特集 環境(3)/東レ/本物の循環経済を目指して/プラットフォーム構築を推進
2023年06月27日 (火曜日)
東レは今期2023年度(24年3月期)から新しい中期経営課題に取り組む。基本戦略の一つである持続的な成長の実現に向けてサステナビリティイノベーション(SI)事業とデジタルイノベーション(DI)事業の売上収益を全体の60%程度まで高めることを目指す。SI事業の一つが「持続可能な循環型の資源利用と生産に貢献する製品」の拡大だ。ここで繊維事業が大きな役割を担うことになる。今期から繊維サーキュラーエコノミー戦略室を立ち上げ、本物の“循環経済”を目指す取り組みが始まった。
東レは、繊維サーキュラーエコノミー(CE)戦略室を衣料から産業資材まで幅広い用途に向けてナイロン、ポリエステル、アクリルの三大合繊を供給するファイバー・産業資材事業部門の傘下に置くことで糸・わたから循環経済(サーキュラーエコノミー)の実現を目指す。繊維CE戦略室長を兼務する赤江宏一ファイバー・産業資材事業部門長と繊維CE戦略室の白石肇主席部員に今後の取り組みを聞いた。
ファイバー・産業資材事業部門長兼繊維サーキュラーエコノミー戦略室長 赤江 宏一 氏
繊維サーキュラーエコノミー戦略室主席部員 白石 肇 氏
――繊維CE戦略室を設置した狙いは。
赤江氏(以下、敬称略) 現在の中期経営課題でもサステナビリティイノベーション事業は重要な成長エンジンのひとつとして位置付けられています。繊維事業本部としてCEもバリューチェーンの中で実現しなければなりません。その際、課題になるのがリサイクル原料の確保です。そこでナイロン、ポリエステル、アクリルのそれぞれ糸・わたを販売しているファイバー・産業資材事業部門に繊維CE戦略室を置くことで、素材系列ごとに循環のプラットフォームを構築していくことを目指しています。この仕組み作りと、そこから生まれる商品についてブランディング戦略の立案と運営をすることが繊維CE戦略室の役割です。
――具体的な取り組みは。
白石氏(同) リサイクル資源の確保としては現在、ボトルto繊維のマテリアルリサイクルポリエステル繊維として「&+」(アンドプラス)があります。これは消費者の分別・回収への参画を促すポストコンシューマーリサイクルを目指したプロジェクトです。同プロジェクトの一つとして、回収した漁網をケミカルリサイクルした原料を含むナイロン6繊維製品の販売も開始予定です。今後、ナイロン製品の回収拡大も検討しています。ナイロン66繊維に関してはエアバッグ基布の生産工程で発生する端材を樹脂原料としてリサイクルする取り組みも始まっています。
赤江 当社は幅広い用途や取引先に向けて糸・わたを販売していますから、そういった取引先からリサイクル資源を調達することができます。そうやって回収からリサイクルまでの生産プラットフォーム作りを進めています。
――ブランド化も大きなテーマですね。
赤江 まずは消費者の間での認知度を上げる必要があります。そのために、さまざまなイベントへの協賛や協業を実施しています。
白石 例えば「東京マラソン」とタイアップしたプロジェクトとして、大会の給水所などで使用されたPETボトルを回収し、アンドプラスとして原糸にリサイクルし、翌年以降の大会のボランティアウエアへと生まれ変わらせ付加価値を高める取り組みを実施しています。
赤江 繊維CE戦略室の中で1995年~2010年ごろに生まれた「Z世代」で構成するチームも作りました。実際の購買層に近い若い世代が中心となってさまざまなプロモーション企画を作るようにしています。
白石 アンドプラスはこのほど、回収PETボトル由来の再生ポリエステル繊維だけでなく、回収漁網由来のナイロン6繊維にまでラインアップを拡大するリブランディングを実施しました。これにより、お客さまの商品企画の幅が広がり、アンドプラスへの賛同も得やすくなると考えます。
――CEの実現と普及に向けて、その他の課題は何でしょうか。
赤江 トレーサビリティーの確立です。GRS(グローバル・リサイクルド・スタンダード)やRCS(リサイクル・クレーム・スタンダード)など国際認証を取得することでトレーサビリティーを担保することは基本ですが、アンドプラスは独自の識別も可能にしており、より信頼性の高いトレーサビリティーを実現できます。さらにブロックチェーン技術を応用した追跡技術の開発にも取り組んでいます。
そして、やはりどのようにして収益の伴うCEを実現するかが最大の課題です。手法もケミカルリサイクル、マテリアルリサイクル、バイオマス原料などがありますから、これらを組み合わせてどのようなビジネスモデルをバランス良く作っていくかが問われることになります。そのための目標、目指すゴールの形を作っていくことが繊維CE戦略室としての重要な役割になります。
《トピックス/「資源循環への貢献」目指す》
東レが今期からスタートさせた中期経営課題への取り組みでは、最終年度となる25年度にサステナビリティイノベーション事業で売上高1兆6千億円の目標を掲げる。このうち繊維事業が扱うリサイクル素材などを含む「資源循環への貢献」に係る事業や製品も7%を占め、売上収益は“4桁億円”を目指す。計画達成に向けてPETボトル由来の再生ポリエステル繊維「&+」(アンドプラス)に加え、ナイロン6繊維やナイロン66繊維でもリサイクルへの取り組みが本格化する。
〈漁網由来のナイロン6繊維〉
同社が今年から販売を本格的に開始したのが回収した漁網をケミカルリサイクルしたナイロン6繊維。名古屋事業場に専用設備も導入し、年間約400㌧の生産能力を整備した。
独自のケミカルリサイクル技術によって従来は困難だったリサイクルナイロン6繊維による高付加価値糸の生産が可能になった。スポーツ・アウトドア向けの薄地織物やインナー・レッグ向けなどを中心に販売し、産業用途でも自動車部品やロープ、漁網、カーペットなどで普及を目指す。
日東製網とマルハニチログループの大洋エーアンドエフと漁網to漁網リサイクルも始動した。漁網製造時に発生する端材やくずを原料の一部に使用したナイロン原糸を東レが開発し、日東製網が漁網を製造、大洋エーアンドエフが運航する漁船に試験導入している。
〈エアバッグ基布から樹脂製品〉
東レはエアバッグ基布のリサイクルにも取り組む。シリコーンタイプのエアバッグ端材からバージン原料由来の射出成型グレードと同等レベルの流動性、機械物性を持つリサイクルナイロン66樹脂を開発し、リサイクル素材・製品の全社統合ブランドの「エコユース」に「エコユース アミラン」として加えた。
エアバッグは、ナイロン66基布にシリコーン樹脂コーティング品と未加工品があり、未加工品の製造工程で発生した端材のリサイクルは進んでいる。コーティングタイプもシリコーン樹脂の剥離、洗浄が求められ、再資源化事業者のリファインバースが国内初の量産化に成功している。
ただ、剥離、洗浄工程を経て再生された原料でもシリコーン樹脂が少量残存し、物性低下や金型汚れなどを起こす場合があった。今回、東レが特定の添加材を複合することで残存するシリコーン樹脂の成型品の表面への移行を抑制し、こうした問題点を低減することに成功した。
〈「&+」リブランディング〉
東レは、これまで回収PETボトルを繊維原料として再利用する事業ブランドとして展開してきたアンドプラスをリブランディングした。回収対象を多様化し、リサイクル原材料を使った展開商品の種類も増やす。刷新第1弾として回収漁網由来成分を一部使用した再生ナイロン繊維製品をアンドプラスとして23年7月からの販売を開始する予定。
アンドプラスは、消費者がPETボトルの分別・回収に参加し、それを原料に生産された環境配慮型商品を再び購入するというサイクルのストーリーをブランドに位置付けている。今回のリブランディングは「回収ストーリーへ参加を促す」というブランドコンセプトへの共感をさらに深める。
回収材料を漁網や将来的には衣料品にまで拡大し、ポリエステル、ナイロン、さらにアクリル(今後検討予定)に再生する。再生した繊維でアウトドアウエアやレッグウエア、ロープなども作る。独自の「リサイクル識別システム」の導入や第三者証明の活用などでトレーサビリティーを確保し、本物の循環経済の実現に取り組む。