特集 事業戦略(6)/ダイワボウレーヨン/社長 福嶋 一成 氏/不織布でも機能わたに注目/“機能×サステ”が基本

2023年02月24日 (金曜日)

 ダイワボウレーヨンはこれまで重点的に取り組んできた機能レーヨンと環境配慮の取り組みを融合させることで、レーヨンの新たな価値創造に取り組んでいる。不織布分野では用途開発に取り組み、需要の掘り起こしを進める。福嶋一成社長は「“機能”と“サステイナビリティー”、そこにしかレーヨンの活路はない。どちらがゼロになっても、全部がゼロになる」と強調する。

――2022年度(23年3月期)もあとわずかです。

 今期はレーヨンの主原料である溶解パルプ、燃料の重油、レーヨン製造工程で大量に使用するカセイソーダや硫酸など基礎化学品・薬剤など、あらゆるものの価格が高騰し、これに翻弄(ほんろう)された1年でした。従来の売上総利益率を上回る上昇となっており、販売先に対して値上げをお願いせざるを得ませんでした。なんとか値上げを受け入れてもらうことができ、採算を維持することができました。

 ただ、今年に入ってからも原料や化学品の価格上昇が続いており、再び採算が悪化しています。このため4月から再値上げをお願いせざるを得なくなりました。取引先にはご理解いただけるように説明しなければなりません。

 一方、これまで取り組んできた機能レーヨンの提案や環境配慮の取り組みが販売をリードし始めています。機能レーヨンでは、防炎・難燃レーヨンが上半期は好調でした。ただ、下半期に入ってからは主力市場である米国で金利上昇の影響で勢いが鈍化しています。寝装用途が中心のため、住宅着工件数の減少が響いています。

 アパレル用途は、天然由来オイル系機能材練り込みレーヨンや消臭機能レーヨンなどが拡大しました。pHコントロール機能レーヨンや撥水(はっすい)機能レーヨンも不織布で具体的な商品化が進んでいます。ようやく不織布用途でも機能レーヨンが注目されるようになってきました。

 環境の切り口では、海水中生分解性を確認した「エコロナ」の採用が増えています。カーボンオフセットを組み入れたカーボンニュートラルレーヨンもアパレルに採用されており、廃棄デニムなどをパルプ原料に利用したリサイクルレーヨン「リコビス」も出荷がスタートしました。原燃料高騰という逆風に対して、こうした取り組みの成果で対抗できた1年だったとも言えます。

――23年度に向けた戦略は。

 “機能×サステイナビリティー”が基本戦略であることは変わりません。「+(足す)」ではなく「×(掛ける)」であることがポイント。掛け算は、どちらかがゼロなら全体がゼロになります。両方の価値を実現し、それを融合させる。そこにしかレーヨンの活路はありません。

 例えば機能レーヨンに海水中生分解性やカーボンオフセットを組み合わせるといったことです。不織布用途でもパルプと組み合わせて使う分野は、ショートカットファイバーもエコロナに切り替えていきます。新型コロナウイルス禍で世界的にサプライチェーンが混乱したことで、地産地消の流れも続くでしょう。実際に当社のレーヨンもアジア市場で引き合いが増えています。カーボンニュートラルレーヨンもグローバルアパレルの間ではマストになっています。不織布用途でも海外販売をしているメーカーは関心を示しています。

――不織布分野の重要性は変わらないと。

 不織布は、まだ需要に伸び代のある分野であり、用途展開を広げることができます。例えば金星製紙さんが当社のレーヨンを採用した不織布「シーリス」を開発し、このほど東京で開催された「新機能性材料展」で紹介しましたが、高い関心を集めました。包材など新しい用途に可能性が広がっています。

――温室効果ガス(GHG)削減など環境配慮の取り組みも大きな課題になっています。

 カーボンオフセットの導入によるカーボンニュートラルレーヨンを商品化したこともあり、GHG排出量の算出を進めました。排出量を算定したことで、今後の削減策を具体的に進めることができます。まずは自社での排出量を抑えることが重要ですから、省エネルギーの取り組みを進めます。益田工場(島根県益田市)は燃料に重油を使用していますが、やはり将来的に天然ガスへの転換を検討する必要があります。

 リサイクル技術の開発も重要なテーマです。再生セルロースのケミカルリサイクルの研究を進めると同時に、その技術を応用してセルロース以外の素材のリサイクル技術開発に取り組みます。