ジーンズ別冊23AW(6)/Top Interview/デニム関連有力企業トップに聞く/カイハラ/篠原テキスタイル/フーヴァル/ドクターデニムホンザワ/コダマコーポレーションタカヤ商事
2023年09月28日 (木曜日)
新型コロナウイルス禍も落ち着き、経済活動が正常化する中、消費活動も回復に向かっている。各種コスト増など厳しい環境は継続するが、デニム関連企業各社はさらなる成長に向けたアクションを起こしている。デニム製造や洗い加工、ジーンズメーカー、商品プロデューサーなど、ジーンズ業界内における経営陣へ、今後注力する取り組みや事業の展望などについて聞いた。
〈カイハラ/執行役員 営業本部長 営業部長 稲垣 博章 氏/10月に東京で初の展示会〉
工場の稼働状況は、タイ工場が7月ごろからフル稼働、国内工場は7割ほどの稼働状況です。一般消費者層にまで落としてみると、ジーンズの売れ行きはあまり良くないと感じます。米国を中心とする輸出もインフレなどの影響から、昨秋から鈍化傾向が続くなど、既存のビジネスの回復にはもう少し時間がかかりそうです。一方、新規商材が決まってきたほか、先月に中国からの団体旅行が復活するなどインバウンド需要も戻りつつあり、回復の条件はそろってきています。
当社としては今後、従来のジーンズ、カジュアル以外の分野の開拓を推進していきます。アウトドアやスポーツブランド向けなどに加え、婦人向けも開拓していく予定です。当社は中肉厚地の生地が得意ですが、細番手の糸使いの薄く軽い生地の開発を進めていきます。このほか、ユニフォーム向けで企業納入なども視野に、製品にまで踏み込んだ提案を進めています。“カイハラデニム”に共感してもらえる先とともにワークウエアを作っていきたいですね。
昨年からは三備産地を中心に糸売りも本格化させています。織りまでできるというスタンスで提案しており、それなりに結果が出てきました。今後は三備以外の産地へも提案を広げ、受注につなげていきます。
新たな取り組みとして10月16日から2週間、東京オフィス(東京都渋谷区)で初の展示会を開きます。毎回素材ごとにテーマを決め、年2~3回ほど定期的に開いていきたい。当社の生地の魅力を知ってもらうとともに、来場客としっかり話ができればと思っています。生産に携わる社員にも参加してもらい、顧客からの声をダイレクトに聞くようなことも考えています。
〈篠原テキスタイル/社長 篠原 由起 氏/海外デニム展へ初出展〉
今期(2024年3月期)に入り、受注量は前年並みで推移しています。受託生産、自販ともに受注は堅調です。特にシャトル織機で織るセルビッヂデニムはフル稼働の状況が続いています。エアージェット織機は、10、11月まで仕事が埋まっていますが、その先は少し静かな印象です。
シルクやカシミヤ、ウールなどを使った光沢感、高級感のある生地のほか、ドビー織りなど、少し変わった生地も動いています。
下半期以降、展示会へ出展し、PRしていきます。特に海外への販路開拓に力を入れます。10月18、19日にオランダ・アムステルダムで開かれるデニム関連の展示会、「キングピン」に出展します。
海外展ではこれまでにイタリアの国際的な服地見本市「ミラノ・ウニカ」に出展してきましたが、デニムがテーマの海外展に出展するのは今回が初めてのことです。当社の生地がどこまで通用するのか、現地に行って確かめてみたいです。
キングピン出展へ向け、生地の開発も進めています。このほど、デニム生地にエンブロイダリーレース刺しゅう機を使って、和風の刺し子風刺しゅうを施した「刺し子刺しゅうデニム」を開発しました。現在、さまざまな柄をテスト中です。このほか、“デニムど真ん中”ではない、変わった生地の開発を進めています。デニムの可能性を探ってもらえるような展示にしたいと考えています。
国内では今月、東京ビッグサイトで開かれた「東京インターナショナル・ギフト・ショー秋2023」へ出展し、生地とともに、当社のオリジナル雑貨ブランド「SHINOTEX」(シノテックス)をアピールしました。
〈フーヴァル/社長 石橋 秀次 氏/縫製部門の充実〉
今上半期(2023年1~6月)の売上高は前年同期比5、6%増となりました。昨今のデニムトレンドを背景に、ジーンズ加工の受注が堅調でした。加工の仕事は途切れることなくあり、外注工場にもお願いしている状況です。1980~90年代の古着風の加工が引き続き多い印象で、この傾向は当分続くのではないでしょうか。
新型コロナウイルス禍の影響を受けた、ジーンズカジュアルブランド「BLUE SAKURA」(ブルーサクラ)など自社製品事業は販売が回復してきました。岡山県倉敷市の観光地、倉敷美観地区内にある店舗と、児島ジーンズストリート(倉敷市)の直営店への来店客数はコロナ禍前よりも増えています。東京に2チーム設けていたOEMチームのうち、収益の出にくかった1チームを解散するなど、収益面の改善も図ってきました。
下半期は、縫製部隊を強化していきます。当社は2020年に縫製拠点の「フーヴァルベース」を児島地域に設立しました。人材育成や管理に力を入れながら、ほぼ素人で始めた工場ながらも技術力が上がってきました。現在スタッフは14人で、月に1200本を生産しています。
今後は縫製キャパシティーを広げていこうと考えています。スタッフは全員日本人ですが、外国人技能実習生の採用も視野に入れながら、人材を増やして生産能力の向上につなげていきます。
“メード・イン・ジャパン”を残していくためには縫製工場は必須です。今は5ポケットのジーンズならこの値段というように加工料が決まってしまっていますが、これを打ち崩していくことも必要だと思います。取引先とお互いにもうけることのできる仕組みを作っていかなければなりません。
〈ドクターデニムホンザワ/代表 本澤 裕治 氏/ブームで終わらせない〉
業界全体では、ビンテージ調のジーンズや付加価値のある高価格帯ジーンズが好調に推移しています。ファッション性を重視した廉価なジーンズも堅調で、若年層が後加工やプリントを施したタイプを購入しています。
私が監修するブランド「レッドカード・トーキョー」も売り上げが回復し、新型コロナウイルス禍前の商況に戻ってきました。婦人用の売れ筋は太いシルエットで、今秋冬シーズンも期待したい。直近では、ストレッチ混よりもコットン100%のデニム生地が好まれます。これもビンテージ調がトレンドに浮上したことが要因と思われます。
ただ、マスマーケット向けの商材で買い替え需要が鈍く、このあたりにジーンズ業界の課題がありそうです。通常の5ポケットジーンズも大事な商材ですが、ジャケットやシャツなどデニム生地を使ったアイテムで、キャリア層やミドル層に訴求したい。一部のブランドで開発を進めており、売り場を含めた新しい提案を行う予定です。
ファッションという観点では、1990年代後半に流行したダメージ加工やスタッズを付けたジーンズが再び脚光を浴びています。実際に若年層はこうしたジーンズを購入していますが、ブームとは違う需要を喚起したい。ジーンズの各メーカーやブランドは若年層向けのMDを組んでおり、ミドル層の需要喚起は難しい側面もあります。しかし、軽量なデニム生地の採用やミドル層向けのシルエットを提案することで、買い替え需要を掘り起こすことも可能だと思います。前述したジャケットやシャツのほか、24春夏には、カジュアルメーカーと協業した新ブランドを展開します。
〈コダマコーポレーション/社長 畠山 直秀 氏/価格競争力を強化〉
2023年7月期は、専門店への販路拡大や価格据え置きなどの積極策が奏功し、売上高が前期比20%増の27億2千万円でした。利益面は、急激な円安による為替差損もあり苦戦しました。新型コロナウイルス禍の影響によるロックダウン(都市封鎖)で納期遅延し販売機会を失った在庫を7月に処分したため減益です。23年7月期は腹をくくって膿を出しました。
今期は、東南・南アジアでの生産比率を引き上げ、生産原価を1円でも安くしていきます。カンボジアやミャンマー、バングラデシュ、インドなどで生産し、価格競争力を高めていきます。現在30%程度の東南・南アジアでの生産比率を50%程度まで高めることを目指しています。
先日、4年ぶりにカンボジアを訪問しました。欧米の受注が減った影響でキャパシティーに余裕があり、生産拡大の好機とみています。中国依存が高い場合のカントリーリスクなどを踏まえ、東南・南アジアでも、中国のような供給網の構築を急ぎます。
このほどカンボジアで「Hanes」(ヘインズ)の工場承認を取得しました。これを弾みに主力の量販向けを伸ばしていきたいです。アウトドアブランド「GERRY」(ジェリー)も好調です。ジェリーを武器にカジュアル専門店も伸ばし、売り先を多様化させます。今期は売上高30億円を目指します。
業務効率化も進めています。20年に導入したクラウドシステムによって、売り上げや在庫の情報をリアルタイムで集計できるようになりました。外部に委託していた出荷業務を内製化し、作業者全員がタブレット端末で出荷データを管理しています。
〈タカヤ商事/社長 落合 豊 氏/RNA事業で出店推進〉
今上半期(2023年3~8月)の売上高は前年同期並みでした。ジーンズとレディースカジュアルブランド「RNA」を主体とする「ジーンズ・RNA事業部」が想定以上に健闘しました。ジーンズは百貨店での販売が堅調に推移しています。
「ワークウェア・OEM事業部」では、OEMが今期に入って回復基調です。国内生産は良い顧客に恵まれたことで堅調です。バイク用品関連など、従来とは違った業種向けの仕事も増えつつあります。海外生産は衣料品チェーン向けで、小ロットながらもコンスタントに受注を獲得できました。
下半期に向け、ジーンズ・RNA事業部では、RNA事業で新規出店を進めます。この間、出店する施設の営業終了などで退店するケースが出てきました。RNAは安売りするブランドではないため、固定客がつくまで時間がかかります。環境が良く、安定成長が見込まれる物件を探しながら、出店に向けて早めに動いていきます。
同時に海外販売も考えていきたい。新宿や博多、岡山の店舗はインバウンド客によく売れています。状況を見極めながら越境電子商取引(EC)などを使った販売を模索していきます。自社通販サイトの「デニムライフ」ではEC専用ブランドを立ち上げながら拡販につなげていきます。
ワークウェア・OEM事業部では上半期に、門前払いされた先にもしつこく営業活動を仕掛けたことなどが奏功し、取引先が増えてきました。下半期には間違いなく数字が上がってきます。
当社では来期から3カ年計画をスタートさせます。先月、新たに経営企画推進会議室を設置しました。経営監視とともに、新規事業も吟味しながら計画策定を進めます。




