特集/香港・華南/中国全土を視野に展開
2002年04月03日 (水曜日)
――在香港日系企業の戦略
香港には欧米の小売店・アパレルメーカーの買い付け事務所や代理店が3000社以上ひしめく。その香港のアパレル貿易における地位が中国上海や山東省の繊維産業の驚異的な発展で脅かされている。事実、対日輸出は2001年暦年で前年比横ばいと伸び悩み、生産地は上海市を中心とする江蘇省、浙江省などいわゆる華東地区や山東省に移転しつつある。しかし、このことだけで香港およびその後背地である華南地区離れとは言い切れない。中国のアパレル生産は上海、香港・華南両地区を大きな核として全土へ拡散していくことになりそうだ。アパレル商社を中心とする香港の日系企業はそうした情勢をにらみながら、中国大陸内部にもくさびを打ち込んでいる。
衣料生産/北へ北へと産地拡散、地域特性生かし住み分け
昨2001年の中国繊維輸出は533億米ドルで、そのうち広東省は121億ドルを輸出し、全国シェア23%とトップの座を維持した。原料・テキスタイル輸出が34億3600万ドルと前年比2・9%増加した半面、アパレルだけをみると86億8800万ドルで12・2%減少し、浙江省(14・9%増)や山東省(9・6%増)の伸びに対照的で明暗を分けた(別表)。
これは生産コストの格差が主因。広東省を中心とする華南地区の縫製工場やセーター工場の賃金は、未熟練労働者で月間600~800元とされる。これに食費や宿舎などの厚生費、残業などを加えるとざっと1000元というのが相場。内陸部からの労働者の短期入れ替え移入でここ5年、10年の期間でみればほとんど変わらない。
ところが、例えば上海郊外の江蘇省あたりに目を移すと、この800元が500~600元。もっと内陸部に入れば賃金のみで300元といった地域もあり、いくら華南地区の賃金コストが変わっていないとはいえ相対的なコスト格差は歴然とする。
加えて香港での管理コストの問題がある。本社の管理部門経費、あるいはオフィス賃貸料などで「香港・華南地区と上海や華北地区とのコスト差は明らか」(堀田守プロミネントアパレル=PAL社長・伊藤忠商事)というのが日系商社に共通する見方だ。
香港の縫製企業はこうした香港のコスト高を嫌って香港から広東省に生産管理や品質管理機能を移転、同地で中国人スタッフを増やす動きを強めてきた。中には本社も移す向きも少なくない。大手縫製企業のウィンタイ・グループもその一つ。同社の本社は広東省東莞市にあるが、工場となると上海の直営工場のほか中国大陸に協力工場のネットワークを張り巡らす。
同社のフランシス・チェン副社長(衣料部門統括責任者)は「縫製業は牧畜業と同じ。適地を求めて移動するだけ」と、意識の中に国境や地域の境はない。2000年には上海にマーケティングオフィスを設置し、同市郊外の松江区に従業員500人強の直営パンツ工場を設けた。東莞市の本社工場を司令塔に中国主要地域での生産ネットワークを活用、商品・品質・価格・納期に合わせた生産体制を敷いた。
生産地にこだわらず
生産地にこだわらないのは日系アパレル商社も同じだ。対日輸出で見ると、トレディアファッション(三菱商事)は昨年12月期の取扱高6億5500万ドルのうち上海店(上海・青島など)が52%を占め、初めて香港本社(ベトナム含む)を上回った。高木一明社長は「取扱高は上海が多いが、利益率となると2対1で香港に軍配が上がる。それだけ香港が付加価値の高い商品を手掛けているということ」と説明する。
例えば小売価格980円の子供用セーター。FOB(船積み)価格で1枚1・8ドル前後だが、いかに初回注文が30万枚、40万枚とまとまっても香港周辺ではコスト的に生産は困難。こうした商品は上海や青島で生産、香港・華南ではミセス、キャリアなど中・高級品にシフトするといった具合だ。そのために香港本社を司令塔に中国大陸内の事務所充実に走る。
ファッションフォース香港(NI帝人商事)も同じだ。「香港・華南の持つ機能に上海が追い付くのに10年はかかる」と言う椚座武敏社長は。(1)中国を理解し欧米の価値観が分かる香港企業・人(2)金融や素材・ファッション・中国情報などの集積――が「香港で活動するうえで力を発揮する」と強調する。
香港・華南の強みとは?/パッケージ提案こそ持ち味
では、香港・華南が持つ強みとは具体的に何か。PALの堀田社長は、(1)香港・華南が蓄積してきたセーターやデニムなどの素材をベースにしたモノ作り(2)QR・小ロット対応(3)色・デザインを含めたパッケージ型の企画提案(4)欧米の雰囲気を持った “顔”作り――の4点を挙げる。「量的な拡大は難しいが、こうした商品やモノ作りの手法は香港・華南に一日の長がある」と言う。
この香港・華南の強みを最も熟知しているのは中国企業かもしれない。「輸出志向で来た中国企業も内販強化が課題。そのため香港の持つ機能を利用するケースが増えている」と堀田氏は指摘する。
例えばウィンタイ・グループは2、3年前から中国ローカルグループのOEM(相手先ブランドによる生産)を受注している。前出のチェン氏によると、まず契約金額の30%を前受金として現金で受け取り素材を調達、生産にかかる。納品と同時に残金を受け取る仕組みだ。
中国企業は(1)30%の現金を用意するだけで素材調達や生産にかかわる一切の資金が不要(2)香港企業の持つ欧米向け輸出商品の中からアソートできる――というメリットがあり、何よりも(3)WTO(世界貿易機関)加盟後、激化が予想される国内販売市場で質を重視した商品供給ができる、というメリットが大きい。
香港・華南地区は欧米向け輸出で培った機能を中国大陸に向けて発揮し始めた。また、欧米企業が買い付け事務所を閉鎖したという話もなく、撤退相次ぐといった事態にはなっていない。華南地区を含めた“グレーター香港”が今後とも大きな核になるのは確実で、上海その他と地域特性を生かした形で住み分けが進展する可能性が大きい。
では、こうした情勢の中で日系企業の取り組みはどうなのか――。