ジーンズ別冊23SS(9)/Top Interview/有力デニム、ジーンズメーカートップに聞く/篠原テキスタイル/フーヴァル/ドミンゴ/タカヤ商事/コダマコーポレーション/ドクターデニムホンザワ
2023年03月30日 (木曜日)
新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5月に5類に移行されるなど、社会経済活動が正常化に向かいつつある。コロナ過で落ち込んだ消費も回復が見込まれる中、各社は次に向けた戦略を練っている。デニム製造や洗い加工、ジーンズメーカー、商品企画会社など、ジーンズ業界の経営陣に今後の重点施策や展望などを聞いた。
〈篠原テキスタイル 社長 篠原 由起 氏/産地間でのモノ作り推進〉
新型コロナウイルス禍で滞っていた海外への往来が正常化してきた中、来期(2024年3月期)以降は改めて海外向けの販路開拓を進めていきます。
今年は、1月31日~2月2日にイタリア・ミラノで開かれた国際生地見本市、「第36回ミラノ・ウニカ」(MU)へ出展しました。75件のスワッチ依頼があるなど、ブランド側も積極的に生地を探していました。生地では、柔らかい風合いや、生地表面が奇麗めな生地の引き合いが多く、手触りが重視されていた印象です。
今後はMU以外の海外の展示会にも出ることも視野に入れています。実際に出展し、雰囲気を感じたいと考えています。
生地開発ではこの1~2年、産地間でのモノ作りに力を入れてきました。当社が生産する色落ちしないデニム調生地「ポリオリ」に使っている再生ポリエステル糸を緯糸に採用した蚊帳生地にプリーツ加工を施したものを、奈良県の蚊帳生地メーカーと開発しました。このほか、和歌山県高野口産地の企業と協業してファー生地なども作りました。今後も産地内外の企業と協力しながら特徴のある生地の開発を進めていきます。
生地の生産状況は、昨年末あたりから、受託生産、自販含めて落ち着いてきました。売上高は前期(22年3月期)にコロナ禍前にほぼ戻っており、今期の売上高も前期並みの見通しです。
一方、原燃料価格が高騰しています。特に電気代の値上がりが厳しく、生地の値上げを行ってきましたが転嫁が追い付いていない状況です。状況は厳しいですが、今後も新しい生地を提案し続けながら、受注の獲得につなげていきます。
〈フーヴァル 社長 石橋 秀次 氏/原点の賃加工固める〉
2022年12月期は洗い加工などの受注が海外向けなどを中心に堅調で、売上高が前期比10%弱増の8億9千万円となりました。加工のテイストでは、引き続き1980~90年代の古着風の加工が主流となっています。ジーンズに加え、カットソーなどの加工も多い傾向にあります。縫製OEMも受注が増えており、縫製拠点のフーヴァルベースはゴールデンウイークまで仕事がいっぱいの状況です。
当社が展開するジーンズカジュアルブランド「BLUE SAKURA」(ブルーサクラ)など自社製品事業も売上高が新型コロナウイルス禍前までに戻りつつあります。児島ジーンズストリート内にある店舗と、倉敷美観地区内にある店舗は、コロナ禍で来店客数が一時減りましたが、現在は回復してきています。ブランドの知名度が徐々に上がってきたことも売り上げが回復しつつある要因だと考えています。ブランドでは、通販サイトを昨年に刷新しました。これによって、ネット通販の売り上げも伸びてきています。
今期は原点でもある賃加工をもう一度固めていきます。4月に加工部隊に3人のスタッフが新たに入ります。人員を拡充しながら受注に対応していきます。一方、製品OEMは受注がいっぱいで、仕事が受けづらい状況。現状の顧客のみの仕事に専念します。
加工の開発にも力を入れます。水や薬剤をミスト(ナノバブル)状態にして加工することで、水や薬剤の使用量を低減するスペインのジーノロジア社製の設備「eフロー」を使った製品染めでは、従来の染めと同じような色合いを出せるようになりました。今後さらに改良を進めていきます。
〈ドミンゴ 統括本部 本部長 三谷 慎哉 氏/海外生産広げ安定生産へ〉
今期(2023年3月期)の売上高は前期並みの見通しです。卸売りが苦戦する一方、直営店での販売は、当社の全ブランドを扱う「Dモール」の児島本店(岡山県倉敷市)と京都店(京都市)で販売が堅調です。ネット通販も前年実績をクリアするなど、販売が徐々に増えてきています。今期は作る量を抑えて在庫を生まないやり方をシビアにやってきました。これによって利益確保にもつながっています。
来期(24年3月期)に向けては、海外生産比率を高めながら安定生産につなげていきます。生産の国内回帰や外国人技能実習生不足などの要因で、全国的に縫製工場の生産キャパシティーが逼迫(ひっぱく)しています。当社でも協力工場の生産力が落ちるなど、年明けごろから極端に影響が出てきました。今後、国内生産にこだわりすぎると難しいと感じています。そのため、海外生産に真剣に取り組んでいかなければなりません。
当社の自社製品における国内生産比率は現状95%ほど。海外生産比率を高めることで今後は80%ほどに抑えていきます。海外工場とウインウインで取り組めるような体制を取っていきたいですね。
20年から取り組む年4回のウェブ展示会は開催が定着してきました。機能の向上を見据え、このほど独自のシステムを導入しました。システムの調整を行いながら、在庫情報などを入れて、発注までできる仕組みを作ります。20年に導入した3D CADもシステムと連動していきます。新型コロナウイルス禍が落ち着いてきたとしても、ウェブを活用した展示会はなくなることはなく、一般的になってくるでしょう。リアル展と組み合わせながら受注につなげていきます。
〈タカヤ商事 社長 落合 豊 氏/新しい事業を創出する〉
2023年2月期の売上高は、前期比微減収の約59億円となりました。「ワークウェア・OEM事業」では、ワークウェア部門が新型コロナウイルス感染拡大によるベトナムでの都市封鎖の影響を受けたことが響き、減収となりました。OEMも各種コストアップの影響で、低価格ゾーンの仕事が拾いにくくなっています。アッパーゾーンも、全国的に国内縫製工場の生産キャパシティーが逼迫(ひっぱく)している影響で生産スペース確保が難しく、売り上げに響きました。
一方、ジーンズとレディースカジュアルブランド「RNA」を主体とする「ジーンズ・RNA事業部」では、顧客の減少によって卸売りは苦戦しましたが、百貨店での販売が好調でした。売上高はジーンズで前期比6%増、RNAで5%増となりました。自社通販サイトの「デニムライフ」も売上高が1億円を越えるなど、徐々に販売を増やしています。
今期は働く人たちが面白いと思ってもらえるような新しい事業を創出していきます。カジュアル分野では、20年から販売するアウトドアブランドの「H.A.K.U MOUNTAIN SUPPLY」(ハク・マウンテンサプライ)のブランディングを進めます。1年ほど前からは派生ブランドとして、タープなどアウトドアアイテムをそろえる「GUNJO」(グンジョー)の展開も始めました。今年は期間限定店なども積極的に出しながらPRします。越境電子商取引(EC)を活用した海外への販売も視野に入れます。
OEMでは、バイク関連など、従来とは違ったマーケットの仕事が増えてきています。今後も販路を開拓しながら受注につなげていきます。
〈コダマコーポレーション 社長 畠山 直秀 氏/売り先の多様化へ〉
今上半期(2022年8月~23年1月)の売上高は前年同期比14~15%増となりました。ライセンス展開するアウトドアブランド「GERRY」(ジェリー)などのアウトドア系ブランドに加え、ジーンズといったベーシックアイテムの販売が伸びました。
ただ、当初は25%の増収を見込んでいました。新型コロナウイルス感染拡大による中国での都市封鎖の影響で納期遅れが起こり、販売の機会損失が発生してしまいました。これが響き、売り上げを伸ばし切ることができませんでした。
当社は中国での生産が8割を占め、残りがカンボジアやバングラデシュなどでの生産となっています。今後は中国以外の生産比率を高めながら、将来的には中国での生産を6割ほどにまで下げたいと考えています。
今期(23年7月期)は、売上高をコロナ禍前の26~27億円(22年7月期は売上高23億円)にまでは戻したい。そのためには今下半期は、ブランドを拡充し、売り先を多様化しながら売り上げ増につなげていきます。
主力の量販店向けに加え、専門店やネット販売業者向けなどで販路を開拓していきます。開拓するためのキラーコンテンツはやはりブランドです。展開ブランドを今後増やしていきます。2月に東京ビッグサイトで開かれた「東京インターナショナルギフト・ショー春2023」では、ジェリーなどとともに新ブランドをアピールしました。
引き続き業務の効率化も進めます。20年に導入したクラウドシステムによって売り上げ情報がリアルタイムで集計できるようになりました。社員もクラウドの活用に手馴れてきており、今後も習熟度を高めていきます。
〈ドクターデニムホンザワ 代表 本澤 裕治 氏/トップス製品に商機〉
最近のデニム商材では高めの婦人用デニムシャツの売れ行きがいいです。セレクトショップなどでも品ぞろえが増えています。今まではボトムスが話題の中心でしたが、デニムはジャケットやシャツといったトップスにも使えます。インディゴ染めのスエットやニットなども売り出されています。
ボトムスにフォーカスし過ぎると狭い世界になってしまいます。デニムやインディゴをトップスにも積極的に取り入れていくことは、有効な一手だと思います。デニムシャツやインディゴスエットのブランディングを今進めています。23秋冬や24春夏に向け、本格的に仕掛けていくつもりです。
ジーンズについては、高齢者に照準を合わせた製品を考えています。日本では少子高齢化が急速に進んでいるのに、ジーンズの多くは若者を意識して作られています。そこを変えていきたいなと思います。
ジーンズ業界の環境配慮は欧米に比べると遅れています。例えば埋めて土に返す「生分解」や回収して素材を再利用する「循環」などについて、共通の基準や仕組みなどを設けてモノ作りをしていく必要があると考えています。
欧米ではこうした基準が出来上がっていて、基準を満たすことが必須になりつつあります。欧米の百貨店の衣料品売り場では、環境配慮に対応したブランドや商品への入れ替えが進んでいるようです。
環境の重要性を認識してジーンズ業界全体で対応していく必要があります。そうしないと、欧米の展示会に日本のデニム商材を出展したり、海外で販売することが難しくなってしまいます。




