LIVING-BIZ vol.84(10)/“国産毛布”復権へ~重さ半分・ボリューム2倍を実現~/東レ/西川/森弥毛織
2022年07月15日 (金曜日)
東レ 短繊維事業部短繊維衣料課 佐々木 桂樹 氏
西川 商品第3部第1課 課長 増田 修一 氏
森弥毛織 専務 森口 憲一 氏
安価な輸入毛布が市場に出回り、苦戦する国産毛布。1995年以来、日本製毛布の生産量は輸入量を下回り、かつて1千万枚を超えた国内生産量は現在、製造キャパシティーで150万枚ほどに縮小した。そうした中、国産毛布の復権に向け、東レ、西川、森弥毛織の3社が協業。原料から差別化した高機能・高品質の毛布で、日本製の良さを改めて訴求する。
〈温かさ+お悩み解決〉
――3社協業の経緯と目的をお願いします。
増田氏(以下、敬称略)「生活者が本当に欲しい毛布を届けたい」というのが始まりです。温かいのは当たり前。そこに、毛布に対するお悩み解決の要素を加えることにしました。
その一つが軽量化です。毛布は目付が重いほど温かくなりますが、重くて「寝にくい」「扱いにくい」と感じる人も多い。そこで軽さと温かさという、相反する機能を兼ね備えた毛布作りに挑みました。森弥毛織さんからも同じような提案があり、2020年の秋ごろに開発をスタートしました。
森口氏(同) 東レさんに相談して毛布用の試作糸を2、3種類作ってくださり、増田課長と検討してアクリルの“ハイハイバルキー”糸を採用しました。この糸は熱処理すると収縮し、糸の中に多くの空気を含みます。軽量でも温かさを確保できるというわけです。
佐々木氏(同) 短繊維事業部では長年、アクリルわたの収縮率アップに取り組み進化させてきました。収縮率が高いほど、かさ高になりボリュームが出ます。収縮率20%程度で“ハイバルキー”といわれますが、今回採用されたハイハイバルキーの収縮率は32%と高い。軽量ながら、豊かなボリューム感と温かさを提供します。
森口 アクリルは元々、ウールの特性を持ちながらも、扱いやすい合繊として開発されました。一時期、アクリル毛布が市場を席巻しましたが、近年では中国からの安価なポリエステル毛布に押されています。当社のある「毛布のまち」大阪府泉大津市でも工場数、生産量とも減少。今や、マイヤー毛布の一貫工場は当社だけになってしまいました。
今回の協業では、そうした現状に歯止めをかけ、国産毛布の良さを広く知ってもらいたいという思いがあります。
増田 昨今は毛布の需要自体も低下傾向ですが、根強いファンは少なくありません。生活者が本当に欲しい毛布、温かいだけでなく、軽くて肌触りが良く、取り扱いも楽な毛布なら喜ばれるはずです。アクリルはポリエステルより親水性が高く、家庭で手軽に洗える利点もあります。
佐々木 確かに、インナーなど頻繁に洗うものにもよく使われています。ポリエステルと比べて保温性の目安となるクロー値が高いのはもちろん、大きなデメリットもなく扱いやすい。天然繊維との比較では、耐洗濯性や防虫性などにも優れています。
〈原料から差別化〉
――原料段階からの取り組みは初めてですか。
増田 毛布を原料から作り込んだのは、当社にとって初の試みでした。
佐々木 当社では逆に、製品まで関わることは滅多にありませんでしたが、20年にファイバー・産業資材事業部門全体で始動した「プロジェクトⅠ」で変わりました。取引先と一緒になって新たな製品開発を推進しています。森弥毛織さん、西川さんとの協働もその一環です。ハイハイバルキーの用途開発では、毛布が製品化第1号となりました。
――試作の際、こだわったことは何ですか。
森口 試作に取り掛かったのは21年の初めごろです。“かさ高で軽い”点を最大限に引き出すため、パイル長や打ち込み本数を幾パターンも試しました。風合いを高めるポリッシングではポリッシャーの当て方や温度、パイルをいかに根元から立ち上げるかといった毛さばきなどにもこだわりました。工場を訪れた増田課長も加わって、試作・改善を繰り返したものです。
その結果、1枚もののニューマイヤー毛布ながら、2枚合わせの一般的なマイヤー毛布に比べ“重さ半分”、従来の1枚もののニューマイヤー毛布に比べ“ボリューム2倍”を実現。滑らかな肌触り、速乾性なども併せ持ちます。
増田 21秋冬シーズンにテレビ通販などで試験販売したところ、予想以上の反響がありました。テレビ通販の方々が森弥毛織さんの工場を見学し、「毛布のまち・泉大津」のモノ作りを伝えていただいたことも良かったです。
森口 当社では新型コロナウイルス禍で、生産量が一時期減りましたが、今では新型コロナ禍前の水準に盛り返しそうな勢いです。試作の際の社員たちの姿勢も、アクリル定番糸使いのときとは異なり、各工程の社員たちに一体感が生まれ、生き生きと取り組んでいました。
増田 いよいよ、22秋冬から「西川ブランケット」として本格発売します。最も大きな市場であるGMS向けの受注も好調で、多くの方々が手に取っていただけるとうれしいです。価格は少し高めですが、お客さまに喜んでいただける商品になっていると思います。
〈生活の質高める開発へ〉
――毛布をはじめとする寝具市場、睡眠市場はどうなるでしょうか。
増田 毛布に関しては、今まで保温性ばかりに焦点が当てられてきた面がありますが、今後は変わるでしょう。西川ブランケットでは快適性も追求しました。
毛布は掛けふとんの上に掛けるのがいいとされますが、西川ブランケットは地糸に吸湿性の高いレーヨンを使い蒸れにくいので、掛けふとんの中、直接体に掛けるのもお薦めです。接触温感もあるのでより温かく感じられます。睡眠環境をより良くする“プラス1”アイテムとして訴求していきます。そうした本来の特性に一工夫した商品開発が進むでしょう。
森口 毛布の需要は頭打ちの感があります。かつて毛布の年間需要は、人口の1割相当、1200万枚ほどといわれました。しかし、住宅や暖房の性能向上などで住環境が良くなり、隙間風に凍えることもなくなった今は、半減したと考えられます。そのような環境下で求められるのは、より良い睡眠をとり、健康的な生活をサポートする毛布ではないでしょうか。
佐々木 毛布に限らず、良質な睡眠を促し、快適な目覚め、日中のパフォーマンス向上に貢献する寝具が求められているようです。私どもとしては、そうした寝具にかなう素材の開発に力を入れたいと思います。同時に、単なる素材売りで終わらず、取引先と一緒になって製品開発まで関わり、生活者の悩みや困りごとの解決に力を入れていきたい。当社の素材が、生活をより豊かに快適にするモノ作りに貢献できればと考えています。
増田 原料からこだわった商品開発を増やしていければと思います。生活者の期待に応える、また潜在的なニーズを引き出すには、原料からの差別化が鍵でしょう。輸入品との差別化にもなります。年内には西川ブランケットを台湾へ輸出する予定です。
森口 台湾では結婚や両親へのプレゼントなどで毛布を贈る習慣があるそうです。期待できますね。国内では、日本毛布工業組合が推進する11月20日の「毛布の日」に向け、西川さんの販売店と協力し大々的な販促活動を展開したいと考えています。
――最後に今後の展望をお願いします。
増田 今年は“西川ブランケット元年”。自慢の逸品を生活者にアピールし拡販するのはもちろん、泉大津の産地活性化にもつなげていきたい。当社の毛布の国産比率は数量で2~3割、金額で4割といったところですが、国産回帰の動きはますます広がると思います。量では海外製にかないませんが、より多くの人に国産毛布の良さを伝えていきたいと思います。
森口 国産でしかできないモノ作りを極めたい。ハイハイバルキーの第2弾もぜひやりたいですね。モノ作りの力をより一層研ぎ澄まし、生活者が欲しいと思えるモノを作り続けていきます。
佐々木 従来の糸売り・わた売りから、より川下に踏み込んだモノ作りを推進し、新たな市場開拓を目指していきます。
――本日はありがとうございました。