2023年秋季総合特集(7)/Topインタビュー/ユニチカ/上席執行役員産業繊維事業部長 吉村 哲也 氏/変化に対応する生産基盤/付加価値品でボリュームも

2023年10月23日 (月曜日)

 ユニチカはポリエステル短繊維やポリエステル高強力糸など産業繊維で国内の生産基盤の再編に取り組んでいる。吉村哲也上席執行役員産業繊維事業部長は「これまでにも改革を実行してきたが、その後も環境が大きく変化している。時代の変化に対応した構造改革が必要」と強調する。生産基盤の再整備によって競争力を強化し、高付加価値品の販売量拡大を目指す。「これまで育ててきた高付加価値品のボリュームを増やす。そのためにもポリマー、紡糸、後処理で特徴のある新しい開発が欠かせない」と話す。

――今後の成長に向けて新たな商品の開発や提案が進められていますが、ユニチカの産業繊維事業にとって、いま“最旬”の商品や取り組みは何でしょうか。

 今最も力を入れているのは国内の生産基盤の再整備です。当社は2014年に汎用品を縮小し、高付加価値品への特化を進めるポートフォリオ改革を実行しました。それに合わせて国内の生産設備も構造改革を実施したわけですが、あれから約10年が経っています。その間、環境も大きく変化しています。売れる商品や売れ方、需要動向も少しずつ変わっていきました。

 このため、既存設備による生産の中には、再び非効率になっている部分も目に付くようになっています。生産効率は商品の競争力に直結していますから、これを改革していくことが必要です。

 そのために必要な設備投資を進めます。自社単独での投資が難しい部分に関しては他社とのアライアンスも選択肢となるでしょう。

 生産効率化によって高付加価値品のコストダウンが進み、競争力が増します。これによって高付加価値品販売のボリュームが増せば、さらにコストも下げることができます。そうやって利益をしっかりと確保しながら、次の柱となる高付加価値品を開発する。どんな商品も時間の経過に伴って競合品の登場などで付加価値が低下するものですから、やはり新しいものを開発し続けないといけない。そのために必要な投資は不可欠です。それこそが成長の源泉になります。

――新型コロナウイルス禍も収束に向かう中、23年度上半期(4~9月)も終わりました。現在の事業環境をどのようにみていますか。

 コロナ禍も落ち着き、経済活動も本格的に再開されたことで用途や分野によって濃淡がありながらも、ものの荷動きは全体として回復基調にあります。ただ、ここに来て中国経済の変調は不安要素でしょう。

――法改正によって物流業界が人手不足となる“物流2024年問題”も産業界にとって不安材料になっています。

 基本的な対応を徹底するしかありません。例えば在庫管理を徹底して倉庫利用の負担を減らすなどです。不必要な滞留在庫などはもってのほかになるでしょう。また、多段積載ができるトラックを使用することで物流の効率を高めるといった方法も導入しています。

――23年度上半期の産業繊維事業の商況はいかがですか。

 全体としては増収で推移していますが、原燃料高騰によって利益率が低下しており、その改善が遅れています。もちろん値上げによる価格転嫁は実施していますが、どうしても原燃料価格の上昇速度と、価格転嫁の進展度合いにタイムラグが生じますから、その分だけ利益面が圧迫されることになります。

 事業の中身を見ると、主力のポリエステル短繊維は増収基調で推移しました。14年のポートフォリオ改革によって汎用品を縮小し、高付加価値品への特化を進めた成果が現在も続いていると言えるでしょう。特に得意とするバインダー繊維や水処理膜支持体向けファイバー、割繊タイプなどの機能素材が堅調でした。ただ、ここに来て中国経済の低迷の影響が直接、間接に出始めているのが不安要素です。また、原燃料高騰によって利益面は売り上げの増加ほどには増えていません。引き続き価格改定による利益率の向上に努めていきます。

 一方、ポリエステル高強力糸は小ロット多品種に対応した生産体制への転換を進めている途中ですので、工場の稼働や商品の供給に一部制限がかかりました。その影響でポリエステル短繊維のような大きな増収にはなっていません。ただ、競合品の撤退などもあって需給バランス自体はタイトな状態が続いていますし、実際に建材や土木、産業用ベルトなど各用途とも荷動きは堅調に推移しています。今後、工場の再整備が完了すれば堅調に販売できるとみています。

 モノフィラメントは全体として安定していました。こちらも膜材料用途の販売が拡大しています。この事業は釣り糸など最終製品も含まれています。消費者と直接コミュニケーションできる点で重要な事業だと考えています。

――23年度下半期に向けた課題や重点施策についてはどのように考えていますか。

 先ほど述べたように、今期はまず国内の生産基盤の再整備をしっかりとやり切ることが重要になります。それができれば利益面も改善します。計画では24年度に実際に成果を具体化するとしていますが、そのためには23年度中から着手しなければ間に合いません。

 一方、営業面ではこれまで育成してきた高付加価値品の販売をさらに拡大し、ボリュームのあるビジネスにしていかなければなりません。ニッチな用途やアイテムからスタートした商品だとしても、やはり一定のボリュームがあってこそ事業として成り立ちます。もちろん新しい商品の開発も進めます。やはり当社はポリマー、紡糸、後処理で特徴を出すことを強みにしなければなりません。

 23年度は売り上げ面では計画を上回る勢いで推移していますから、あとは利益面でどれだけついていけるかにかかっています。

〈私の旬/市民農園では一番の若手〉

 「計画よりも一足早く農場を始めることにしました」と話す吉村さん。リタイア後の趣味にと考えていたのだが、たまたま地元の農協が貸与する市民農園の抽選に当たった。「割り当てられた農地面積は50平方メートルですから、けっこうな広さです」。旬の野菜を栽培しているが「取れすぎて家族だけでは食べきれないのが悩み」だとか。「他の参加者はほとんどが70代で、私が一番の若手。先輩方がいろいろと教えてくれます」。期待の新人デビューとなったようだ。

【略歴】

 よしむら・てつや 1984年ユニチカ入社、タスコ社長、不織布事業本部スパンボンド営業部長などを経て2015年執行役員不織布事業部長、19年上席執行役員、23年4月から産業繊維事業部長