秋季総合特集Ⅱ(5)/Topインタビュー/クラボウ/社長 藤田 晴哉 氏/「ループラス」循環見えやすく/“クラボウにしかない”を魅力に
2023年10月24日 (火曜日)
クラボウの上半期(4~9月)は、半導体市場の失速などから前年同期に比べ低い計画を出していた。しかし、カジュアル向けの健闘や自動車内装材向けの回復などを受け、藤田晴哉社長は「5月に公表した数値に対しては若干上振れしそうだ」と話す。下半期は予想より苦戦している海外市場、半導体市場の回復の遅れが足を引っ張る可能性を示唆するものの、裁断片などを独自の開繊・反毛技術で再資源化する「ループラス」をはじめ、独自技術を生かした課題解決型のビジネスの構築や新たな販路の開拓が巻き返しの鍵を握る。
――自社の“最旬”の事業は何でしょうか。
今の時流に沿った取り組みであり、最も旬と言えるのが、裁断片などを独自の開繊・反毛技術で再資源化する「ループラス」です。環境問題に対応し、サーキュラーエコノミーへの関心が高まる中、定着しつつあります。
ループラスは2018年から本格的にスタートしましたが、エドウインや高島屋とのデニム製品での協業や産地間連携、JR東日本グループとの服再生イベント、愛知県安城市といった自治体との共創など、さまざまな取り組みが進んできました。安城工場では生産ラインを増設したほか、タイの子会社で紡織のタイ・クラボウでも生産ラインの増設を計画しています。
拡大してきたのはやはりコンセプト型でサプライチェーンをしっかり整備し、出口戦略を明確にしてきたからです。例えば「ミキハウス」ブランドの取り組みでは、最終的にタオルとなり循環が見える。昨年からループラスの糸売りも始め、より使いやすくなったことも後押ししています。
どれだけ収益を上げていくかがこれからの課題となります。モノ作りとともに発信の仕組みも考えていかなくては。商品にループラスの仕組みが分かるようなタグを付けるなど、消費者に認知される工夫を検討しています。収益を出せるビジネスモデルにしていくにはもう一歩踏み込んでいく必要があります。
――上半期の商況は。
前年同期比で見ると減収減益の計画となっていますが、5月に公表した数値に対してはやや上振れする見通しで、全般的に悪くありません。
繊維事業はカジュアル向けが健闘しました。化成品事業は半導体向けがそれほど悪くならず、自動車内装材向けも回復してきました。環境メカトロニクス事業は下半期に予定していた大型案件の受注が前倒しとなったことで上振れしています。
しかし、海外は全般的に苦戦しています。増益を見込んでいましたが、厳しい状況で、下半期にマイナスが取り戻せるかどうか。半導体市場は年内踊り場になるとみられ、回復してくるのは来年4月以降とみられます。下半期はそこに引っ張られることも考えられます。ただ、繊維もウレタンも価格転嫁が進んでおり、その効果が下半期に発現してきます。
――カジュアル向けが健闘した理由は。
顧客の課題解決につながる提案ができているからでしょう。染色加工の徳島工場(徳島県阿南市)の素材加工をもう一度見直し、技術のリブランディングを進めてきました。天然繊維への加工を合繊に組み合わせるなどによって、うまくニーズを捉えています。
原綿改質による機能糸「ネイテック」の販売も伸びています。従来はインナーが中心でしたが、新たにUV遮蔽機能を持った「ネイテック ダル」を開発し、アウター用途へ提案を始めています。
――ユニフォームでの打開策は。
今期から後加工難燃の「プロバン」の加工を始めており、素材難燃の「ブレバノ」とともに市場拡大を期待しています。
また、労働安全に対する関心の高まりを受け、“着るアシストスーツ”として発信を強めるサポーター一体型タイプ「CBW」の販売にも力を入れています。値頃感もあり、企業別注への対応など、素材メーカーならでは提案によって今後もっと増やしていきたい。
作業者の体調を管理するウエアラブルシステム「スマートフィット」は昨年、取り扱いやすいスマホレス型ウオッチを導入したことが転換点となり採用が増えています。採用企業のうち2社は従業員1千人を越える大企業です。これらをユニフォームと連動させながら販路を広げていきます。
――化成品事業、環境メカトロニクス事業の下半期に向けた見通しは。
化成品事業はシリコンサイクルで需要回復がまだこれからですが、今のうちに投資、技術の確立に向け取り組んでいきます。半導体製造装置向け高機能樹脂加工品を開発、生産する熊本事業所(熊本県菊池市)では新棟の建築を進めており、立ち上がるのは24年度です。25年度からスタートする次期中計で貢献してくるような投資になると期待しています。
環境メカトロニクス事業は半導体不足で供給が遅れていましたが、今は解消されつつあります。攪拌(かくはん)脱泡装置では、電気自動車のバッテリーなど新たな販路を広げています。工作機械の業界で再編の嵐が吹く中、子会社の倉敷機械(新潟県長岡市)の全株式をDMG森精機さんに譲渡しました。倉敷機械はCNC横中ぐりフライス盤の国内シェアが高いですが、それだけでは成長が難しい。世界最大手の工作機械メーカーであるDMG森精機さんなら、倉敷機械を成長させてもらえると判断しました。
――円安や原材料・原燃料費の高止まり、物流問題などコストアップの要因がなかなか拭い切れず、来年以降も値上げが続きそうです。
ワンランク上の付加価値の高い商材の提案によって、値上げ分をカバーしていかなければいけません。単に値上げすれば結果的にその先のアパレルメーカーがしんどくなり、他社の素材に乗り返られてしまいます。ループラスやネイテックなど、クラボウでしか売っていない素材で魅力をどれだけ出していけるかがこれから重要になってきます。
〈私の旬/合唱団への参加〉
先日、65歳になった藤田さん。前期高齢者の仲間入りとなったが、まだ若く「高齢者として旬が来た」。新たな挑戦として、大阪ロータリークラブのグリークラブ(合唱団)に所属することに。パートはテノール。小学生の時も合唱団で歌い、「ウイーン少年合唱団に憧れていたこともある」とか。しかし、久々の合唱で「声が出ない」。11月17日の家族会で合唱する予定で、演目はアヴェ・マリア、ドイツのホームソングメドレー、六甲おろし。「しっかり練習しなければ」。
【略歴】
ふじた・はるや 1983年クラボウ入社。群馬工場長、鴨方工場長、化成品業務部長などを経て2012年取締役兼執行役員企画室長、13年取締役兼常務執行役員企画室長、14年から社長