2022年秋季総合特集(11)/トップインタビュー/帝人/輪の中で役割を果たすこと/取締役常務執行役員 マテリアル事業統轄 小川 英次 氏/トップクラスの品質力で成長を

2022年10月24日 (月曜日)

 アラミド繊維や炭素繊維などを展開する帝人マテリアル事業統轄。新型コロナウイルス禍やエネルギーコスト上昇などの影響は受けているものの、両繊維とも需要自体は堅調に推移する。2022年度(23年3月期)が最終の中期経営計画中に生産能力の増強を実施し、小川英次取締役常務執行役員マテリアル事業統轄は「中計で掲げた方向性に大きな変更はなく、やるべきことはしっかりとやれた」と強調する。下半期以降については増設設備の早期フル稼働、採算性の改善に取り組むなど、成長のための体制を整える。

  ――社会環境が大きく変わる中で、繊維産業が進むべき道はどこにあると考えますか。

 経済産業省が公表した「2030年に向けた繊維産業の展望(繊維ビジョン)」では、「技術開発による市場創出」「サステイナビリティーの推進」「海外展開による新たな市場獲得」「デジタル化の加速」などが必要とされていますが、いずれも重要な要素です。その中でもサステイナビリティーなどの環境対応は、社会として不可逆的と認識しており、合繊産業も環境負荷低減による社会貢献は必須であると考えています。

 重要なのはサステイナビリティーや環境負荷低減の取り組みを収益化して長期的に続けることです。その実現には新ビジネスモデル創造や素材・技術の開発が求められます。単独では難しく、企業間や産官学の連携、行政の支援も不可欠で、あらゆる場面で“輪”が必要になっています。輪の種類はさまざまで形も変化し、輪同士のつながりも出てきます。その輪に入って求められる役割を果たすことが繊維産業・企業が進むべき道ではないでしょうか。

  ――現在の経済環境について何が起こり、どのような影響が出ていますか。

 今年は、新型コロナ禍からの回復による経済成長が進むと予想していた企業も多かったと思います。実際には、ロックダウン(都市封鎖)の措置によって中国の経済が減速し、サプライチェーンにも混乱が生じました。ロシアによるウクライナ侵攻でガスをはじめとするエネルギー価格が上昇し、これも長期化の様相を呈しています。世界的にインフレが続き、多くの国がその対応に追われています。

 年初の予想が裏切られた格好ですが、特に欧州経済の減速感が強くなっています。これらが早い段階で大きく好転するという感じはなく、しばらくは厳しい状況が続きそうです。円安も多くの日本企業にマイナスの影響を与えていますが、当社のマテリアル事業統轄は売り上げの8割が海外のため、比較的影響は少ないと言えます。ただし、欧州を中心にガス価格が高騰しているので、留意しなければなりません。

  ――そうした状況下で、22年度上半期(4~9月)のマテリアル事業統轄の業績は。

 外部環境は厳しいと言えるのですが、アラミド繊維と炭素繊維ともに需要は堅調に推移しています。アラミド繊維は大きく四つの用途があるのですが、四つ全てで堅調な需要を見せています。ただ、昨秋にオランダの原料工場で電力供給がシャットダウンし、需要があるのに生産・供給ができない期間が存在しました。今年度上半期にも若干ですが影響が残り、販売機会をロスしてしまいました。

 炭素繊維は、おおむね良好な状況と言えるでしょう。一般産業用途や風力発電翼用途が好調に推移しています。新型コロナ禍で厳しさが続いていた航空機用途は、想定していたよりも早いスピードで回復しています。とはいえ、全体の損益では厳しい状況が続いていますので、そのリカバリーが下半期以降の課題です。炭素繊維もアラミド繊維もガス価格高騰の影響からは逃れられず、価格への転嫁を顧客にお願いしています。

  ――22年度は中期経営計画の最終年度でもあります。進捗(しんちょく)は。

 新型コロナ禍前に策定し、新型コロナ禍の中で進めてきた中計と言えます。環境への意識の高まりをはじめ、世の中の変化は早くなったと感じます。EV(電気自動車)化の進展がその代表でしょう。航空機向けの炭素繊維の需要は新型コロナの影響もあっていったんは落ちてしまいましたが、先ほどお話しした通り、回復も着実に進んでいます。中計で掲げた大きな方向性には変更はなかったと言えるでしょう。

 実際に現中計では、パラ系アラミド繊維の生産能力増強を行い、炭素繊維関連では北米を強化しました。複合成形材料事業では米国のグループ会社がGF―SMC(熱硬化性樹脂をガラス繊維に含浸させてシート状にした成形材料)を展開しているのですが、トヨタモーターノースアメリカのピックアップトラックの荷台に採用されました。このように実施すべきことはきちんと実施できたと考えています。

  ――どのような課題が残っていますか。

 新設した設備の稼働率を高めるほか、アラミド繊維事業や複合成形材料事業の採算性改善を早急に進めていかなければならないと考えています。今年度中にそれを完了できるかは分かりませんが、しっかりと推し進めます。リサイクルや水素社会への貢献など、長期的な観点で見て重要な分野・領域があります。こうした分野・領域で先行するのはアドバンテージになりますので、確実に取り組みます。

  ――中長期的な視点での方向性は。

 成長の余地はまだまだ大きいと認識しています。需要が旺盛な炭素繊維ですが、航空機用途が本格回復しても生産キャパシティーに問題はありません。アラミド繊維も年率3~5%で市場が拡大しているといわれており、設備増設分を早くフル稼働の状態へ持っていきます。この二つはグローバルでもトップクラスの品質とキャパシティーがあり、そういった意味で今後の成長を確信しています。複合成形材料や樹脂も世界で戦っていきます。

〈秋と言えば/柿と稲刈り〉

 「秋と言われると柿と稲刈りをイメージする」。小川さんは岐阜県大垣市付近の山間部が出身で、この辺りは富有柿が名産品。大垣市のホームページには「大垣」は江戸時代までは「大柿」という字と併用されていたとある。秋が訪れると「稲刈りの手伝いをし、腹が減ればおやつ代わりに柿を食べていた。少年時代は当たり前だったが、今では良い思い出」と語った。ただ、最近は富有柿を食べる機会は減ってしまったそうだ。理由は「東京で買うと高いから」と笑った。

〈略歴〉

 おがわ・えいじ 1985年帝人入社。2016年帝人グループ執行役員樹脂事業本部長、20年取締役執行役員、21年取締役常務執行役員、22年取締役常務執行役員マテリアル事業統轄