特集 安心・安全(2)/難燃・防炎/需要高まりアイテムも増加/大和紡績/クラボウ/ダイワボウレーヨン/ユニチカトレーディング/カネカ

2023年08月09日 (水曜日)

 燃えにくい性質の難燃素材に加え、難燃剤を付与し燃えにくくした防炎素材の需要は少しずつ増える傾向にある。鉄鋼など火を使う業種では、労働環境の改善によってユニフォームに必ず難燃素材を使う動きが強まっているほか、昨今のアウトドアブームで難燃・防炎素材を使ったアイテムも増加。これからはますます難燃・防炎素材の出番が増えてくる。

〈難燃「ノンブレイズ」本格販売/アウトドア用途へ/大和紡績〉

 大和紡績は、セルロース混難燃生地「ノンブレイズ」の販売を本格化している。24春夏向けにTシャツに採用されるとともに、24秋冬向けでもカジュアルを中心に幾つかの案件が出てきた。堅調なアウトドアブームを受け、販売に力を入れるフッ素フリーの撥水(はっすい)加工や汗染み防止加工などとともに、難燃素材もラインアップに加え、アウトドア関連の市場を深耕する。

 ノンブレイズはセルロース混難燃生地で、ダイワボウレーヨンの練り込みタイプ難燃レーヨン「DFG」とモダクリル、綿の混紡糸を使用。26以上で難燃性があるとされるLOI値では、未洗濯の生地とともに試験洗濯10回後でも26以上の数値を確保し、難燃性を維持する。炭火による火の粉防融試験でも溶融孔なしという結果を得ている。

 モダクリルやレーヨンによって生地の風合いが柔らかく、他の難燃生地にありがちな硬さがあまりないことから、直接肌に触れるようなTシャツへも使うことができる。火の粉による穴が開きにくく、アウトドア用途へも提案しやすい。将来的にはノンブレイズに新たな機能加工を付与し、複合的な機能を持つ素材開発も進める。

 同社は他にもフッ素フリー撥水加工素材「レインペットNW」や、天然由来の撥水剤を使った汗染み防止素材の「リペルーフNW」などの拡販にも取り組む。サステイナブルをキーワードに環境に配慮したモノ作りを意識したアウトドアブランドが増えている中で、新たな販路開拓につなげる。

〈難燃2本柱で販路開拓/中東向け輸出も/クラボウ〉

 クラボウは、綿100%を中心とした後加工難燃「プロバン」と、モダクリル・綿混を中心とした素材難燃「ブレバノ」の2本柱で難燃素材の販路開拓を進めている。プロバンは4月から徳島工場(徳島県阿南市)での量産が始まり、ユニフォーム用途を中心に供給を本格化。ブレバノは中東向けの輸出で少しずつ実績が出てきた。

 プロバンは綿100%素材が中心だが、今後は綿100%ストレッチ「バンジーコットン」や綿・ナイロン混など、さまざまな用途に合わせた素材開発を進める。今年の10、11月に開くユニフォーム素材展で披露を予定する。

 ブレバノは、価格的に高くハイスペックなアラミドほど機能を必要としないものの、難燃を必要とするユーザーのニーズをうまく捉える。特に他の難燃素材には少ないストレッチ素材や、カジュアルへも提案しやすいデニムなどの素材をラインアップ。アラミドに比べ薄い生地でも難燃性を保てる点も訴求できる。

 特に中東向けでは石油関連施設のユニフォーム向けの提案が進む。「アラミドは着心地が良くないが、ブレバノでは通気性があり軽量で着心地の良い生地の提案」が可能で、ユーザーが求めるスペックに合わせたさまざまな素材開発も進めている。

 同社ではサポート一体型ウエア「CBW」を“着るアシストスーツ”としても提案。難燃素材を組み合わせた提案も可能であり、安心・安全を切り口に多面的な提案で新たな販路を掘り起こす

〈米国市場に回復の兆し/難燃レーヨンはアジア重視/ダイワボウレーヨン〉

 シリカ系防炎剤練り込みレーヨン短繊維「FRコロナ」シリーズ、リン系難燃剤練り込みレーヨン短繊維「DFG」をラインアップに持つダイワボウレーヨン。引き続き需要の掘り起こしに取り組む。特に難燃レーヨンは需要拡大が期待できるアジア市場への販売拡大を進める。

 FRコロナは練り込んだシリカ系防炎剤が骨格となり燃焼時に穴が開かないため、炎に対するバリア性を持つ。米国を中心にベッドマットのウレタンを包む防炎材として豊富な実績を持ち、現在は紡績可能な「FRL」が販売の中心だ。

 ただ、2022年後半から米国では金利上昇の影響で住宅着工数が減少。このためベッドマット向けが主力のFRコロナの販売も鈍化した。23年4月以降は徐々に荷動きが回復の兆しを見せている。同国では重金属規制が強化されており、アンチモンを含む防炎剤を使った防炎素材からシリカ系防炎剤を使うFRLへの切り替えが進む。こうした背景を受け、新規案件の獲得に取り組む。

 一方、難燃レーヨンのDFGは好調が続く。特にアジア諸国でも労働現場での安全意識が高まり、難燃作業服の着用が徐々に普及していることで需要が拡大した。中国の国家規格が後加工難燃を認めなくなったことも市況の追い風となる。このためアジア市場を重視し、インドや台湾などへの提案に力を入れる。

〈幅広い用途で採用/国内で年10%成長を/ユニチカトレーディング〉

 ユニチカトレーディングは、高機能差別化素材「プロテクサ」シリーズの提案を継続強化している。工場作業服やアウトドアウエア、警備服、消防関連をはじめとする幅広い用途で販売を着実に増やしていく方針で、国内では毎年10%の成長を目指す。海外市場での拡販も進める。

 溶接現場の作業服などに使われている難燃素材が「プロテクサ―FR」だ。「アラミド繊維とプロバン加工を施した綿の中間に位置」する素材で、後染めが可能な点やナイロン調の柔らかな風合いなどが持ち味。こうした特性から作業服だけでなく、アウトドア分野での採用も増えている。

 高視認性素材の「プロテクサ―HV」は、昨年に警備服に採用されるなど、販路が広がりを見せる。感染防護衣素材の「プロテクサ―PS」はメディカル関連のディスポーザル用途に加え、「リユースできる防護衣用素材として訴求を強化」したいとしている。

 そのプロテクサ―PSでは、ポリエステルのニット生地にポリウレタンコーティングを施して伸縮性や軽さ、着用快適性(暑さ対策)を加味したタイプを投入。消防吏員用感染防止衣の実用化に向けて実装試験を繰り返しながら改善・改良を重ねている。

 シリーズ全体の取り組みとして、顧客との連携を深耕するほか、環境対応にも力を入れる。

〈高難燃グレードが拡大/27年までに21年比倍増/カネカ〉

 カネカが販売している「カネカロン」は、しなやかな触感や染色性などに優れる自己消火性の難燃モダクリル繊維だ。その高難燃グレードである「プロテックス」は、さまざまな繊維と組み合わせて使用できるのが強みで、難燃作業服用途を中心に販売が拡大している。2027年までに販売量を21年の倍に増やす。

 プロテックスは、繊維樹脂そのものが難燃性を持つ素材難燃繊維。このため、洗濯などによって難燃性が衰えたり、消失したりしないのが特徴だ。燃えると溶融せずに炭化する炭化型難燃繊維であるため、炭化部分が延焼を防ぎ、溶けて皮膚に付着することもない。比較的燃えやすい繊維との組み合わせでも消火難燃効果を発揮する。

 展開は順調に推移し、販売規模は15年から21年で2倍以上に成長した。難燃作業服は新興国などで需要が増加していることから世界市場が年率で4、5%拡大しているといわれており、27年までに21年の倍の販売量を目指す。成長に向けて新しい用途についても探索する。

 今後は環境対応型へのシフトが課題の一つと捉える。使用する難燃剤を環境負荷の低いタイプに切り替えていくほか、リサイクルにも目を向けている。リサイクルについては、技術的なアプローチと回収プラットフォーム構築の同時並行で推進していく。