特集・不織布新書02春/開発競争こそが大切
2002年03月07日 (木曜日)
不織布しかない化合繊短繊維
不織布しかない。化合繊短繊維各社の戦略はこの一点に絞られているが、需要は伸び悩み、単価は下落傾向にある。しかし、不織布の商品開発に、化合繊短繊維の果たす役割は大きい。価格競争ではなく、開発競争へ。化合繊短繊維各社の奮起に期待したい。
[ポリエステルS]安易な競争は市場をつぶす/エアレイド不織布に要注目
「不織布」。今後の重点用途は?との問いに対し、ポリエステル短繊維各社から返ってくるのはこの言葉しかない。紡績糸用が減少、詰めわたも伸び悩む中、国産で狙えるのは不織布しかない。しかし、01年不織布への投入量は前年を割り込んでしまった。芯地、中綿などの衣料資材、家庭用ワイパーのような生活資材向け不織布の落ち込みによるが、今年も見通しも芳しくない。国産5社の争いは激しくなっている。
あるポリエステル短繊維メーカーは言う。「不織布に期待を持ち過ぎではないか。消去法による拙速な戦略が感じられる」。こう指摘するのは不織布用途を大事に育てていきたいとの考えがある。昨年9月末、中間決算を控え、在庫処理が行われた。それが不織布に向けられた可能性を受けての発言だ。
では、在庫処分のような価格だけの戦略以外で勝負するために各社はどう動いているのか。ユニチカファイバーはペットボトルリサイクル短繊維生産の検討に入った。これまで長繊維はあったが、短繊維は生産していなかった。これをグループ企業のユニチカテキスタイルに供給するほか、不織布にも投入する考えだ。クラレは差別化をさらに追求するとともに、機能紙で先行しているように、乾式不織布を自ら展開することも考える。東洋紡も同様で、昨年、複合原綿設備を倍増の2万トンに増強し不織布シフトを強めるが、その一環として不織布原反をグループ企業に生産委託し、自らハンドリングすることも視野に入れるという。
帝人は全方位展開が特徴だが、ユーザーとの共同開発を重視。そのための原綿開発、加工開発に充実させている。その一環として昨年末には高速カード機を導入するなど試験設備の充実した。東レは出資する日本バイリーンとの連携だろう。
そんなポリエステル短繊維で注目されるのはエアレイド不織布。エアレイド不織布は空中にパルプを拡散し接着剤、またはバインダー繊維を用いて熱接着するもの。
国内では王子キノクロス、ハビックス(販売は三井物産との合弁会社ジェイソフト)が生産。おしぼり、クッキングペーパーなどに使われるが、今年、金星製紙(高知市、安光保二社長)も同設備を導入した。
パルプが中心素材ながら、ポリエステル短繊維で新用途も模索されており、ポリエステル短繊維各社とも開発を加速するが「分散性、バインダー性などからもう少し、時間がかかる」(帝人)と、まだものは出来あがってはいないようだ。これまで不織布には力を入れていなかったある総合商社もエアレイド不織布にはやる気満々で、社内体制も整えていると聞く。
こうした開発競争こそが不織布には大切だ。どこでも誰でも作れるようなものなら中国のような合繊超大国に負ける。だからこそ、不織布用ポリエステル短繊維は国産が握ってきた。
しかし、10月以降、ポリエステル短繊維のメーカー在庫はじりじりと増え、減産を強化しているにもかかわらず、今年1月末では3万6000トンを超えた。3月末に在庫処理が不織布でも行われる可能性がある。不織布の開発、用途開拓にポリエステル短繊維が担う部分は大きい。それだけに、価格戦略のような愚の骨頂は避けてもらいたい。
ポリプロピレンS/次世代の戦略素材が登場/チッソ「インタック」宇部「シムテックス」
ポリプロピレン短繊維の不織布投入量は業界推定によると、ほぼ横ばいの約3万5000トンにとどまったようだ。ポリプロはオレフィン系複合繊維を武器に紙おむつ用TBを高いシエアを誇るが、製品段階の価格競争、ポリエステル短繊維やSB(スパンボンド不織布)との競合もあって、量は維持できても単価は下がるという状態が続いている。ある企業は「昨年、単価は5%下がった。中には10%もあり、この春にもさらなる値下げの可能性がある」と頭を悩ませる。
最大手のチッソはこれに加え、合弁会社のESファイバービジョンズの米国生産開始(年産1万トン)という特殊問題もある。中国の広州ES繊維(年産1万トン)の米国向け、日本からの輸出も減るからだ。広州ES繊維生産品は中国、東南アジア向けでカバーする計画だが、米国向けの穴を今年埋め切れそうにない。
ただ、「ES繊維」は紙おむつ用サーマルボンド不織布のスタンダード。中国でもそのブランド力が生きており、日系紙おむつメーカーの進出も増えることから先行きは心配していないという。
国内でのシエア争い、価格競争は激しくなるばかり。その面では紙おむつ以外の用途開拓を早く1人立ちさせることはチッソだけでなく、ダイワボウ、宇部日東化成にとって重要課題だ。そのための戦略素材も開発されている。
チッソはパルプなど他素材との接着性に優れたオレフィン系複合繊維「インタック」。従来のオレフィン系複合繊維「ES繊維」に比べパルプ、レーヨン、コットン、木材など天然系素材や、アルミ、ガラス、鉄、セラミックなど無機素材との接着性が高いのが特徴で、パルプと組み合わせるエアレイド不織布や湿式不織布の原料としての展開を見込む。
宇部日東化成は高強力ポリプロピレン繊維「シムテックス」だ。単糸強度は従来品の2倍、ヤング率は4~5倍、熱収縮率は2分の1、酸、アルカリなど各種有機溶剤にも強い。1年遅れながら昨年後半から販売を開始、電池セパレーターなどを狙いに今後の拡大を見込む。
ダイワボウも電池セパレーターに力を入れる。同社は原料販売に加え、原反販売も行う。電池セパレーターは2次電池(ニッケル水素)用で日本バイリーンが最大手だが、IT不況から苦戦が続いているものの、ハイブリッドカー向け(1台当たり平均15平方メートル使用)は車種の広がりもあって順調に伸びている。