Topインタビュー/東レ 社長 大矢 光雄 氏/価値創出力を強化/収益力の高い企業へ

2023年08月29日 (火曜日)

 東レは、大矢光雄社長の下で中期経営課題「プロジェクト AP-G 2025」を推進している。前中経は、事業利益で計画との隔たりが大きく、大矢社長は「変化を捉えて収益力の高い企業にすることが課せられたミッション」と強調する。原燃料高によるコストアップ分の価格への転嫁や前中経までに投資した設備の稼働などを着実に進め、ミッションの達成につなげる。繊維事業については従来と比べると“抑えた”拡大計画になっているが、「テキスタイルビジネスを中心に伸ばす余地がある」との認識を示す。

――6月27日付で社長に就任しました。抱負を改めて。

 東レは、非常に幅広い領域で事業を行っていますが、経営や事業を取り巻く環境は大きく変化していると言えます。その変化の中でキーワードになっているのが「サステイナビリティー」や「デジタル」です。当社には、サステイナビリティーやデジタルの分野に貢献できる商材が豊富にあり、その提案がポイントでしょう。

 ただ、繰り返しになりますが、事業環境は変化し、これまでと同じ売り方では難しい。新しい商売の在り方や商流に対応しながら拡販を図り、収益率の高い会社に発展させます。それが自分に課されたミッションです。人も重要です。社員全員がワクワク感や充実感を持てる会社にし、それによって生産性を高めて収益性の改善に結び付けます。

 元々東レは自由闊達(かったつ)な気風の会社です。それが連綿と受け継がれてきましたが、足元では感染症やウクライナ情勢など事業環境が不透明な中、自助努力による改善に大きな比重が置かれてきました。この取り組みは継続しながら、今後は社員の目がもっと外に向かう仕掛けもしていきたいと思っています。

――自由闊達ということですが、ボトムアップの土壌はあるのですか。

 トップダウンとボトムアップにはそれぞれ良さがあり、場面に応じてその両方で取り組みを進めれば良いと考えています。当社には、ボトムアップがうまくいったケースも多く、私自身が経験した成功事例もあります。

 今から約20年前、合成繊維の商況が厳しかったころに、課長層による新しい商材やビジネスモデルを生むための小集団活動をスタートしました。当時、紳士肌着は天然繊維が主体だったのですが、機能性を付与することで合繊のメンズインナーという新市場を作ると同時に、その後の発熱保温インナーの浸透につなげることができました。

 「自分たちが率先して新しいことに挑戦しよう」というボトムアップ精神は今の若い世代にも継承されています。例えば、繊維リサイクルの事業ブランド「&+」(アンドプラス)では、Z世代の社員が主体となって、ウェブサイトを活用したブランディングに取り組んでいます。会社としても若手の活動を支援していきます。

――人材はもちろんだと思いますが、そのほかで東レの強みは。

 長年にわたり蓄積された研究開発力が大きな強みであると考えています。研究開発の成果を高品質な製品にして安定的に供給する生産エンジニアリング力も強みです。欧州や米国、中国をはじめとする世界に出口(市場)を持っていることも優位点と言えます。

 東レは、革新技術や先端素材の「引き出し」が豊富にあり、ゼロから1を作ることは得意です。この1の商いを、10、100にスピード感を持って拡大することが重要です。これまで培ってきたグローバルな営業オペレーション力を一層磨き、お客さまへの提供価値の最大化を図ることで、さらに強い東レになれると考えています。

――それらを踏まえた上で、経営に関する基本的な考え方は。

 「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」で示す2050年に目指す姿の実現に向け、長期経営ビジョン「東レビジョン2030」を掲げています。この大きな流れは変えることなく、30年度の数値目標達成を目指します。同時に産業の潮流の変化を的確に捉え、ビジネスモデルの変革を進めながら持続的かつ健全な成長を実現します。

 これが基本的な考え方になりますが、やはり収益性の改善に力を入れたいと思っています。前中経では、グリーンイノベーション事業とライフイノベーション事業が拡大するなど、売上収益については一定の成果を残しました。事業利益が目標値から大きく離れてしまったのが反省点です。

――事業利益が未達になった理由をどのように分析していますか。

 原燃料価格をはじめとする各種コストの上昇が響きました。また、投資した設備の稼働が新型コロナウイルス禍によって高まらず、生産・販売数量が想定通りではなかったことも事業利益が拡大できなかった要因でした。

 AP-G 2025では、前中経で投資を終えた設備を安定かつ確実に稼働して販売数量の拡大を図り、次の成長に向けた設備投資も着実に実行します。電気料金の上昇などコストアップの影響は今も続いていますので、引き続き販売価格への転嫁を進めるとともに、製品の価値を適切に価格に反映する戦略的プライシングにも取り組みます。

――繊維事業についてはいかがですか。

 25年度に売上収益1兆300億円と事業利益640億円という目標を掲げています。中経発表時に「手堅い計画」といった声もありましたが、既存品の環境対応への置き換えで数量の伸びは限定的になるという側面を考慮しています。

 幅広い事業の中には、既存の資産だけでは利益を生まなくなっている分野もありますので、それらのリエンジニアリングは必要でしょう。

――繊維事業の成長のための施策については。

 テキスタイルの拡大がポイントになると考えています。既に組織を一部改編し、輸出の強化に取り組んでいます。衣料用途は高付加価値化で存在感を高めていきます。エアバッグ用基布はインドやメキシコなどで需要が拡大しています。継続的に能力増強を進めていますが、次の中経では増設の検討も必要になると考えています。

 国内外のアパレル市場は、コロナ禍の鎮静化を受けた動きが一巡したという向きもありますが、少し違うと思っています。サプライチェーンの在庫が調整局面に入っていることが主な要因であり、最終消費が極端に落ちているという感覚はありません。

 このため、調整が進めば、いろいろなモノが一気に動きだすのではないかと予想しています。

――北陸産地をどうみていますか。

 電気料金の値上げなどもあって厳しい状況と言えます。生産キャパシティー維持のため適正な加工料金を支払い、北陸で生産した生地を適正な価格で顧客に販売します。こうした取り組みによってチェーン全体で利益を確保できるようにしたいと思っています。

 おおや・みつお 1980年東レ入社。長繊維事業部長、インドネシア・トーレ・シンセティクス社副社長などを経て、2009年産業資材・衣料素材事業部門長、12年取締役繊維事業本部副本部長、13年取締役繊維事業本部副本部長テキスタイル事業部門長。14年東レインターナショナル社長、16年東レ専務取締役繊維事業本部長、20年代表取締役副社長執行役員、22年代表取締役副社長執行役員営業全般担当。23年6月に代表取締役社長就任。67歳。