2023年春季総合特集(8)/Topインタビュー/シキボウ/社長 尻家 正博 氏/消費者に認められる新しい価値創造/新生メルテックス軸に海外市場深耕

2023年04月24日 (月曜日)

 シキボウは前期(2023年3月期)からスタートした3カ年の中期経営計画で基本戦略に掲げる、繊維セグメント内外での垂直・水平連携の強化が進みつつある。尻家正博社長は「全社で営業に取り組むマインドが少しずつ定着してきた」と話す。今期は「強化すべき市場を絞り込み、経営資源を集中させていく必要がある」として、他社との差別化が進むサステイナブルな商材の販売拡大や、海外での販路開拓を加速させる。インドネシアの紡織子会社メルテックスは火災からの再建が進み、今月から来月にかけて本格的に稼働する。増強した新生メルテックスを軸に海外で新たなビジネスの構築にも乗り出す。

――インフレを好機と捉えるためにはどうすれば良いでしょうか。

 繊維業界ではより良い製品を、いかに安く作るかに主眼を置いてきましたが、消費者の志向が変化し、単に価格が安いだけでは購入されなくなってきました。本当に欲しいもの、価値を認めるものであれば、製品やサービス、体験を問わず、多少高くても購入されます。

 このインフレを、価格競争から脱却していく好機と捉えていく必要があるのではないでしょうか。当社では環境配慮やエシカル、サステイナブルな商材に加え、独自性の高い機能加工を展開していますが、さらに消費者に認められる新しい価値の創造に注力していかなければいけません。

――前期を振り返ると。

 当社にとって3カ年の中期経営計画の初年度でした。各事業部門ともに基本戦略に沿って着実に活動を進めてこられたと思います。一方で売り上げは回復しつつあるものの、原材料費や物流費の高騰、為替などの影響を大きく受け、利益面では苦戦した1年でした。

 繊維セグメントでは生産、販売、開発技術において垂直・水平連携を強化し、グループ国内外の関係会社や、社外企業との連携に力を入れてきました。

 一昨年に組織を改編し、繊維部門の営業を統合しましたが、全社で営業に取り組むマインドが少しずつ定着をしてきました。グループ会社との連携強化によって、海外でのビジネスも少しずつ構築できつつあります。

 前の期比増収の見通しで、おおむね中計の目標に沿う形でしたが、急激なコストアップ分の価格転嫁がなかなか進みませんでした。特にユニフォーム地では定番商品を中心に値上げに苦心しました。今期も引き続き値上げを進めていきます。

 中東向け生地輸出は円安の追い風を受け堅調でした。原糸販売は下半期に入り輸入糸との価格競争となり急減速しました。海外製が多いニット製品は原材料のコスト高や為替の影響を受け、利益面で苦戦しました。生活資材は上半期に上海でロックダウン(都市封鎖)による工場の操業停止などを受けて伸び悩みました。下半期から主力の羽毛ふとん用側地関連が健闘しましたが、事業全体では減収になりそうです。

――産業材セグメントはいかがですか。

 産業資材部門ではドライヤーカンバスが製紙会社の生産縮小を織り込み低調ながらも計画通りでした。フィルタークロスは製造業の設備投資状況の改善で堅調でした。

 機能材料部門では化成品が増粘多糖類といった食品添加物の販売で伸びました。複合材料は航空機向けに受注が回復傾向にあり、今期から来期にかけ、元々の計画に戻ると思っています。

――今期のポイントを教えてください。

 3カ年の中計2年目で目標を達成するためには重要な年度になります。上半期はコストアップ分の影響が残るでしょうが、下半期には計画へ戻していかなければいけません。繊維セグメントがどれだけ復活できるかが鍵です。

 既存ビジネスの中で価格転嫁をお願いし、利益率の改善に当然努めていきます。しかし、新しいこともやろうとしている中、既存のところで労力がかかり、力をつぎ込めないケースも増えてきました。利益改善はもちろんですが、強化すべき市場を絞り込み、経営資源を集中させていく必要があります。既存と新規を重点的に絞り込み、メリハリを出していきます。

 素材的には生分解性ポリエステル短繊維「ビオグランデ」や、繊維製品の廃棄後に焼却処理される際の二酸化炭素を削減するポリエステル「オフコナノ」、フェアトレード綿糸「コットン∞」(コットンエイト)など、サステイナブルな商材がそろいつつあります。これらに独自の機能加工を付与し、どれだけ販売を拡大できるかがポイントになります。

 もう一つは海外販売の強化です。グループ拠点の連携による海外生産・販売をもっと進めていきます。21年9月に火災があったインドネシアの紡織子会社メルテックスでは再建が進み、今月から来月にかけて本格的に稼働します。設備を入れ替え品質面の向上、生産性の効率化を図っています。メルテックスではこれまで日本向けのビジネスが中心でした。これからは新生メルテックスを軸にインドネシアでの内販も含め、海外でのビジネスを増やしていきます。

 これまで海外販売に特化した営業担当者がいませんでした。繊維営業部と機能衣料課と輸出衣料課に担当者を配置し、海外ビジネスの拡大を図ります。

 日本向けに糸売りやニット製品の取扱量が増えてきたベトナムでは、年内にも現地法人を立ち上げます。昨年、子会社を設立した台湾では現地のメーカーや産元との連携を強め、長繊維合繊糸を使ったトリコット素材などの拡販に注力します。

――社内外でさまざまな連携も進んでいます。

 ファッションブランド「アンリアレイジ」には、23秋冬向け商品でコットン∞を採用してもらいました。ユニチカトレーディング(UTC)との連携でもビジネスの芽が出始めています。UTCの二層構造糸「パルパー」と当社の特殊織物「アゼック」を組み合わせた素材が、ユニフォーム用途で採用されるなど実績もできつつあります。

 女性社員を中心としたプロジェクトチーム「ミチ」を中心に、フェムテック市場への販路拡大に向けた動きも活発になっています。

〈インフレを実感するとき/食料品の値上がり〉

 週末は必ず奥さんと一緒にスーパーへ行き「カートを押す係です」という尻家さん。「本当に昨年から食料品が上がった」とため息をつく。「値段が変わらなくてもこれは量が減ったなあという物も増えた」。年明けからティッシュなど日用品も「この30年間では経験したことがない」ほどの値上がり。買い物に行くということで記者が「料理もされるのですか」と聞くと「料理以外は何でも」。「カートを押すのと、車の運転と……、それと支払いもか」とぼそり。

【略歴】

 しりや・まさひろ 1988年シキボウ入社。2018年総務部長、19年執行役員コーポレート部門経営管理部長、20年執行役員コーポレート部門経営戦略部長兼財務経理部長、21年執行役員コーポレート部門財務経理部長。21年6月から代表取締役兼社長執行役員