2022年秋季総合特集Ⅱ(13)/トップインタビュー/ダイワボウレーヨン/高付加価値品でアジア市場を/社長 福嶋 一成 氏/新規商材で成果上げる

2022年10月25日 (火曜日)

 ダイワボウレーヨンの福嶋一成社長は「日本の繊維産業の強みは川上分野、特に原料にある」と指摘する。新型コロナウイルス禍やウクライナ紛争によるエネルギーコスト高騰などを契機に、これまでのグローバル経済にも変調が見られる中、「日本の繊維産業にとってチャンス。高付加価値品でアジア市場を確保できるのでは。戦略をどうやって構築していくかが重要」と指摘する。

  ――日本の繊維産業の今後の方向性をどのように考えますか。

 新しい「繊維ビジョン」の内容にもその傾向が読み取れますが、やはり日本の繊維産業の強みは川上分野、特に原料にあると思います。川下分野に近づけば近づくほど、コスト対応も含めて海外生産中心にならざるを得ませんから。そして実際に現在も日本の繊維企業が生産する化学繊維などは海外で生産されているものも含めて大きな力を持っています。

 繊維産業もこれまではグローバル化が進展していました。そこに起こったのが新型コロナ禍とウクライナ紛争です。サプライチェーンの混乱や安全保障の観点から各国とも自国中心主義の傾向が強まり、グローバル化の動きが一服しています。加えて今後は環境負荷の観点から輸送段階での二酸化炭素排出に対する規制が出てきてもおかしくありません。さらにエネルギーコスト上昇による生産制約も強まっています。このため地産地消の流れが強まる可能性があります。

 こうした状況は、日本の繊維産業にとってチャンスになり得るのでは。特にアジア市場でシェアを取れる可能性があるからです。高付加価値品に特化するしかありません。円安という状況も踏まえると、やはり「輸出」をしっかりと見直す必要があります。そのためには国際認証の取得などは欠かせません。当社もさまざまな認証を取得してきました。

 リサイクル技術の確立によるサーキュラー・エコノミー(循環経済)の構築も重要。しかも、リサイクル原料となる資源ごみを、国境をまたいで移動させることがますます難しくなっていますから、国内で体制を作っていく必要があります。その場合、再生ポリエステルだけでなく再生セルロースの技術も重要になるのでは。さまざまな原料を再生セルロースとして利用する技術開発が必要でしょう。

  ――2022年度上半期(4~9月)を振り返ると。

 原材料が高騰する厳しい環境が続きました。溶解パルプやカセイソーダの価格上昇が続き、原料コストは昨年と比べると20%以上は上昇しています。このため値上げによる価格転嫁を進めました。円安の追い風があり防炎・難燃レーヨンの輸出が堅調だったことも原燃料高騰による利益の落ち込みを一部カバーしました。なんとか前年並みの数字を確保できそうです。そうした中、海水中生分解を確認したレーヨン短繊維「エコロナ」や、撥水(はっすい)レーヨン「エコリペラス」など差別化品で採用に向けた話が増えています。

  ――下半期の課題は。

 世界的なインフレ高進と金利上昇で海外市場、特に欧米市場の先行きに不安が高まっています。中国も都市封鎖の影響などで経済の減速がささやかれています。下半期の事業環境には、非常な危機感を持っています。このため、これまで続けてきた新しい提案のスピードを上げ、具体的な数字にしていくことが重要になります。特に環境配慮型素材の拡販に取り組みます。エコロナやエコリペラスに加えて、多素材と混紡した際に一浴染めが可能なカチオン可染レーヨンの引き合いも増えています。カーボンオフセット制度を導入したカーボーンニュートラルレーヨンもラインアップに加えました。ブランド向け製品を得意とする大和紡績の製品・テキスタイル事業との連携も重視し、機能レーヨンの拡販を進めます。

 市場環境の先行きに不安が大きいものの、見方を変えればチャンスでもあります。機能レーヨンのニーズが増えているからです。極細繊度わたなど差別化品の需要も確実に増えています。こうしたニーズをとらえて、海外だけでなく国内市場も深掘りしていこうと考えています。

〈秋と言えば/欧州の秋は「枯葉」のイメージ〉

 「秋と言えば、シャンソンの代表曲『枯葉』」という福嶋さん。日本の秋は紅葉の季節だが、かつて駐在した欧州の秋は厳しい冬に向けて準備する季節。「街から色が消え、人々は家の門を飾り付けたりして色を取り戻そうとする」。色を失った街は、それこそ枯葉の色に染まる。屋台でホットワインが供されるようになると、いよいよ秋本番。文字通り「枯葉」のイメージ。もっとも、いろいろな人がカバーしている同曲だが、お気に入りはエリック・クラプトンが歌ったものというのが福嶋さんらしい。

〈略歴〉

 ふくしま・かずなり 1982年大和紡績(現ダイワボウホールディングス)入社。2013年ダイワボウレーヨン専務、16年大和紡績取締役兼ダイワボウレーヨン社長、17年6月から20年3月までダイワボウホールディングス執行役員兼務。21年4月から大和紡績取締役合繊事業統括兼合繊事業本部長を兼務。