突き抜けた商品をつくる/三陽商会、会社横断で挑む

2022年06月24日 (金曜日)

 構想から約2年、三陽商会のモノ作りが変わろうとしている。1943年の創業当初からコートを軸に重衣料の品質に定評があった同社だが、昨年5月に改革を伴う全社横断プロジェクト「商品開発委員会」(SANYO PDC)を立ち上げた。その狙いは“突き抜けた商品”を生み出すことにある。マーケットインの画一的な企画を打ち破れるか、22秋冬シーズンは試金石になりそうだ。

 大手アパレルが全社を挙げて商品開発に取り組むケースは珍しい。特に三陽商会は自社工場で高品質なコートを縫製しており、消費者の評価も高かった。しかし、2020年5月に社長へ就任した大江伸治氏は「ブランドの顔となる商品が必要」と話し、同委員会を立ち上げた経緯がある。三陽商会は昨年来から収益の改善を念頭に置いた、仕入れの抑制や品番数の絞り込みを実践しているが、水面下で商品力の向上にも取り組んだ。

 委員長に就任した取締役専務執行役員の加藤郁郎氏は「より価値を高めた商品を開発し、消費者に訴求するのがミッションだ」と話す。大江氏はかねて商品の個性化やブランド価値を高める戦略を掲げており、同委員会で具現化するに至った。手始めに、自社工場のサンヨーソーイングを開発拠点にした機能性コートなど約40型を投入する。

 商品開発に伴い、サンヨーソーイング青森ファクトリー(青森県七戸町)、福島ファクトリー(福島市)の設備を増強。青森ファクトリーはトレンチコートを軸に高品質なアウターを縫製していたが、新たにダウンジャケットやアウトドア系のアウターも縫製できるようになっている。

 22秋冬は、防水透湿性に優れた合繊生地「パーテックス」を使用したコートを製作する。紳士服の「ポール・スチュアート」「マッキントッシュ ロンドン」などで打ち出すほか、体温域の自然な温かさをキープする集熱保温繊維「光電子」を採用したアウターを、婦人服の「エポカ」など7ブランドから提案する。

 両工場は、研究開発を推進する拠点としても機能させる。アウターの試作品は社内で好評だったが「あくまでも評価するのは消費者。高額なコートもあるので価値を分かってもらえれば」(加藤氏)としている。福島ファクトリーでは、スーツのクイックレスポンス(QR)に対応し、ジャージー素材のセットアップといった直近のマーケットで求められるアイテムの縫製も可能にしたほか、レディーススーツも手掛けるようにした。

〈組織、生産面で改革/三陽商会 取締役専務執行役員 事業本部長兼マーケティング&デジタル戦略本部長 加藤 郁郎 氏〉

 商品開発委員会を立ち上げ、組織と生産面で進捗(しんちょく)と成果があった。旧来はブランド間における横のつながりが希薄で、縦割りの運営体制だった。そこで事業本部を一本化し、社員の連携に加え、周囲のブランドの動きが分かるようになった。作業を可視化したことで、ブランド責任者や工場長、宣伝販促、広報など約20人で構成する本委員会でも自由闊達(かったつ)な議論が交わされている。

 欧州のラグジュアリーブランドには揺るぎない歴史と顔となる商品がある。当社にも“100年コート(サンヨーコート)”という商品があるものの「マッキントッシュ ロンドン」「ポール・スチュアート」にももっと強い代表的な商品があっても良い。それぞれにコートやスーツといった強みがあるが、突き抜けた商品開発や発信ができていなかった。本委員会を介し、明らかに社員の開発力が変わってきた。

 生産面では、トレンチコート特化型の縫製工場だったサンヨーソーイング青森ファクトリーを技術拠点となるR&D化し、さらに薄手のカジュアル系やダウンなど多くのコートを縫製できるようにした。ミリ単位で求められる技術が異なり、糸のテンションや針の種類も違うことから多品種のコートを製作できるようにするのは容易ではなかった。

 同時に、職人たちの意識改革を促し、素晴らしいコートを縫えるようになった。(ダウン用の)充填(じゅうてん)機なども新たに導入した。福島ファクトリーの設備も増強し、短納期でパターンオーダーを展開できるようになっている。シャツのオーダーも可能だ。本委員会での取り組みを継続し、根幹を成す商品をさらに生み出したい。