2022年秋季総合特集Ⅳ(16)/未来を見据え着実に前進/検査機関

2022年10月27日 (木曜日)

 新型コロナウイルス禍の影響から脱しつつある検査機関。ただ、ロシアのウクライナ侵攻に端を発するエネルギーコストの上昇などが、新たな重荷となって各機関を苦しめる。事業環境が大きく変化する中、独自の試験・評価技術の開発や社会や環境への貢献、海外展開、人材育成などをポイントに前進を続ける。

〈ボーケン品質評価機構(ボーケン)/理事長 吉田 泰教 氏/本当に求められるモノを/“未来から選ばれるボーケン”へ〉

――日本の繊維産業の今後の方向性は。

 市場がどこに価値を見いだすのかにかかっているのでしょう。その一つが、持続可能な社会を実現する方向ではないでしょうか。また、市場の二極化も一段と進んでおり、消費者のニーズに直接つながることができるようになりました。そこで本当に求められるモノを提供する方向に向かうべきでしょう。検査機関としても、通常の納品前検査は減少します。業界全体で適量生産への意識が高まっていることも背景にあるでしょう。新たな事業を作る必要があり、品質支援や機能性試験の拡大に取り組んでいます。

――2022年上半期(4~9月)を振り返ると。

 上海の都市封鎖の影響もあって厳しい面がありました。そうした中、品質支援事業は生活雑貨関連でリスクチェックや表示確認などのサービスが拡大しました。環境や人権に関する取り組みへの問い合わせも増えています。機能性事業は、花粉・ダニ由来タンパク質の減少度測定など新たな評価方法の実用化にも取り組みました。試験方法や評価基準に関する共同研究開発にも力を入れており、業務提携するユニチカガーメンテックとの連携も強化しています。

 生活産業資材事業は耐久性測定が拡大し、不織布やフィルター関係の共同研究開発も進めています。工場の品質管理監査支援も360度カメラを使った遠隔監査ができることが注目されています。中国内販支援として上海質量監督検験技術研究院(SQI)と業務提携し、雑貨の商品コード取得や現地での試験対応の支援も強化しています。認証分析事業は、提携するSGSグループの環境・労働慣行に関するサービスと当機構の取引先にも提供するためのソリューション開発やプロモーションを推進しています。そのため4月から担当者がSGSジャパンに出向しています。GHGプロトコルやライフサイクルアセスメントなどの要望に応える体制整備を進めています。繊維事業は、既存の規格試験では対応できない鑑別や混率試験の技術確立を進めています。リサイクル繊維の品質表示に関するセミナーも開催し、情報発信に努めています。海外事業は中国・青島試験センターが移転し、7月から業務を開始しました。

――今後の戦略は。

 新型コロナ禍前の状態に戻ることはないでしょうから、デジタル技術で企業を変革するDXによる業務効率化などが欠かせません。依頼企業のサステイナビリティーやウェルビーイングに関するニーズに対し取り組み型解決、カスタマーサクセスを実現することに重点的に取り組みます。技術力・情報力・対応力の強化、人材育成が不可欠。業務提携先との連携も強化し、専門性を一段と高めることで“未来から選ばれるボーケン”の実現を目指します。

〈日本繊維製品品質技術センター(QTEC) 理事長 山中 毅 氏/サステ対応が不可欠に/強みの人材に磨きかける〉

――経済環境が変化する中で、繊維産業が進むべき道は。

 サステイナビリティーへの対応が世界的に求められており、繊維産業が進むべき道もここにあると思います。繊維産業においても近年急速にこの流れが浸透してきました。QTECが当初から参画しているジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)への参加企業も増えています。

 適量生産・適量消費・少量廃棄やサーキュラーエコノミーの実現、素材別に分離分別できるような繊維製品作りなどに対して何ができるかを繊維産業全体で考えないといけないでしょう。簡単にはできませんが、少しずつでも進める必要があります。変化する時代に対応できなければ取り残されてしまいます。

――今年に入りさまざまなことが起こりました。実際の影響について。

 ロシアによるウクライナ侵攻が発生しました。生活必需品や電力料金の値上がりと、その影響は想定以上です。エネルギーコストの上昇に加え、部材の価格や輸送費も高騰しています。人件費も上昇し、QTECにとっても厳しい状況と言えます。

――そうした状況下で、今上半期(4~9月)は。

 4、5月に新型コロナウイルス禍による中国・上海のロックダウン(都市封鎖)があったため、苦しいスタートとなりました。7月以降は回復基調にありますがそれでも当初計画には届かない見通しです。ただ、中国の南通浩達紡織品検測や青島可泰検験、バングラデシュのダッカ試験センターは健闘しています。

――下半期以降の方針は。

 今年度は3カ年中期経営計画の初年度ですので、中経に沿った施策を着実に進めます。重点項目は、試験技術の開発、営業体制の強化、デジタル技術で企業を変革するDXの推進、人材育成、新規ビジネスへのチャレンジです。

 例えば人材育成では、新人やパートを含めて全員が参加できる研修を週1回開催し、繊維の知識習得やビジネス全般を学ぶ機会を提供し、外部研修や工場見学なども行っています。新試験では、炭火による火の粉の溶融試験やファイバーフラグメント脱落量の定量化試験を開始しました。また連結経営もさらに進めていきます。

――長期的にQTECが目指す方向はどこになりますか。

 中経でも掲げている「経済的価値」「社会的価値」「環境的価値」の三つを創出する考えの下、100年続くQTECを目指しています。ノウハウの承継などに取り組んでいますが、100年続けるためには顧客から選ばれる検査機関にならないといけません。QTECの強みは職員の“人間性”であり、人材にもっと磨きをかけていきます。

〈ニッセンケン品質評価センター(ニッセンケン)理事長 駒田 展大 氏/SXでサプライチェーン構築/ソリューション提供の機関へ〉

  ――経済や社会情勢は変化しています。繊維産業が進むべき道は。

 繊維産業は、以前から変化を続けてきましたが、新型コロナウイルス禍によって状況が一気に変わった感があります。SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて世界中が動きだし、繊維産業も過剰生産過剰在庫という問題が大きくクローズアップされるようになっています。

 経済産業省がまとめた「2030年に向けた繊維産業の展望(繊維ビジョン)」の中にサステイナビリティー・トランスフォーメーション(SX)があります。企業の稼ぐ力とESG(環境・社会・ガバナンス)の両立を図るもので、これを基にサプライチェーンを再構築していくことが繊維産業の進むべき道です。業界全体の連携も必要です。

  ――現在の経営環境について。

 試験・検査依頼に減少傾向が見られる一方で、試験料金のアップはなかなか浸透しません。ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギーコストが高騰し、試験コストも上昇しています。試験料金のアップがなかなか進まない中で、利益の確保が難しくなっています。検査機関だけでなく、多くの繊維関連企業が直面している危機だと思います。

  ――厳しい環境下で、2022年上半期(4~9月)の業績は。

 売り上げと利益ともに前年同期の実績に届かない水準で推移しています。厳しかったのは国内の衣料品・雑貨品の既存試験です。中国は上海でロックダウン(都市封鎖)がありましたが、全体では落ち込みませんでした。インドも回復を見せました。「エコテックス」事業は健闘しました。

  ――下半期以降の方針は。

 国内の試験が大きなウエートを占めていますので、東京、中部、西日本の各事業所で効率を高めるとともに、経費削減にしっかりと取り組む方針です。コストアップは続いており、自助努力を超える範囲は価格転嫁したいのですが、既存の試験では難しいのも事実です。このため新しい評価技術やフェムテック関連を強化します。

 フェムテック関連は、試験の需要が一気に増えるかどうかは現時点では分かりません。情報の収集を行いながら、新しい評価方法がないか模索していきます。その一環として、オンライン展示会「フェムテック推進EXPO」に初めて出展し、吸水ショーツの総合的な試験を紹介しました。

  ――中長期的な観点での方向性は。

 「ライフ アンド ヘルス(L&H)事業本部」を中核にして成長を目指しますが、繊維関連の検査機関からの脱却が必要です。今後は人々が健康で快適な生活を送るソリューションを提供できる検査機関を志向していきます。SDGsに貢献できる評価技術や試験は幾つもあり、技術を上げながら提案していきます。