特集 アジアの繊維産業(6)/インドネシア編/“脱・中国”で優位性高まる/製販両面で潜在力発揮/日清紡グループ/東洋紡グループ/ユニチカグループ/東レグループ

2023年09月27日 (水曜日)

 直近3年間で中国生産のリスクがあぶり出され、“脱・中国”の流れが強まった。中国を補う生産地として近年、注目を集めているのがインドネシアだ。日系企業が同国で汎用素材を作る時代は終わり、高付加価値商材の開発が進む。販路も対日、内販、中東、第三国と多様になり、製販両面でこの国の潜在力が発揮され始めている。

〈取り巻く環境厳しく〉

 インドネシア経済は2020年に新型コロナウイルスの流行で1998年のアジア通貨危機以来、初めてGDP成長率がマイナスとなった。しかし、翌21年は3・69%とプラスに転じ、同年第4四半期(10~12月)以降、23年第2四半期まで7期連続で5%を超える成長率が続く。景気の指数となる自動車販売台数も昨年に続き100万台超えが確実な情勢で、経済は安定した成長軌道にある。

 現在、暮らしや企業活動で感染症による制限はほとんどなくなっており、商業施設や生産工場ではコロナ禍以前の風景を取り戻しつつある。だが、そんな状況とは裏腹に日系繊維企業の商況は難しい局面にあるようだ。8~9月上旬にオンラインやアンケート形式で複数の日系繊維企業に直近の商況を聞いたところ、23年の業績は横ばい、もしくは昨年より厳しい状況という企業が多かった。大幅に業績伸ばしているのは少数で、伸びていても微増にとどまるというケースが多い。

 減収傾向や増収幅が少ない企業の多くは日本向けのスポーツ地、対日企業ユニフォーム地、あるいは現地の低価格ゾーンのアパレル向けを主力としているケースが多く、そうしたカテゴリーの市況の悪さがうかがえる。さらに打撃となっているのが昨年12月にインドネシア政府がセーフガードを解除したのを機に、激増した中国からの安い繊維商材の流入だ。

 汎用的なわたや定番シャツ地やカジュアルに使われるポリエステル綿混生地など特徴が少ない量産タイプの素材は軒並みこうした流入品にシェアを奪われている。ここへの対応も差し迫った課題となっている。

 成長を続けるインドネシア経済の裏で難しい舵取りを迫られる日系繊維企業。今後、成長の鍵となるのは日系ならではの高品質のモノ作りや独自性の高い機能繊維の生産ノウハウだ。強みを生かした商材を現地で作り、伸びる市場をターゲットに売り込むことができるかが重要になってくる。

〈日清紡グループ/購買力ある海外市場へ〉

 日清紡グループは紡績から織布、染色加工、縫製まで現地で一貫生産できることを強みにアジア、中東、欧米など海外での販売量を増やす。インドネシアのグループ企業は紡織のニカワテキスタイル、織布・染色加工の日清紡インドネシア、縫製のナイガイシャツインドネシアの3社。

 現在、インドネシア生産品のうち8割が日本向けで残りがインドネシア国内を含む海外向け。ゆくゆくは日本と海外で5割ずつを目指す。少子高齢化で日本市場での成長が鈍化すると予想し、機能性などで独自性のある生地で購買力のある海外市場を攻める戦略をとる。

 そのための素材の開発、高付加価値生地の増産に向けた投資も進める。日清紡インドネシアに8月、日本の製造拠点から液流加工機を移設し加工量可能数量をこれまでの2倍に引き上げた。ニカワテキスタイルには渦流紡績機2台を増設、9月から稼働している。

 環境意識の高い欧米市場への供給量拡大をにらみ、環境配慮素材や生産プロセス、従業員の待遇、労働環境でも国際認証を取得し、生産物の価値だけでなく工場の自体の付加価値化も進める。

〈東洋紡グループ/生地を軸に業容拡大へ〉

 インドネシア東洋紡グループでニット地製造と染色加工を手掛ける東洋紡マニュファクチャリング・インドネシア(TMI)は、7月上旬にシルケット加工機1台を更新した。用途はニットシャツ地向け。既に本生産のラインで稼働している。

 インドネシア東洋紡グループは繊維事業でこれまで丸編みのニットシャツ地の販売数量を順調に増やしてきた。ところが近年、低価格のトリコット地との競争が激化し、前期(2023年3月期)の販売数量はやや伸び悩んだ。

 一方、インドネシア国内では前期もニットシャツ地でシェアを好調に伸ばし、日本やそれ以外の海外市場で今後も、東洋紡グループの丸編みならではの付加価値をアピールすることで拡大を目指す。今回のシルケット加工機の更新はそのための布石でもある。

 インドネシアの東洋紡グループは販売・事業統括の東洋紡インドネシア、TMI、縫製のSTGの3社。3社の社長を兼任する松村修氏は「インドネシアの生産地としての位置付けは高まっている」とし、「質が高く、機能や納期でも優位性を発揮できる、生地を軸に業容拡大を目指したい」と話す。

〈ユニチカグループ/対日で多彩な生地提案〉

 ユニチカトレーディングインドネシア(UTID)は、日本向けで提案する生地のバリエーションを増やす。生地売りに加え現地で縫製までする提案も視野に入れる。そのための現地でのサプライチェーンの確立を急ぐ。

 対日服地販売の売上高は現在、UTID全体の3割弱でスポーツウエア用途が大半を占める。これからインドネシア国内で調達できる生地の種類を増やし、ゆくゆくは対日を全体の5割程度にまで引き上げる。現在の主力はインドネシア国内アパレル向けの薄地織物で同社の売上高の7割程度。用途は企業ユニフォームやドレスシャツ。

 UTIDは日本市場向けに、従来のスポーツウエア用途に加え、今後は企業用ユニフォーム、カジュアル、レディースアパレル向けの素材の開発、提案を強める。

 日本向けで開発・販売する生地は機能や環境問題への貢献を考えた原料を使ったものなどさまざまな付加価値を持つものが主役となる。

 同じインドネシアのユニチカグループの紡績工場、ユニテックスが糸の安定供給と開発でサポートする。機能糸「パルパー」をはじめ原糸、加工、織りや編みの技術によりイージーケア性、高ストレッチ性、工業洗濯対応といったニーズの高い機能性テキスタイルをインドネシアから供給できるようにする。

〈東海染工のTTI/綿以外の需要も獲得へ〉

 東海染工グループで綿生地のプリントや加工を主力とするトーカイ・テクスプリント・インドネシア(TTI)は綿100%以外の素材の加工にも力を入れる。同社の売上高の7~8割は現地企業によるもので、ファッション衣料向けの生地加工量が多い。

 上半期(2023年1~6月)の月次加工数量は250~300ヤードと昨年よりも低調なため、得意の綿に加え、綿・ポリエステル混、綿・レーヨン混、綿・テンセル混、レーヨン100%といった生地の加工需要も取り込んで加工数量を増やす方針。カセイソーダや加工薬剤など原材料の高騰が続く中、一定数量を安定的に加工することで操業を安定させる。下半期は新たなプリントや加工需要を開拓するために新たな顧客、取引先の開拓に力を入れる。

 TTIの本田忠敏社長は「中国製プリント地が現地で安く調達できることや中国製の縫製品(衣料)の流通量も増えていることが、プリントのニーズと生地需要そのものも減らしている」と話す。

〈東レグループ/連携強め生産高度化図る〉

 インドネシア東レグループの2023年上半期(4~9月)の業績は売上高、利益ともに前年同期並みとなりそうだ。ただ、今期は継続して厳しい経営環境が続いており8、9月も商況は好転しておらず、下半期も予断を許さない状況が続きそうだ。

 とりわけ、22年12月、インドネシア政府がセーフガードを解除したことに伴い、糸、生地など多岐にわたる素材で中国製の安価な商材がインドネシアに流入したことが、東レグループのビジネスを難しくした。“捨て売り”ともみられる中国品の低価格品を前に競り負けるケースもあったようだ。

 合繊糸・わた製造のインドネシア・トーレ・シンセティクス、ポリエステル綿混の定番シャツ地メーカー、イースタンテックス、ポリエステル綿混服地メーカーのセンチュリー・テキスタイル・インダストリーはいずれも中国からの流入品に一定量のシェアを奪われた。

 一方で、東レならではの価値を取引先にアピールできたグループ企業や、中東など需要の拡大期にある市場に向けた商材に関しては、昨年上半期を上回る堅調な業績で推移している。

 アクリル紡績のアクリル・テキスタイル・ミルズの靴下を主な用途とするアクリル・ウール混糸や、ポリエステル・レーヨン素材メーカーのインドネシア・シンセティック・テキスタイル・ミルズの中東民族衣装地、アフリカ学童用制服地、それ以外に東レグループの不織布関連事業も衛生材の現地需要を取り込み堅調だ。

 塩村和彦在インドネシア国東レ代表は中国品の流入について「中国の不景気と無関係ではなく、中国で売れずに余ったものが東南アジア市場を席巻している」との見方を示し、「今後、そうしたものとは一線を画す生産の高度化と新たな商流開拓にグループで連携しながら取り組む」方針。

〈メルテックス/数量コロナ禍前の水準に〉

 シキボウグループの紡織加工場、メルテックスの生産数量がコロナ禍以前の水準に戻りつつある。吉原朋宏社長は「2019年比で9割程度まで回復してきている」とし「24年には19年超えも視野に入る」と話す。

 同社は糸・生地の販売を主力とし、売上高の構成比率はこれまで日本向けが60%、40%が中東への民族衣装用生地輸出、インドネシアでの糸・生地内販など。

 ところが、最近は主力のユニフォーム地の対日ビジネスで苦戦が続き、対日以外での成長を模索している。タオルなど織物に使う糸売りでもベトナム糸との価格競争で対日が苦戦中。インドネシア国内の衣料品用途やベトナムでのメディカル資材用途に伸び代を求める。

 生地販売は中東向けが好調で、同社の織物の売上高の60%近くを占めるまでに成長した。さらに中東向けを伸ばす方針。インドネシアのユニフォーム地や日本向けでは日系生地商社経由でレディースやカジュアル分野でも商機を探る。