特集 高性能繊維/活躍の場はまだまだ広がる
2022年09月08日 (木曜日)
高性能繊維の市場が拡大している。一時は新型コロナウイルス禍の影響を受けたものの、経済の回復に伴い勢いを取り戻した。中には新型コロナウイルス禍で需要が拡大した繊維も見られる。安全・安心、サステイナビリティーへの意識の高まりで新市場も生まれつつあり、高性能繊維活躍の場はまだまだ広がりそうだ。
〈東レ・デュポン/売上高30%増やす/安心・安全や防災に視線〉
東レ・デュポンは、パラ系アラミド繊維「ケブラー」を展開している。高強度・高弾性率、耐切創性、耐衝撃性といった特徴を持ち、産業資材や自動車関連、防護衣料をはじめとする幅広い用途で用いられている。事業成長に向けて既存分野の継続強化に加え、拡大の余地が大きい用途への提案にも力を入れる。
2022年4~6月のケブラーの売上高は、前年同期の実績を20%近く上回る水準で推移した。自動車関連が2桁%の伸びを見せたほか、産業資材分野の回復が寄与した。産業資材では第5世代移動通信システム(5G)関連のケーブル分野がけん引した。
アラミド繊維の需要は、新型コロナ禍で一時的に落ち込んだが、現在は回復基調に入っている。今後、国内市場は年率5%程度で拡大すると予想しているが、同社は市場の伸びを上回る成長を目指す。23年度(24年3月期)からの3年間で売上高を30%増やすとしている。
目標達成の施策として、自動車や産業資材などの用途での販売拡大に継続して取り組むと同時に、需要の伸びや開拓の余地が大きい分野での成長に期待をかける。目を向けているのが安心・安全や防災で、ワークウエア用途や構造物補強などのインフラ関連分野への訴求に力を入れる。
ワークウエア分野では、芯にポリウレタン弾性繊維、鞘部にケブラーを配した加工糸などを使う。この糸を使用したTシャツは引き裂き強度が向上し、耐切創性にも優れる。ストレッチ性があるため、作業性も高まる。後染めで多色展開も可能だ。
インフラ分野では、ケブラーの特性を生かし、高速道路や橋などの補強・補修ニーズに対応する。糸や生地、釣りざおなど幅広く提案する。
〈クラレトレーディング/一般衣料を掘り起こす/豊富な糸種が強み〉
クラレトレーディングは40年ほど前から導電性カーボンを練り込んだ導電繊維「クラカーボ」を生地売り、糸売りで展開する。
ワーキングウエアを主力にクリーンルームウエアやカーペット、一般衣料、ブランケット、コピーブラシ、産業用フィルター、コンベアベルトといった幅広い用途をカバーする。
ポリエステル長繊維を主力にナイロンもラインアップ。芯鞘構造糸、四つ孔タイプ、周囲を導電性カーボンで被覆したタイプなどユーザーニーズや用途、求められる性能に応じた幅広い糸種を構えているのを自社の強みに位置付けている。
最近は縫い糸向けの販売が伸びているという。綿100%使いだけでなくポリエステル100%のTシャツが増えており、製品に施された帯電防止剤が洗濯で脱落してしまうため、着脱時にパチパチと発生する静電気を防止するために「クラカーボ」による縫い糸が使われているのだという。
2021年度は新型コロナ禍の影響で一時期、販売は低迷したが、後半から回復。22年度は「計画通りにしっかり伸ばせている」との手応えを示す。
「一般衣料からも静電気防止への要望が強まっている」とみており、今後は静電気が発生しやすい冬場のセーター、ポリエステルリッチなインナー・肌着などのアイテムをターゲットに企画提案に取り組む。
JIS規格ほど厳格な基準は必要ないものの、ユーザーが納得できる、静電気防止に関する「しっかりとした数字の裏付けを提示する」コンサルティング的な開発・企画提案を強化し、一般衣料向けの販売を伸ばす。
〈帝人/サステ中心にアラミド拡大/さらなる設備増強の可能性も〉
帝人は、サステイナビリティーなどを軸にアラミド事業の拡大を狙う。リサイクルの推進などで環境意識の高まりに応えるほか、再生可能エネルギー分野で新たな需要が生まれるとみている。2022年度(23年3月期)中にパラ系アラミド繊維のオランダでの生産能力増強が完了し、事業成長への体制も整う。
新型コロナ禍の影響でいったんは需要が落ち込んだアラミド繊維。特に南ヨーロッパでの販売が減少したが、急激な回復を見せている。ペーター・テル・ホルスト帝人グループ執行役員アラミド事業本部長は「今は全ての用途・分野で良い状況」とし、今後、「市場は年率10%程度で拡大する」と予想している。
パラ系アラミド繊維では、自動車関連や産業資材をはじめとする既存分野での販売の強化に加えて、サステイナビリティーをキーワードにした展開にも力を入れる方針。中でも再生可能エネルギー分野での新需要に期待をかけており、洋上風力発電の係留ロープ用途の需要が増えていくとみている。
世界では、ある国・地域で発電した電力(再生可能エネルギー)を、海底ケーブルで他の国・地域へ送るプロジェクトが進められつつある。この海底送電プロジェクトに使用される送電ケーブルに需要が生まれる可能性があると期待する。アフリカで広がっている再生可能エネルギービジネスも視線を送る。
パラ系アラミドの「トワロン」は生産能力増強が今年度中に完了する予定だが、テル・ホルスト帝人グループ執行役員は「23年度からの次期中期経営計画でさらなる増強を検討する可能性がある」と話した。メタ系アラミド繊維については、防護衣料で、より収益性の高い分野での拡販に取り組むとしている。
〈東洋紡/「ツヌーガ」原着でアウトドア開拓/「ザイロン」増産に意欲〉
東洋紡は超高強力ポリエチレン繊維「ツヌーガ」「イザナス」、PBO繊維「ザイロン」という3タイプのスーパー繊維を展開している。
年産能力は順に2千トン、1千トン、200トン。クルマの組立工場などで使われる耐切創手袋を主力とするツヌーガは自動車関連で苦戦を続けているものの、イザナス、ザイロンの販売は2021年度から回復に転じた。
22年度は4月から新設備を増設し年産1500トンから同2千トンに増設したツヌーガで、原着糸による新規用途の掘り起こしを強化し「2~3年後にフル稼働させる」との方針を掲げる。
ザイロンでは、既に販売量を新型コロナ禍前の1・5倍の水準に引き上げており、次の設備更新時に年産200トンを同300トン前後に引き上げることを検討している。
主力のツヌーガでは、耐切創手袋に続く柱用途の構築を急ぐ。白、黒、ブラウン、グレーの4色を構える原着糸でアウトドア用途へのアプローチに取り組んでおり、米国からの引き合いが相次いでいると言う。既にサンプル出荷を始めており、23年度から本格販売に着手する。
ザイロンでは、自転車(ロードレーサー)用チューブレスタイヤ向けの販売が好調なほか、パラスポーツ用車いす(ホイール)向けも堅調だ。
米デュポンの日本法人であるデュポン・スペシャルティ・プロダクツとは消防服向け素材として独占供給することで合意。デュポンはザイロンで開発した新素材「ノーメックス・エクストリーム」を6月、ドイツ・ハノーバーで開かれた消防関連の展示会・インターシュッツに出展した。
イザナスでは、釣り糸向けの新素材「SF700」でユーザー側の評価が終わり、23年度からサンプルワークに取り組む。