春季総合特集Ⅲ(10)/ダイワボウレーヨン/社長 福嶋 一成 氏/“環境×機能”強める/省人化の取り組み不可欠に

2023年04月26日 (水曜日)

 「インフレ下では、消費者は本当に必要なものしか買わなくなる。これまで追求してきた“環境×機能”のモノ作りをさらに強くすることが必要だ」とダイワボウレーヨンの福嶋一成社長は指摘する。人手不足や物流分野での労働規制強化への対応も欠かせない。「製造・輸送工程での省人化の取り組みが不可欠になった」と話す。

――インフレを好機とするには何が必要でしょうか。

 今のところ、ダメージの方が大きいですね。レーヨンは製造工程で原料の他に多くの化学薬品を使い、エネルギーも消費しますから。もちろん、需要増加による市場の好調でインフレになるのなら、その流れが追い風になる可能性はあります。しかし、現在の物価上昇はコストプッシュインフレですから、レーヨンのような原料メーカーにとっては打撃になっています。新型コロナウイルス禍前と比較して、繊維製品の1人当たり購買量が減っているはず。必要な量しか買わなくなっていいます。この傾向がインフレによる価格上昇でますます顕著になるのではないでしょうか。

 消費者が本当に必要なものしか買わなくなるとすると、当社の場合はこれまでも追求してきた環境配慮と機能性を融合した商品開発、“環境×機能”のモノ作りを一段と強める必要があります。例えば当社は米国に防炎レーヨンを輸出していますが、米国市場では金利上昇による住宅着工件数減少の影響で防炎レーヨンの需要も減退傾向です。しかし、機能性とサステイナビリティーを両立した商品は引き続き需要家に選択され続けています。特に消費者が体感できる機能の重要性が高まりました。提案の方法も工夫する必要があります。

――2022年度を振り返ると。

 原燃料や薬剤などの価格上昇が激しく、従来の売上高の10%を超えるコストアップになっています。そうした中で、これまで環境配慮とサステイナビリティーに焦点を当てた商品を開発・提案してきたことで、これら商品を中心に何とか価格転嫁でき、前年度並みの利益を確保できました。顧客の皆さんにご理解いただけたおかげです。

 消費者の間で再生セルロース繊維であるレーヨンは、合成繊維とは違うということも認知され始めました。特に不織布分野でその流れが強まっています。このためフェースマスクやコスメティック向けで撥水(はっすい)レーヨン「エコリペラス」の採用が始まりました。海水中生分解性も確認している「エコロナ」も機能紙向けショートカットファイバー用途で既存のレーヨンからの置き換えを進めています。

 輸出も拡大しています。期前半は防炎レーヨンが好調に推移し、期後半に入ると中国へのフィルター用や難燃レーヨンの輸出が好転してきました。紡績用途も悪くありません。ここでも新しい提案が成果を上げつつあり、リサイクルレーヨン「リコビス」やカーボンニュートラルレーヨンの市場投入と採用が始まりました。

――23年度の課題と戦略は。

 原燃料高騰など厳しい事業環境が今後も続くとみています。そうした中、当社は25年までに使用するエネルギーの転換を計画しています。現在、益田工場(島根県益田市)では燃料に重油を使用していますが、これをLNG(液化天然ガス)に転換し、GHG(温室効果ガス)の排出量を削減する計画です。大きな投資になりますから、今期は実行に向けた青写真をしっかりと描くことが重要です。

 そして、“サステイナブル”なレーヨンの拡販を進めます。例えばショートカットファイバーも含めて、エコロナへの切り替えを検討しています。そのためには海外販売の拡大が重要になるでしょう。海外市場の方が環境配慮素材への需要が強いからです。

 やはり“環境”と“機能”を追求することでしか生き残れません。ですから、産官学連携も含めて研究開発に力を入れます。5年、10年先を見据えた開発が重要です。実際に今売れている機能レーヨンのベースとなる技術は5年、10年前に開発されたものです。そう言った長期的視点に立った開発がますます重要になると思います。

〈インフレを実感するとき/海外の物価高に驚く〉

 「久しぶりに海外出張したが、あまりの物価高に驚いた」と言う福嶋さん。物の値段だけではない。ホテル料金などサービス価格の上昇がすさまじい。「人手不足も理由だろう。人件費が大きく上昇している。これは工場でも同じ」。繊維に限らず製造業にとって人手不足は最も頭の痛い問題であり、安易な解決策もない。「自動化、省人化を真剣に考えることが必要」と改めて実感している。

【略歴】

 ふくしま・かずなり 1982年大和紡績(現ダイワボウホールディングス)入社。2013年ダイワボウレーヨン専務、16年大和紡績取締役兼ダイワボウレーヨン社長、17年6月から20年3月までダイワボウホールディングス執行役員兼務。21年大和紡績取締役合繊事業統括兼合繊事業本部長を兼務、23年4月から大和紡績取締役合繊・レーヨン事業統括、合繊事業本部、生産統括を兼務