特集 高性能繊維/活躍の場広がり成長に期待/東レ・デュポン/クラレ/テイジン・アラミド/東洋紡エムシー
2023年09月08日 (金曜日)
幅広い用途に用いられている高性能繊維。新型コロナウイルス禍が落ち着き、需要はおおむね回復基調にある。中には感染症で市場が拡大した用途もある。安心・安全や防災、サステイナビリティーへの意識の高まりは高性能繊維にとって追い風と言え、活躍の場の広がりで成長が期待されている。
〈東レ・デュポン/安心・安全切り口に拡販/薄手の耐切創性手袋も〉
パラ系アラミド繊維「ケブラー」を展開している東レ・デュポンは、「安心・安全」を切り口に販売拡大を図っている。その中心になるのが耐切創性手袋で、企業の意識の高まりから需要は今後も確実に増えるとみる。クリーンルーム用に、薄さと低発塵(じん)性、耐切創性を兼ね備えたタイプも開発した。
ケブラーは、高強度、耐切創性、耐衝撃性などの特徴を持ち、産業資材や自動車関連、防護衣料といった用途に用いられている。需要はコロナ禍で一時的に落ち込んだが、国内市場は今後年率5%前後で成長すると予想され、同社も既存用途の継続強化と拡大が期待できる用途への提案に力を入れる。
既存用途では、自動車関連(タイヤコード、ブレーキパッドなど)や産業資材分野の需要を確実に取り込んでいく。拡大が期待できるとするのは、安心・安全や防災をキーワードにした用途で、各種工場で使用する耐切創性手袋、構造物補強、ジオテキスタイルなどに目を向けている。
耐切創性手袋では、自動車工場や鉄鋼・製鉄工場で使用するタイプに加え、精密機器などを製造するクリーンルームで着用可能な低発塵タイプを打ち出している。紡績糸ではなく、長繊維とポリウレタン弾性繊維を撚り合わせたストレッチ性のある糸を用いて低発塵性と柔軟性を付与した。
新製品では、薄さと低発塵性、耐切創性を兼ね備えるタイプを開発。金属繊維と組み合わせることで、18ゲージというハイゲージ(13、15ゲージが一般的)で編み立てているにもかかわらず、耐切創性レベルEを実現した。着用感と使用感、性能から興味を持つ顧客は多い。
今期(2024年3月期)は前期比増収増益を計画し、中期的な目標に向かって前進する。
〈クラレ/ベクトラン20%増産へ/浮体式風力発電に期待〉
クラレは高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」の生産能力を現行比約20%引き上げる。年内には稟議を上げて承認を得る計画で、2025年から増能力分を稼働させたい意向だ。
ベクトランは低吸湿性、寸法安定性、耐摩耗性などの特徴を持つ高性能繊維で、年産1千トンの生産能力を持つ。各種ロープやスリングベルトなど向けの太繊度糸、FRP向け細繊度糸使い織物をはじめとする加工品の販売が好調に推移する。
輸出比率も高いことから23年12月期は円安も寄与し、増収増益を達成できる見通しにある。販売量も拡大しており、需要増に応えるため、ボトルネックの解消などにより増能力を行うことにした。
特に細繊度糸の需要が拡大する。細繊度糸による加工品では、先ごろゴルフシャフト製造のグラファイトデザインがベクトランを採用した新商品を発売している。
増能力の対応や26年以降の事業拡大に向けて新用途の開拓にも力を入れる。その一つが浮体式洋上風力発電設備の係留索だ。
浮体式洋上発電設備の係留索はチェーン、ワイヤーロープなどが現在の主力だが、ベクトランの特徴である低吸湿性(水を吸わない)、低クリープ性(伸びない)などの特性が生きる分野として、ベクトラン100%だけでなく、ワイヤーロープなど他材料と複合化も含めた係留索の需要増に期待。同分野でのマーケティング活動を活発化させる。
さらに欧州では陸上の風力発電設備にスリングベルトを常備する場合が多いことから同分野向けの開拓にも力を入れる。
同社はベクトランで培った高温化による溶融紡糸技術を生かして、さまざまなエンジニアリングプラスチックの繊維化にも取り組む。
〈テイジン・アラミド/収益性の向上図る/自社製品の100%循環目標〉
テイジン・アラミド(オランダ)は、帝人グループにおけるアラミド事業の中核会社として、アラミド繊維製品を製造・販売する。パラ系アラミド繊維ではリーディングカンパニーとして、引き続きポジション維持に努める。2040年までに自社アラミド製品を100%循環できるようにするという目標も立てている。
同社の昨年度の収益性は、物流の混乱や欧州における高インフレ、特に原材料価格やエネルギー価格が大幅に高騰するなど、外的要因で厳しい状況だった。ただ、この数カ月間は物流や原材料・エネルギー価格が正常な状態に戻りつつあり、生産能力増強による効果を生かし、収益性の向上を図っていく。
今後も新規用途はもちろん、既存用途についても積極的に市場開拓を進める。パラ系アラミド繊維「トワロン」は、幅広い特性を持ち、既にさまざまな用途に向けた展開が進んでいる。同じパラ系の「テクノーラ」は耐薬品性といった特定の物質における高い要求などに応える。
具体的には、航空宇宙や石油・ガス堀削、整備が進みつつある水素経済関連といった用途に焦点を置いている。テクノーラと同等の性能を持つ素材は「業界でも他にない」とし、そうした独自性を販売拡大につなげる。
メタ系アラミド繊維「コーネックス」は、優れた難燃特性を持つ。昨年、タイ工場で多色対応を容易にする生産体制を整え、防護衣料市場向けに多色性と色落ちしない性能を兼ね備えた素材が提案できるようになった。
自社アラミド製品の100%循環という目標については、樹脂やゴムといった別の素材との複合も多く、容易に実現できる目標ではないとの認識を示す。その上で「可能な限りそれを達成すべく尽力する」とした。
〈東洋紡エムシー/3素材とも新用途開拓/「ツヌーガ」原着糸期待〉
東洋紡エムシーは高性能繊維事業を収益強化事業と位置付け「販売拡大による稼働率の向上と高付加価値品へのシフトで収益拡大を目指す」。その一環で新用途開拓に取り組む。
同社は高強力ポリエチレン繊維「ツヌーガ」「イザナス」、PBO繊維「ザイロン」の3タイプの高性能繊維を製造販売する。
ツヌーガ(年産2千トン)は全販売量の85%が耐切創手袋向け。耐切創手袋は生産地が中国から東南アジアへシフトする傾向にあるため、その対応を進める。
同時に溶融紡糸のツヌーガは溶剤ゲル紡糸の他の高強力ポリエチレン繊維に比べ二酸化炭素の排出量が少ない点の訴求も強める。
接触冷感性を生かした寝装・寝具向けに加え、その他用途の開拓にも取り組む。
原着糸によるアウトドア用途も狙う。黒、グレー、ブラウン3色の原着糸をそろえ米国のアウトドアブランド向けで試作が進む。2024年度からの本格化に期待する。
イザナス(年産1千トン)はフル稼働中のため、増設の検討に入った。タンカーなどの係留索や釣り糸など主力用途が好調で、需要に応え切れない状態にあるという。
新用途では建築土木資材の本格化に期待する。アラミド繊維に比べアルカリに強く、炭素繊維と比較して曲げに強い特徴を生かし、試験施工では高評価を得ている。24年度に本格販売を目指す。洋上発電用の係留索の開拓にも力を入れる。
ザイロン(年産200トン)はゴム補強や欧州の建築資材向けが苦戦するが、自転車用チューブレスタイヤ向けに期待する。チューブレスタイヤの規格変更が進んでおり、決定すれば弾性率が高いザイロンの採用増が見込める。日本国内では建築土木資材の開拓も進める。