特集アジアの繊維産業・インドネシアの日系企業/紡績糸編

2002年04月04日 (木曜日)

環境激転下の進路を追う

 “ド定番”品の産地と目されてきたインドネシア。しかし、同国の製造経費の低さも、「圧倒的」と言えるほどのものではなくなりつつある。圧倒的に安かった労務費は、ここ数年急上昇を続けている。資金援助を受けている国際通貨基金の意向によって、電力や燃料も国際相場に急速に近づきつつある。人権費の高い日本人を抱えているという点で元々高コスト構造だった日系繊維企業は、このような継続的かつ急激な経費上昇圧力の中で、どこに進もうとしているのか。

コーマ糸生産能力増強

ジャカルタの南西約200キロに位置するバンドンに綿紡工場を持ち、純綿糸を販売しているピンテックス。同社株式の65をインドネシアバティック共同組合(略称=GKBI)が、15%を後述する日系合弁プリマテキスコが、10%をニチメンが保有している。

現在の保有紡機は、3万8016錘。生産番手種は、30単、40単、50単の3種だけ。50単としてそろえているのは製織用コーマ糸だけだが、30単、40単については、製織用と編み立て用を、それぞれコーマ、カードの両方で供給している。とは言え、他の日系紡績工場に比べると、生産品種を絞り込んだ格好だ。

同社の瓜生亨社長は、生産品種の多様化を進めることには懐疑的だ。それよりも、売上高に占めるコーマ糸の構成比を高めることに主眼を置いている。昨年12月、コーミング設備を5台導入した。それまで37%に過ぎなかった全紡績能力に対するコーマ糸生産能力が、これによって一気に70%へ高まった。なお、同社売り上げの60%はダイワボウを中心とする日本向け、10~15%はインドネシア国内向け、残りはその他の東南アジア向けとなっている。

 バンドンの近く、スバンで96年に紡績工場の操業を開始し、純綿糸を販売している新興企業のコンドウボウ・テキスティンド。同社へは当初、現地資本も5%を出資していた。しかし、98年以降は近藤紡グループが全株式を所有する会社になっている。同社も、生産品種を絞り込んでいる。

 現在の保有紡機は4万2400錘。生産番手は、30単と40単だけ。それぞれをカードとコーマでそろえている。当初はコーマ糸とカード糸をほぼ等量生産していたが、現在は生産量の8、9割がコーマ糸になっているそうだ。

 現在、4万錘規模の増設工事を進めている。夏には完了する予定だ。この増設分では、コーマ30単、同40単に加え、20単も生産する予定だと言う。これによって、生産番手が一種増えるが、それでも少品種大量生産型であることに変わりはない。

 現在は、生産糸のほとんどを、インドネシア国内の日系紡織企業へ販売している。ただし、増設によって生産量が増えるので、今後は現地資本企業への販売も増やす考えだ。また、インドネシア国外の売り先の開拓も検討すると言う。

多品種志向企業も

 ジャカルタ近郊のタンゲランに紡織編工場を持つ、クラボウ・マヌンガル・テキスタイル(略称=クマテックス)。同社株式の43%弱をクラボウが、40%を現地の大手紡績会社アルゴパンテスが、残りを丸紅が保有している。

売り上げの55%強を糸売り、40%弱を織物、5%を編地で稼ぎ出している。同社の紡績工場運営方針は、前述2社とは異なる。

 当初は、アルゴパンテス向けのポリエステル・綿混45単糸だけを紡績していた。ところが、ア社がそれを自身で生産し始めたことをきっかけに、多品種化の道を歩み始めた。92年頃の事だ。

当初からある3万錘規模の紡績工場は、8系列(30台)の練篠設備を備える。91年に新設した2万錘規模の第2工場にも、3系列(10台)の練篠設備がある。また、同年に、ダブルツイスターを53台も導入した。このような潜在能力を使って99年以降、生産品種の多様化を加速した。

現在は、1カ月当たりで平均40種もの糸を生産している。以前の4倍だ。西島裕社長は、「多品種化をさらに進め、脱定番を加速する」と語る。なお、同社の糸は、(1)クラボウ(靴下用アクリル・綿混糸)(2)クラボウ以外の日本企業(3)インドネシア国内(4)その多国―へ販売されており、その量はほぼ均衡していると言う。

 バンドンに紡績・糸染め工場を持ち、アクリル紡績糸を販売しているボネックス・インドネシア。同社株式の65%は三菱レイヨンが、30%は三菱商事が、5%はニチメンが保有している。この会社も、クマテックス同様多品種化の道を歩んでいる。

同社は、90年に梳毛紡の第2工場を、96年に2インチ紡の第3工場を新設した。97には、第3工場に梳毛紡機も据えている。さらに、2000年に2インチ紡の第4工場を新設した。坂本信一郎社長は、一連の増設が始まった90年を境に、生産品種の多様化を進めたと語る。

現在、梳毛紡機を3万1792錘、2インチ紡機を2万4160錘有する。前者の梳毛紡機での生産糸種は、番手種を計算に入れると、月間30~40種、後者の2インチ紡機でのそれは20~30種に達していると言う。

 販売している糸の85%は生糸で、染め糸は15%程度。生糸の5割は日本向け、3割はインドネシア国内向け。インドネシア国内向けも、最終的には輸出に向けられている。一方の染め糸は、香港・中国向けが中心だ。

 ジャカルタの東、プルワカルタに紡績・糸染め工場持ち、アクリル紡績糸を販売しているインドネシア・アサヒ・カセイ(略称=INDACI)。株式の74%弱を旭化成が、残りを伊藤忠商事、丸紅、住友商事、野村貿易など複数の企業が保有している。

 97年までは、32双、36双などの汎用品を中心に生産していた。その頃から中国産との競合が目立ち始めたため、「脱汎用品」(金崎誠社長)を進めた。現在は、4割が、細デニール繊維使いや、羊毛混などの非汎用品になっていると言う。

 非汎用品の生産が増えるにつれ、インドネシア国外向けの売上げが増えた。かつて15%だった輸出比率が、現在では40%になっている。輸出先は、豪州、英国、日本、韓国、南アフリカなどだ。

 なお同社工場には、紡績棟に隣接する格好でナイロン長繊維製造棟がある。これについても脱汎用品を進めており、現在では50%がモノフィラメント種などの非汎用品になっているそうだ。