ごえんぼう

2023年08月10日 (木曜日)

 大叔父は南方戦線で戦死した。遺骨は戻っていない。遺品もない。届いたのは戦死公報のみだった。いわゆる紙切れ一枚である▼本当に戦死なのかは分からない。病死、もしくは餓死した可能性もある。弾薬や兵糧が切れた南方は想像を絶する惨状だった。民間人が召集され、最前線に駆り出された心情を思うと胸が張り裂けそうになる▼「何かの間違いだ」。現実を受け入れられない筆者の祖母は、新聞に載る帰還兵の名前を毎日食い入るように見ていた。しかし弟の名前が記載されることはなかった▼8月15日は終戦記念日。先の戦争から78年、記念日と思ったことは一度もない。大叔父の軍服を着た写真が残っている。優しそうな表情だ。そして毎年思い出すのは祖母の悲嘆な言葉である。「私よりも戦死した本人が一番悔しいはず」。安否が分からない不安とやり場のない怒り。祖母は鬼籍に入ったが、哀傷な表情が忘れられない。