春季総合特集Ⅱ(20)/Top インタビュー/インフレは新ステージへの好機/検査機関
2023年04月25日 (火曜日)
検査機関の業績は、海外を中心に回復基調を見せる。ただ、光熱費や薬品の価格の上昇などで収益面では厳しさが増している。試験・検査価格の適正化が重要課題だが、既存の一般試験ではなく、新試験や新たな価値の提供をポイントとし、現在のインフレを次のステージに上がる好機と捉えて挑戦を続ける。
〈日本繊維製品品質技術センター(QTEC)/変革に向けて行動する/国内外職員の成長に自信/理事長 山中 毅 氏〉
――インフレを好機とするには何が必要ですか。
今回のインフレは、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー価格が高騰し、原材料の価格上昇に結び付きました。人件費も上昇しており、消費意欲が回復しないとすればマイナスの要因になります。検査機関も厳しい状況ですが、ピンチをチャンスに変えていこうと話しています。
それには仕事の形を変革する必要があります。ここ数年でQTECの職員は大きく成長したと私自身が感じています。意志力・対応力・行動力も向上しているので、さまざまなことが変化している今を好機と捉え、変革と実行をさらに推し進めてくれると信じています。
――2022年度(23年3月期)を振り返ると。
期初に中国・上海で新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)があったほか、日本でも第7波などがあり、全般的には厳しい1年でした。日本人職員はもちろん、ナショナルスタッフも奮闘してくれた結果、経営陣が「守りたい」と考えていた業績水準は維持することができました。全ての職員に感謝しています。
地域別で見ると、中国は上海でロックダウンの影響がありましたが、南通と無錫、青島、深センは好調に推移しました。バングラデシュも順調で、ベトナムは昨年を上回りました。国内は、微生物関連や機能性関連は健闘しましたが、衣料品の一般試験が苦戦しました。
――23年度は中期経営計画の2年目です。
1年目はPDCAを回して順調に進みました。コロナ禍が落ち着きを見せ、外に出る機会も増えてきました。実際、旅行需要などは回復していますが、地政学的リスクが継続していますので、衣料品の消費に目が向くには時間がかかると思っています。ただ、バングラデシュのダッカに新会社を設立(以前は試験センター)したほか、無錫試験センターを上海可泰検験の支店とするなど、体制を整えたのでチャンスは出てくるでしょう。
――どのような施策を進めますか。
原点回帰の1年です。これまでいろいろなメッセージを出し、さまざまな事項に取り組んできましたが、良い方向に進んでおり、研修強化と合わせてそれらを継続します。炭火による火の粉防融試験を開発したように新規試験法開発は継続し、事業所経営による連携強化も深耕します。
キャンプ用テントのSGマーク認証試験をはじめとする認証業務やCSRなどの監査業務もQTECの強みの一つです。これらにも磨きをかけ、顧客から選ばれる検査機関になれるように存在価値を高めます。また、社会的価値の創出と職員の成長に資するイタリア・ベネチア大学への国際貢献も継続します。
〈ボーケン品質評価機構/ポートフォリオを考える/顧客から相談される風土に/理事長 吉田 泰教 氏〉
――インフレを好機とするには何が必要ですか。
生産地の移動への対応が課題となります。原材料費やエネルギー価格上昇を背景にコスト削減の要求が強まっていますが、検査費用もコスト削減の対象になりやすいです。ただ、検査費用は長年にわたって価格が据え置かれており、報告書などの送料の無料サービスも多いという現実があります。やはり規格に基づく納品前試験などは差別化が難しいですから、結果、顧客企業の課題を解決するソリューションを提供する新事業を拡大することで顧客企業との関係を強めていくことが重要になります。検査機関としても事業ポートフォリオを変えていく必要があるでしょう。
――2022年度(23年3月期)を振り返ると。
繊維事業は定番の試験は減少傾向が続いており、新型コロナウイルス禍を契機に急増した抗ウイルス性試験など衛生関連の試験依頼も一定水準に落ち着きました。一方、品質支援事業は工場QC(品質管理)監査サポートなどの引き合いが順調に増えており堅調です。認証分析事業はサステイナブル支援で種まきが進みました。
――23年度の方針は。
「挑戦する」「繋がる」「集中する」を経営方針に掲げ、事業戦略としてウェルビーイングとサステイナブル、品質・環境・人権への取り組みによる事業推進、高品質・約束納期順守・効率性と取引先への説明責任強化など現場力の向上による競争力の強化、デジタル技術で機構を変革するDXによるオペレーション・マーケティング強化に取り組みます。
繊維事業は、サステイナブル素材に関する評価技術や試験方法を取引先と共同開発も含めて確立します。特にリサイクル繊維の鑑別・定量的試験方法、フェムテック関連の評価技術などに取り組みます。JIS(日本産業規格)化された「キュプラ・リヨセルの混用率試験」「獣毛混用率のペプチド分析」の実用化など成果も上がり始めました。品質支援事業は、企業がサステイナビリティーに関する取り組みを把握するツールであるボーケン版サステイナブルショートレビューが今春に完成予定です。これをベースにコンサルティングやソリューション提案を進めます。認証分析事業は温室効果ガス(GHG)排出削減に向けたコンサルティングや検証・評価事業に取り組みます。生分解性試験も外部機関と連携しながらPRします。
海外事業は生活用品の検査、カスタマイズ試験や実用テストを強化します。上海、常州、青島の各拠点に担当部署を設置し、日本には海外事業推進室を設置しました。工場サポート業務体制を強化し、顧客企業から相談される風土の構築に取り組みます。
〈ニッセンケン品質評価センター(ニッセンケン)/モノ・コトの見直し必要/価格適正化が課題/理事長 駒田 展大 氏〉
――インフレを好機とするには何が必要ですか。
原材料やエネルギー価格の上昇は収益を圧迫しますので、インフレを好機とするのは難しいと言えます。コストアップ分の価格転嫁が必要ですが、検査機関は過当競争の状態が続き、価格の適正化は容易ではありません。価格の適正化は、自分たちの事業に値打ちがあるかどうかにかかっているのでしょう。
事業をしっかりと分析し、コストに見合っているのか、社会から要請されているのかを見極めることが求められます。利益確保のための見極めによって事業の取捨選択も出てくるでしょう。そのような意味ではインフレはさまざまなモノ・コトを見直すきっかけであり、利益拡大のチャンスに変わります。
――インフレは、日本の経済や検査機関にはどのような影響を与えますか。
新型コロナウイルス禍で落ち込んだ景気が回復に向かう中、インフレは当然なのかもしれません。エネルギーや食品の価格上昇が続いており、簡単にデフレに戻ることはないと予想しています。繰り返しになりますが、事業の分析・見直しができれば、日本の繊維・アパレル産業は良い方向に進むと思います。
――2022年度の業績は。
厳しい1年だったと言えます。中でも苦戦したのが国内の繊維・アパレルの一般試験・検査です。一方で、中国は、ゼロコロナ政策によるロックダウン(都市封鎖)の影響がありましたが、前年並みを維持しました。ASEAN地域も前年を上回る見込みです。
順調な推移を見せたのがライフ アンド ヘルス(L&H)事業本部です。「エコテックス」は日本市場への浸透が進んでいます。バイオケミカル分野は、特需はなくなりましたが、引き続き堅調です。香粧品分析は、本格的な拡大はこれからですが、試験依頼は着実に増えています。
――23年度は。
中国、ASEAN、インド・バングラデシュ、L&H事業、国内のそれぞれで収益が挙げられる体制の構築を目指します。中国はニッセンケンにとって大きな柱ですので継続強化します。ASEANとインド・バングラデシュは日本向けと内需向け、欧米向けの三つで成長を図ります。
L&H事業本部については、香粧品の本格化に向けて認知拡大と対応可能な試験項目を増やします。バイオケミカル分野とエコテックス事業は確実に伸びていくと考えています。
一番の課題は国内の繊維・アパレルの試験です。L&H事業本部と連携を深めながら、化学物質管理やバイオ関連、品質管理を含めた総合的な対応を強化します。同時に過剰サービスや過剰品質の是正にも取り組みたいと思っています。