特集 アジアの繊維産業(6)/インドネシア/生産、消費 両面で潜在力/求められる日本の高品質/日清紡グループ/シキボウのメルテックス/ユニチカグループ/東洋紡グループ
2023年03月10日 (金曜日)
日本の衣料品消費が伸び悩む今、インドネシアの消費をいかに取り込むかが日系繊維企業の課題となっている。衣料品の品質、機能に対する現地のニーズは年々高まっており、付加価値に強みを持つ日系企業の商機は拡大している。このチャンスをいかに成長につなげるのか。
〈日本の市況低迷で苦戦〉
インドネシア経済は2020年に新型コロナウイルス感染症の拡大で1998年のアジア通貨危機以来、初めてGDP成長率がマイナスとなった。しかし、翌21年は3・69%とプラスに転じ、22年は5・3%と14年以降では最高値に。23年も5%前後の成長が予測される。
現地では約3年続いた大規模な行動制限がなくなり、商業施設ではコロナ禍以前の風景を取り戻しつつある。だが、日系繊維企業の商況は難しい局面にある。今年2月にオンラインで複数の日系繊維企業に商況を聞いたところ、22年の前半は堅調だったものの、後半になるにつれて低調だったという傾向が見られた。
こうした傾向がある企業の多くは日本向けのビジネスを主力としており、日本の衣料品市況の停滞の影響を強く受けたことが推測される。22年3月ごろから進んだ円安ドル高も逆風となったもよう。「23春夏シーズンに売り出す衣料品の生地の値決めをする時に大きく円安となってしまい、受注減や減益を強いられた」(日系繊維メーカー)。
復調するインドネシア経済の裏で苦戦する日系繊維企業。今後、成長の鍵となるのは日系ならではの高品質のモノ作りや独自性の高い機能繊維の生産ノウハウだ。強みを生かした商材を現地で作り、現地や第三国の市場をターゲットに売り込むことが今後の成長エンジンとなる。
〈現地や第三国に商機あり〉
日本向けの商材で苦戦が聞かれる一方、好調、堅調な分野もある。その一つが中東民族衣装や宗教衣装だ。インドネシア東レグループやシキボウグループのメルテックス、東洋紡グループはこの分野での売り上げを順調に伸ばした。
現地のユニフォームをこれから新たな成長の柱に育てようという企業も出始めている。ポリエステル・綿混の生地が日本のユニフォームでは主流だが、現地ではレーヨン綿混が一般的。東海染工グループでプリント加工を主力とするTTI(トーカイ・テクスプリント・インドネシア)は金融・交通関連の制服や企業用バティック、現地のスクールシャツで新たな商機を模索する。
これまで服地としては特徴の少ない汎用素材が多く必要とされてきたインドネシアだが、ここに来て消費市場から生地の機能や品質の高さが求められてきているのは日系企業にはチャンスとなる。「昨年、現地アパレルなどとの取引先が倍増した」「清潔衛生関連の機能加工の要望が増えている」「風合いの良さという新たなニーズが現地に出ている」「環境に配慮した素材の問い合わせが増えている」――といった現地生産品への要望の変化を指摘する日系企業は多い。
こうした価値の高い素材を現地で開発し、インドネシア企業へと提案したり、欧米、中東、アフリカで売ったりという“第三国”へと売り込むことが今後の日系企業の成長には欠かせない要素となる。
〈日清紡グループ/一歩先行く環境対応を〉
日清紡グループは現地で紡績から織布、加工、縫製まで一貫生産できることを強みに、生産工程と生産品の高付加価値化を進める。同社グループは紡績・織布のニカワテキスタイル、織布・染色加工の日清紡インドネシア、縫製のナイガイシャツインドネシアの3社。
グループでは商材のみならず、工場そのものの新たな付加価値として環境対応を強化している。「GOTS」(グローバル・オーガニック・スタンダード)や「エコテックス」といった国際認証を取得済みで、環境や安全・安心に配慮した製造工程や生産品の高次化を進める。「他社より一歩先に出た環境対応を武器とする」方針。
今期(2023年12月期)の業績は“脱コロナ禍”による繊維市況の活性化が期待されるため、前期比増収増益の見通し。環境対応の充実と商材の高付加価値化で日本向けに加え、“消費地”としての現地マーケットや欧米向けでも業容拡大を計画する。
同グループは近年、主力のシャツ、ユニフォーム関連の商材に次ぐ新たな収益の柱として、カジュアル分野への生地や加工の売り込みにも注力しており、この分野での成長にも期待がかかる。
〈シキボウのメルテックス/今年5月に完全復旧〉
シキボウの紡織加工会社、メルテックスが2021年9月の火災から今年5月に完全復旧する。紡績の建屋を昨年新しくし今年、混打綿機やカード機を入れる。織布工程では広幅の織機12台を入れ90台体制になる。
生産量は糸が月産1700コリ、生地が同65万ヤードになる。糸の生産量は300コリほど火災前より減るが、付加価値の高い糸の生産に重点を置く。
生地では新たな販路として現地企業や官公庁の制服地を狙う。同社の生地の販売額は長らく日本向けのユニフォーム地が大半だったが、22年12月期は中東の民族衣装用途の販売が好調でユニフォームを超えるシェアになっているもよう。
日本のユニフォーム向けの生地需要が、在庫調整期に入り減ったことも中東比率を引き上げた。これまでポリエステル・綿混の糸・生地が主力だったが、インドネシアのユニフォーム市場で好まれるレーヨン100%やレーヨン混生地を開発し現地での販路を模索する。
中東の民族衣装用素材(糸・生地)も今期の業容拡大の鍵となる。現地で一貫生産し、汎用品よりもやや高級な商材として中東の生地問屋向けに輸出する。シキボウが作る、中東民族衣装用の生地は現地では最高級のブランドとして知られ、この知名度をインドネシア生産品にも生かす。
〈ユニチカグループ/ニットやデニム拡販へ〉
ユニチカグループは紡績工場のユニテックスと商社のユニチカトレーディングインドネシア(UTID)で構成する。今期(2023年12月期)は両社が連携し、差別化素材を開発し、製品ビジネスの拡大に取り組む。
UTIDは今期、インドネシア内販において主力の先染め織物の製造販売に加え、少量生産対応など細かなニーズに対応しながらニットやデニムなど新たな商材の販売に力を入れる。日本向けはスポーツ素材がメインだが、新たな基盤ビジネスを構築し立て直しを図る。
一方、ユニテックスは織物の製造と生地加工から20年に撤退し、紡績事業に特化する構造改革を行い21年に好業績を残した。ところが22年は綿花など原料コストの急上昇や円安の影響で、主な売り先である日本からの受注が大幅に減り苦戦した。
主力はポリエステル短繊維を綿でカバリングした衣料用の機能糸「パルパー」。錘数は3万3千錘で直近の稼働率は70%程度。パルパーは作業服、企業用ユニフォーム、シャツなどで採用実績が多い。
糸の品質向上、高付加価値糸の開発、新たな売り先の開拓が今期のテーマだ。品質を上げるために2台ある糸の最終仕上げ加工機「QPRO」をもう1台追加で導入する。日本向けを回復させ、さらに現地や欧米への売り込みを増やすことが反転攻勢の鍵となる。
〈東海染工のTTI/現地需要に対応力強化〉
東海染工グループで綿生地のプリントや加工を主力とするトーカイ・テクスプリント・インドネシア(TTI)は、受注数量を増やすため新たな取引先の開拓に力を入れる。同社の売上高の7~8割程度は地場で消費される生地へのプリント加工で、昨年10月以降インドネシアでの繊維製品の売れ行き不振の影響で加工数量は停滞している。
加工数量を引き上げるため、29~31日にインドネシア・ジャカルタで開かれる繊維関連の展示会「インドインターテックス」に10年ぶりに出展する。綿のプリント生地をメインに特殊加工や品質の高さ、抜染と呼ばれる生地の片面だけ部分的に色を抜くプリント技術などをアピールする。
レーヨン、ポリエステル、精製セルロース繊維「テンセル」を使った、生地とは異なる素材へのプリント加工も始める。加工できる生地の素材のバリエーションを増やし現地ニーズへの対応力を強化する。
主力の織物に加え、ニット地のプリント加工を始める。設備は09年に導入済みだが、これまで現地企業との価格競争が激しく積極的に提案してこなかった。現地で求められる生地の品質が上がっているため日系企業による高品質を強みにTシャツ、カットソー向け生地への加工を想定する。
〈東洋紡グループ/シルケット加工機を更新〉
東洋紡グループは販売・事業統括の東洋紡インドネシア(TID)、編み立て・染色加工の東洋紡マニュファクチャリング・インドネシア(TMI)、縫製のシンコウ・トウヨウボウ・ガーメント(STG)の3社で構成する。
2023年3月期の営業利益は3社ともに同社の当初予算を達成する見込みだ。事業を統括するTIDのセグメントは化成品と繊維の二つ。特に化成品が自動車パーツの売れ行きを追い風に堅調。売り上げ構成比率は65%を化成品が占める。
繊維事業では今年久しぶりの設備投資を予定する。TMIでシルケット加工機1台を更新し、稼働は7月の予定。STGではシャツやスポーツウエア縫製工場で使う生地の裁断機の入れ替えを検討中。更新すれば生産の効率と安全性の向上が期待できる。
設備投資の背景には、インドネシア国内で東洋紡製の綿混ニットシャツおよびニット地の売り先が増えていることがあるようだ。高い品質を維持することでさらに同国内でのシェアアップを図る。ニット関連の商材の現地での取引先数は21年に比べ倍増しており、その背景には現地で必要とされる生地に高い品質や機能が求められるようになっていることがある。