特集 スクールユニフォーム(9)/学生服地メーカー編/多様な“制服の役割”支える/ニッケ/東レ/東洋紡せんい/東亜紡織/シキボウ
2022年10月31日 (月曜日)
学生服が担う役割が一段と多様になって生きた。快適な学習環境を実現するための着心地など機能性に加えて、教育の場でもSDGs(持続可能な開発目標)への貢献が求められるようになった。このため学生服地でも環境配慮原料や環境負荷の小さい製造プロセスの導入が進む。リサイクルやアップサイクルの仕組み作りへの取り組みも始まった。
〈ニッケ/「機能」「環境」がキーワード/ウールの上質感、耐久性訴求〉
ニッケは「機能」と「環境」をキーワードにした学生服地の提案に取り組む。特にウールの上質感や耐久性を訴求し、“学校制服の価値”の発信に力を入れる。
学生服地に求められる機能として軽量性とストレッチ性を重視する。これにウールが持つ上質感と耐久性、生分解性などを訴求することで機能と環境配慮を両立した学生服地の提案に取り組む。学生服は原則として3年間着用することが前提。ウールを使うことで上質感を維持しながら、長く着続けることが可能になる。
最近は公立中学で制服・標準服のモデルチェンジが増加していることから、戦略素材として環境配慮型学生服地「エミナル」を打ち出した。原糸には製造工程を短縮できる特殊なウール・ポリエステル混革新精紡糸「ブリーザ」が使われており、製造工程での二酸化炭素排出量が少ない。ポリエステルは再生ポリエステルを使った。ウール30%・ポリエステル70%混が基本となるため、中学校の制服・標準服としても使いやすい。
高校の学校別注制服などに向けては独自の特殊長短複合交撚糸を使った「ミライズ」を打ち出す。混率もウール80%と同55%を用意し、ウールの上質感と耐久性を一段と際立たせた一格上の学生服地として打ち出す。
教育現場でも重視されるSDGsへの貢献に向けてウールのサステイナビリティーを発信する取り組みにも力を入れる。ウールの生分解性を確認する実験を実施したほか、廃棄ウールを肥料原料に再利用する取り組みも進む。
駒場学園高等学校(東京都世田谷区)の協力を得て、使用済み学生服を回収し、反毛・紡績して学生服に再生する「循環型学生服」の実証実験も始まった。ブリーザを活用し、循環型学生服実現のために最適な原料配合や紡績条件確立を目指す。
〈東レ/ポリエステル100%強みに/プリント含め柄物提案強化〉
東レは、学生服地でポリエステル100%梳毛調織物「マニフィーレ」の提案を一段と強化する。環境配慮原料の採用などサステイナビリティーの面で強みを打ち出す。公立中学校の制服・標準服のブレザー化が加速していることから、柄物提案にも力を入れる。
2023年入学商戦は、公立中学校を中心に制服・標準服が従来の詰め襟学生服・セーラー服からブレザーに変更される傾向が一段と強まった。同社は詰め襟学生服向けで高いシェアを持つため、影響は少なくない。
その一方、ブレザー化によってスラックス地を含めてマニフィーレが好調。特に再生ポリエステルやバイオ原料ポリエステルを使用した環境配慮タイプの採用が拡大している。このため引き続き環境配慮の取り組みを強化する。環境配慮型原料の採用だけでなく、今後は使用済み製品の回収・再資源化も検討。ポリエステル100%品は複合素材と比べてリサイクルが容易な点も打ち出す。
ブレザー化でスラックス・スカート地を中心に柄物の需要が高まっていることから、こちらもポリエステル100%での提案を強化する。先染め品だけでなく、インクジェット捺染を利用したプリントも提案する。プリント下地を備蓄することで小ロット・短納期対応できるほか、製造コストの合理化にもつながる。
そのほか、スポーツ・アウトドアや紳士・婦人服地で実績のある素材や加工をスクール用途にも積極的に投入する。特にニット素材の応用にも力を入れる。
〈東洋紡せんい/編み地の独自素材、開発強化/STG通じ製品供給増える〉
東洋紡せんいのスクール事業部の上半期(22年4~9月)は、学販向けで前年同期比5~10%の増収だった。編み地の販売や、体操服やポロシャツなどを生産するインドネシアの縫製拠点STGガーメント(STG)を通じた製品供給の拡大が寄与した。
販売量が多いシャツはニット化が進む中、同社は織物比率が高く苦戦している。そのためトリコットや丸編み地の販売を強化。特に丸編み地はカジュアル向けに供給してきたノウハウを生かし、差別化素材の供給に力を入れる。
中でも販売拡大に取り組むのはポリエステル100%のハイゲージの丸編み地「スクラムテック」。同素材はポリエステルの高捲縮(けんしゅく)糸と弾性糸を高密度で編み立て、後加工でさらに密度を高めた。アウターや体操服、シャツなどアイテムによって「糸使いや糸種を変えれば、最適な生地の供給ができる」(川端圭二スクール事業部長)。
防透けやストレッチ性、軽量感に加え、ハリコシがあり、「体にまとわりにくく、布帛的なシルエットを出せる」ことから特にシャツ向けの提案を強める。スナッグやピリングへの耐久性が高く丈夫な点も訴求できる。ただ、高価格帯のため、私学などへ「プレミアム的な採用」を狙う。
高強度の糸を使い抗ピリング性能が高い「タフピリング」や、速乾性・ストレッチ性のある「ドライブースター」といったポリエステル丸編み地も開発。11月開催予定の総合展で披露する。「ユーザーに分かりやすい機能を明確にする」ことで販路を広げる。
通期(23年3月期)では上半期で受注したSTGでの縫製品の供給が本格化していくこともあり、前期比10%の増収を目標にする。
〈東亜紡織/柄物中心に堅調な受注/新素材は“強度”格段に向上〉
東亜紡織の学販向けは、学生服メーカーが2023年の入学商戦に向けて順調に受注を伸ばしていることを受け、柄物を中心に「昨年以上の受注を獲得している」(玉田暢生取締役)と言う。学生服メーカーが生産前倒しを強化している影響も受けた。
特に紳士服地の技術を応用し開発した、ウール・ポリエステル混の2ウエーストレッチ生地「デュアルフレックス」の販売に力を入れている。ボトム地として実績を伸ばしつつあり、柄ピッチが安定しにくい小柄でも対応できる。
24年の入学商戦に向けては、ウール・ポリエステルの高強力、高耐久織物「フェルテラ」(商標登録中)を打ち出す。従来のウール・ポリエステル混素材に比べ強度特性値が高く、ユニフォームに求められる耐久性と、使用可能期間の長さによる廃棄物削減といった環境配慮性を両立させた。
フェルテラは原料粘度と結晶度が高い高強度ポリエステルを使用。ウール30%と高強度ポリエステル70%を均一にミックスすることにより、強度のむらを低減した。
学生服地では高強力・高耐久素材が増えつつあるが、同社の従来生地と比べても「引っ張りや、引き裂き強度を高めている」(玉田取締役)。柄物同士での比較でも強度が向上。性的少数者(LGBTQ)への配慮で学校の制服をモデルチェンジする学校が増える中、無地だけでなく柄物にも対応することで幅広い販路へ提案できる。
高強力でありながらも、ウール混ならではのソフトな風合いも実現。ストレッチ性を付与した開発も進める。同素材を使うことで「着用期間が長くなり、制服を着る生徒にスローファッションを感じてもらう」(高村和宏執行役員)。ソトーとのSDGs(持続可能な開発目標)実現への取り組みを軸とする「グリーンウールバリューチェーン」とともに、環境配慮に向けた訴求も強める。
〈シキボウ/トリコットシャツ地拡大/台湾の調達拠点も活用へ〉
シキボウはスクールシャツ地としてトリコットシャツ地の提案を進める。今年1月に設立した台湾子会社も利用して、調達ソースとしての活用を進める。抗ウイルス加工「フルテクト」も採用に向けた話が増えてきた。
同社のスクールシャツ地は大手学生服アパレルとの取り組みで安定した販売が続いている。通常の織物製シャツ地だけでなく、近年はトリコットシャツ地が拡大した。ノーアイロンなどイージーケア性がスクールシャツ分野でも評価される。このため、引き続きトリコットシャツの提案に力を入れる。
今年1月には台湾子会社として台湾敷紡股●を設立した。台湾現地企業と連携して生産基盤の整備を進めており、これを生かし、台湾で調達した素材をスクールシャツやスクールポロシャツにも活用する。
抗ウイルス加工のフルテクトもスクールシャツ用途で採用に向けた動きが増えている。織布・編み立て・染色加工子会社のシキボウ江南(愛知県江南市)は抗ウイルス性試験を実施できるラボを持つ。
シキボウ江南はこのほど、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)から産業標準化法試験事業者登録制度(JNLA)に基づく抗菌性試験、抗ウイルス性試験実施試験事業所として認定された。公的なJNLA標章を付けた試験証明書を発行できるようになったことも信頼性向上につながる。
(●はにんべんに分)