特集 全国テキスタイル産地Ⅰ(9)/今こそ示せ、モノ作りの力/篠原テキスタイル/小橋/クロキ/日本綿布/丸進工業/ワン・エニー/高山リード

2023年07月27日 (木曜日)

〈海外デニム展へ初出展/篠原テキスタイル〉

 篠原テキスタイル(広島県福山市)は海外販路の開拓に力を入れている。

 海外展では、1月から2月にかけてイタリアで開かれた服地見本市「ミラノ・ウニカ」(MU)へ出展。同社が得意とする「テンセル」デニムなど奇麗めな生地の引き合いが多かった。

 今年はさらに10月18、19日にオランダ・アムステルダムで開かれるデニム関連の展示会「キングピン」に初出展する。デニムに特化した海外展への出展は同社にとっては初めての試み。篠原由起社長は「現地の人の声をじかに聞くとともに、当社の生地がどこまで通用するのか見たい」と語る。

 今期(2024年3月期)に入り、受注は堅調に推移する。引き続きセルビッヂデニムは好調で、「冬までオーダーがある」と言う。エアジェット織機で織る生地も「波はあるが悪くはない」と話す。

〈待遇改善で人材確保へ/小橋〉

 撚糸業の小橋(岡山県倉敷市)では、新型コロナウイルス禍で減少していた受注量が回復しつつある。今期(2024年5月期)は設備投資も行いながら安定生産につなげる。

 23年5月期は売上高が前期比30%増となった。「コロナ禍前までに完全には戻っていない」(小橋俊治社長)ものの、利益面も改善が進んできた。ただ、紡績工場の国内生産が縮小してきたことなどが引き続き影響し、原料の入荷が遅延している。

 増えつつある受注に対応するため、人材募集を強化。当初は募集が少なかったが、昨年12月から週休2日制を導入した結果、「応募が来るようになった」。現在は3人が定着するなど、会社の若返りにつながっている。

 設備投資も推進。今月と9月に巻糸の異常監視装置「セレナル」と、糸長の自動管理装置「セレメジャー」を4系列入れ替える。

〈LVMHとパートナーシップ/クロキ〉

 デニム製造のクロキ(岡山県井原市)は今年、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループのグループ会社で、モノ作り産業の成長と活性化を目的とした取り組みを行うLVMHメティエダールと国内初のパートナーシップを結んだ。

 2006年にフランスの国際的な服地見本市「プルミエール・ヴィジョン・パリ」でLVMHと接点を持って以降、ビジネスを継続してきた。今後はデニム生産の“クラフトマンシップ”を継承、発展させることを目指す。黒木立志社長は「モノ作りのレベルを今後も高め続けていかなければならない」と話す。

 同社は新型コロナウイルス禍でも設備投資を推進。レピア織機を30台ほど入れ替えたことで「生産スピードが速くなったことに加え、電気代の削減につながっている」。プロジェクタイル織機も500万円ほどかけて刷新した。

〈海外顧客との関係深耕/日本綿布〉

 日本綿布(岡山県井原市)では、国内外からの受注が堅調だ。今後も海外展への出展に加え、海外顧客を訪問しながら関係を深耕する。

 川井眞治社長は「セルビッヂデニム、ダブル幅のデニム、ジャカード織りなど全般的に良い」と話す。

 海外向けが好調な背景には「円安の恩恵もある」と指摘する。一方、電気や重油などのほか、「依然として糸値が高い」などコスト増が懸念材料となっている。

 今年2月には、フランスで開かれた国際的な服地見本市「プルミエール・ヴィジョン・パリ」に3年ぶりに出展。ブースへの来場は盛況で、オーダーにもつながってきた。今月最終週からはロサンゼルスやサンフランシスコなど、米国西海岸の顧客を訪問し関係性を深める。新型コロナウイルス禍も落ち着く中、川井社長は「アクセルを踏んでいく」と話す。

〈生産量アップ目指す/丸進工業〉

 丸進工業(岡山県倉敷市)は、同社も出資する倉敷帆布(同)で展開する、帆布製品ブランド「倉敷帆布」のブランディングに力を入れる。武鑓篤志社長は「営業面を倉敷帆布に任せ、丸進工業は生産に徹していく」と話す。

 倉敷帆布では同市内に直営店を2店舗持つ。新型コロナウイルス禍の影響を受けたが、観光地の倉敷美観地区内にある店舗は「客足がコロナ禍前の水準に戻ってきた」。今後はSNSなどを使って発信を強化し、ファン層の開拓を進める。

 産地内では1月に老舗帆布工場のタケヤリ(同)が帆布事業を終了するなど厳しい状況が続く。丸進工業では、タケヤリが保有していた重布向けのピカノール織機3台を移設。タケヤリが得意としていた厚地織物の生産にも挑戦しながら「生産量を上げる取り組みをしていく」。

〈生地の開発力で評価/ワン・エニー〉

 ワン・エニー(岡山市)は生地の開発力を強みに、他にはない独自生地の提案で評価を得ている。

 扱う生地はデニム生地がメイン。近年は海外の販路開拓を推進しており、「まいてきた種が芽吹き始めた」(清大輔社長)と言う。

 1940年代に米国陸軍が採用したチノパン、「41カーキ」の色を、オーガニックの茶綿や緑綿をブレンドして紡績した糸で表現した「トゥルーオーガニックコットン」は同社を代表する生地の一つ。

 このほど、シーアイランドコットン(海島綿)の原綿調達や綿糸の卸販売などを行うシーアイランドクラブ(東京都中央区)と近藤紡績所(名古屋市中区)と協業し、超長綿の海島綿を採用したデニムを開発した。海島綿100%のほか、落ち綿とバージンの海島綿を混紡したものなどをそろえる。清社長は「しっかりと取り組める顧客に提案していく」と話す。

〈高山リード/羽密度を変更できる筬開発/ITMA2023で高い関心〉

 高山リード(金沢市)は製織に不可欠なリード(筬〈おさ〉)を製造販売する。高品質と新商品開発に定評があり、6月に出展した繊維機械の国際展「ITMA2023」(イタリア・ミラノ)でも、同社製品は関心を集めた。

 その一つが1羽ごとに密度を自由に変更できる筬。エアジェット織機用、レピア織機用ともそろえる。正確に密度変更できる工法を確立し開発した。どの場所でも自由に筬密度を変えられるため、織り縮みが大きい織物の品質改善やデニムの色差改善に寄与する。経糸の繊度を変えた織物対応やトラブルが起こりやすい部分を広くする使い方もある。

 結び目対応筬「マジックリード」は前回のITMA(19年)でも提案した筬で、特殊な羽形状が特徴。タイイングマシンによる結び目は筬羽の隙間より大きいことが多い。無理に結びを通すと、結び目が切れて結び直しなどの作業が多発する。それを解消できるため、生産性の向上に寄与する。新たに加えたろ過布用など大型レピア織機向け筬は、経糸交換の作業時間が短縮できるため好評という。

 同社は今後も省力化やロス削減などの要望に応えた課題解決型の開発や、新技術による開発の両方に力点を置いて筬開発を進める。