2022年秋季総合特集Ⅲ(7)/トップインタビュー/帝人フロンティア/循環型リサイクルの仕組み作り/代表取締役社長執行役員 平田 恭成 氏/グローバルアパレルなど成長事業に
2022年10月26日 (水曜日)
帝人フロンティアは、2022年度(23年3月期)に中期経営計画の最終年度を迎えた。新型コロナウイルス禍によって事業環境は大きく変化したが、平田恭成社長は「想定していたほどジャンプアップできなかったが、実力は付いてきた」との認識を示した上で、産業資材関連での増強や不採算事業の見直しも実施するなど、「やるべきことは実行できた」と強調する。来年度に始動する次期中計ではモビリティーやグローバルアパレルなどを成長事業に、国内衣料品や一般産業資材を基盤事業に設定し、それぞれで施策を推進する。
――事業環境が変化する中で、繊維産業が進むべき道はどこになりますか。
繊維は「環境負荷が大きい産業」とよく指摘されます。大量生産による廃棄問題がクローズアップされているのは事実であり、これらを解決せずに放置すれば社会問題化する可能性があります。その結果として繊維産業全体が力強さを失うのではないかと危惧しています。環境負荷低減の一つとして、循環型リサイクルの仕組み作りが必要不可欠です。個社では限界があり、業界全体で取り組まなければならないでしょう。
日本の繊維企業は以前からリサイクルに取り組んでおり、ノウハウを蓄積してきました。新しい技術も確立しています。後は回収と分別ですが、回収の仕組みはある程度構築できているので、分別をどうするかがポイントになります。衣料品にはポリエステルもあれば、綿もあり、ウールもあります。合繊を扱う企業、天然繊維を展開する企業が同じ位置に立ち、コンソーシアム(共同事業体)を組まなければ難しいかもしれません。
――リサイクルに加えて、「長期間着用する」という流れも出てきました。
衣料品を長く着た後、言い換えると、リユース、リメークして着用したその先にリサイクルがあります。このため衣料品をリユース、リメークする会社もコンソーシアムに参画してもらって全体で経済合理性を見いだしていかなければならないでしょう。コストが高くなりすぎれば市場に受け入れられないことも考えられます。いずれにせよ、日本の繊維業界を挙げて推進していかなければならないと思います。
――現在の経済、経営環境をどのように見ていますか。
最もインパクトが大きいのは円安です。海外市場向けのテキスタイル販売には追い風になっているのですが、当社の衣料品は国内展開が多いので円安・原材料高に伴うコストアップの影響を受けています。自助努力で吸収できない分については価格への転嫁を顧客にお願いしなければいけません。産業資材は、タイのポリエステル長・短繊維製造販売会社、テイジン・ポリエステル〈タイランド〉(TPL)で生産している短繊維などの値上げもお願いしています。
――そうした状況下で22年度上半期(4~9月)の業績の推移は。
衣料品市場は少し活発化してきたと実感しています。今年の夏は暑く、衣料品の販売も順調と聞きましたが、当社の販売も回復基調にありました。ただ、繰り返しになりますが、コストが上昇しているので価格転嫁をお願いしています。産業資材は自動車関連が堅調に推移しています。各自動車メーカーが半導体不足などを理由に生産調整を行う中、どこかで在庫がたまり、今後その影響が出てくる可能性があるかもしれません。
海外販売を見ると、今のところは衣料品の中国内販や米国向けが堅調に推移しています。タイも産業用途を中心に底堅い動きを見せています。国内と海外ともに全般的に堅調でしたが、心配しているのは欧州の経済が良くないことで、ドイツはさらに減速するといわれているので警戒しています。中国についても新型コロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)で内需が冷え込むのではないかと懸念しています。
――今年度は中計の最終年度でもあります。
現中計は、新型コロナ禍前に策定したこともあって、相当なジャンプアップを見込んでいました。新型コロナ禍の影響があったため、当初想定していた数字には届かないかもしれませんが、実力は確実に付いてきたと考えています。産業資材では自動車関連で新工場設立や増設を実施し、不採算会社・不採算事業の撤収も行いました。やるべきことはある程度やれたのではないかと思っています。
課題はBCP(事業継続計画)対策です。昨年、ベトナムでの衣料品生産でロックダウンの影響を受けましたが、今後も不測の事態が起こることが考えられます。現在は中国とベトナム、ミャンマー、インドネシアで海外生産のほとんどを占めています。ベトナムは南部に拠点が集まっているので北部地域にも目を向けていかなければなりません。インドネシアもバランスを取りながら生産強化を図ります。これらの生産拠点の再構築は継続して取り組みます。
――来年度には新しい中計が始動します。方向性を教えてください。
現在展開している事業を「成長事業」「基盤事業」「新事業」にくくり直してそれぞれで施策を進めます。成長事業はモビリティーとグローバルアパレル、土木や環境対応を含めたインフラ関連を設定し、国内の衣料品と一般産業用途を基盤事業に、モーションセンシングや睡眠関連を新事業と位置付けています。成長事業に関しては設備投資による生産能力の増強も検討しています。
成長事業のうち、グローバルアパレルへの展開では、SPAやメガスポーツブランドなどとの取り組みを深めていきます。中国・南通やベトナム、タイの拠点を生かし、糸・生地だけでなく、縫製品までの一貫提案を強化する方針です。ミシンの増設だけでなく、良いパートナーと出会えれば出資する可能性もあります。インフラ関連向けの短繊維を製造するTPLも生産能力を増やしながら拡大を図ります。
〈秋と言えば/旅行を楽しむ〉
秋が訪れると家族で旅行に出掛けるという平田さん。「秋は3連休が多く、日程調整がしやすい。また、ゴールデンウイークほど混雑しないので旅行するには良い季節」とし、「秋が深まれば紅葉も楽しめる」と語る。行く先の決定権は奥さんが持っているが、「スケジュールも決めてくれるのでありがたい」のだとか。今年も箱根に赴いたが、平田さんの中には東北で温泉に漬かりたいという思いもある。「面と向かって拒否されたことはないが、まだ実現していない」と笑う。
〈略歴〉
ひらた・やすなり 1985年日商岩井入社、2005年NI帝人商事繊維資材本部繊維資材第二部長、13年帝人フロンティア繊維資材本部繊維資材第二部長、14年繊維資材本部長、18年取締役執行役員、20年取締役常務執行役員などを経て、21年4月から代表取締役社長執行役員。