開するコート専業ブランド「サンヨーコート」はこのほど、雨傘の基準試験をクリアした婦人用「アンブレラコート」を発売した。撥水(はっすい)機能を持つ生地と糸を用いたほか、コートでは通常使わない「つまみ縫い」という雨傘特有の縫製手法を衣服向けに開発したテクニックを導入。開発に当たっては、素材選定やデザイン面で洋傘老舗メーカー、ムーンバット(京都市)と協業している。

 日本洋傘振興協議会の耐漏水準用試験をクリアし、コート内に漏水が見られず傘同等の基準を確認している。トレンチコート、ステンカラーコート、モッズコート、マウンテンパーカの4タイプをそろえ、価格は4万4千~6万9300円。トレンチとステンカラーは自社工場「サンヨーソーイング青森ファクトリー」で縫製した。

 同社では「雨の日だけではなく、羽織りものとしてスタイリッシュに着用できる」とした。

〈帝人フロンティア/撥水と吸汗、相反する機能両立〉

 帝人フロンティアは、表面撥水(はっすい)と裏面吸水性能を両立した生地「アクアリズム」を、23春夏一般ファッション向け主力商品として投入する。ボトム、ポロシャツ、ジャケット用途での展開を想定。

 アクアリズムは糸自体が撥水機能を持つ高耐久撥水原糸と、生地に凹凸を出す特殊マイクロクリンプ糸を採用した点が特徴。通常の撥水機能と同様、水を弾き、空気や水蒸気を放出する。原糸の撥水にはC6フッ素系撥水剤を使用しているが、今後非フッ素撥水剤も検討していきたいとする。肌面に当たる裏側には吸水、通気性を持つ生地を接結する特殊2層構造となる。

 23春夏一般ファッションから「究極の水処理素材」として売り込みを図る。当初は編み物を先行し、その後織物を追加していく。薄地から厚地まで対応でき、ファッション用途としてハリ感のある生地の風合いと着心地の良さで訴求する。

〈日清紡テキスタイル/不織布の裁断くずで糸〉

 日清紡テキスタイルは、不織布の生産工程で発生する裁断くずを素材の一部として利用した糸「めぐりコットン」を開発した。

 同社の綿100%不織布「オイコス」の生産工程で発生する耳端などを再利用する。同不織布は、バインダー(接着剤)を使わずに水のみで繊維を交絡させる独自製法で作られる。

 解繊機を導入し、裁断くずの利用法を検討してきた。通常なら、裁断くずに混在する不純物を取り除く工程が必要だ。「オイコス」の裁断くずならその必要がないと考えて試作を重ね、今回のリサイクル糸を開発した。

 混率はバージン綿70%、解繊綿30%。10、16、20番手をそろえた。今後、解繊綿100%の糸、再生ポリエステルと解繊綿のみを使った糸、生分解ポリエステルと解繊綿のみを使った糸、ポリエステル・レーヨン不織布を解繊したポリエステル・レーヨン糸なども商品化する。

〈日華化学/水を使わず染料除去〉

 日華化学は、プリンテッド・エレクトロニクス製造技術の開発などを行うエレファンテック(東京都中央区)と共同で、染色されたポリエステル生地から水を使わずに染料を取り除く「ネオクロマト加工」を開発した。脱色した部分は再度染色・プリントでき、何度でもデザインを変えることができる。

 ネオクロマト加工は、安全性の高い薬品を使って、ヒートプレス機だけで分散染料のみを数分で取り除く。日華化学の界面科学技術を応用して開発した。水を使わずほぼ完全に染料を取り除くことができ、何度でも色・プリントを消して、新しいデザインを付与することができるという。

 衣料品やテキスタイルの大量廃棄問題に対応する技術として提案していく。Tシャツやスポーツユニフォーム、ポリエステルサイネージなどのリデザインや、ポリエステル繊維を脱色してマテリアルリサイクルの原材料とするなどの使い方を想定する。