秋季総合特集Ⅱ(6)/Topインタビュー/シキボウ/社長 尻家 正博 氏/常識超えた新しい発想を/連携で可能性広げる
2023年10月24日 (火曜日)
「常識を超えた突拍子もない新しい発想を期待している」(尻家正博社長)として、今月から繊維部門にブランド戦略プロジェクトを立ち上げたシキボウ。提携するファッションブランド「アンリアレイジ」との連携を深め、シキボウそのものの企業価値、ブランド価値の向上に乗り出す。2025年3月期を最終年度とする中期経営計画の折り返し地点に差し掛かる。円安や原材料、原燃料高などさまざまなコストアップで価格転嫁が追い付かず逆風が吹く。しかし、経営基盤の強化に向け「定性的な面で着実に進みつつある」として、成長への歩みを緩めない。
――自社の“最旬”の事業は何でしょうか。
25年3月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画では、サステイナビリティー経営を基本方針に掲げています。環境配慮や社会課題を解決する製品や仕組みを充実させつつあり、グループの新内外綿と取り組む繊維廃材のアップサイクルシステム「彩生」や生分解性ポリエステル短繊維「ビオグランデ」、フェアトレード綿糸「コットン∞」(コットンエイト)など挙げられます。
フェムテック(女性が抱える健康の課題を技術で解決できる商品・サービス)では昨年にプロジェクトチーム「Mechi」(ミチ)を立ち上げ、新たな商品開発や市場開拓に取り組んでいます。日本女子大学と食品大手の明治と連携し、フェムテックに対する認知度を高めるとともに、学生との商品企画や学生からの意見を基にした素材開発につなげていければと考えています。
さらに10月には繊維部門にブランド戦略プロジェクトを立ち上げました。これまでハード面から機能性といった付加価値の向上に努めてきましたが、ファッションブランド「アンリアレイジ」と連携を深める中、ソフト面からもブランド力を育て、販売戦略を組み立てながら企業価値、ブランド価値を高めていこうというのが狙いです。
アンリアレイジの森永邦彦デザイナーのわれわれとは違う発想によって、独自技術を思いもつかなかった製品やビジネスへとつなげていければとも考えています。
例えば24春夏パリコレクションでは、当社が提供した素材の一つに、太陽光により色が変わるフォトクロミック技術を活用したプリントのPVC(ポリ塩化ビニル)素材があります。これは元々衣類には使われていませんでした。そのような従来、衣類に使われていなかった素材を使うといった、常識を超えた突拍子もない新しい発想を期待しています。
――上半期(4~9月)を振り返ると。
新型コロナウイルス禍からの回復が見られますが、依然として原材料費、物流費、円安によって利益が苦戦しています。海外からの仕入れのボリュームが大きいだけに、予想以上の原材料の高止まりとともに、価格転嫁の遅れが響きました。特にユニフォーム事業や産業資材部門の化成品事業が利益の圧迫要因となっています。
――繊維部門は。
中東向けの民族衣装用生地輸出は為替による追い風でコロナ禍前以上に好調です。原糸販売は市況が低調で苦戦しています。ユニフォーム事業は売り上げだけを見ればコロナ禍前への回復傾向にありますが、価格転嫁ができておらず利益面で苦戦しています。
ニット製品はカジュアル向けに堅調ですが、円安で利益面はもう一息というところ。生活資材は昨年の巣ごもり需要の反動で流通在庫が多く動きが鈍いです。
――産業資材部門は。
ドライヤーカンバスは段ボールの製造に使われるコルゲーターベルトの販売が増えていますが、利益が低下しています。化成品事業は中国向けガラス繊維収束材が在庫調整の影響で受注が減りました。食品用増粘安定剤も増収ですが、コスト上昇で利益が苦戦しています。複合材料は航空機用途向け部品が想定通りの受注回復となっています。
不動産・サービス部門では、インバウンド需要によるホテル稼働率の上昇によってリネンサプライ事業を展開するシキボウリネン(和歌山県上富田町)が好調です。
――下半期の見通しはいかがですか。
コストアップは続いていくと思われます。ただ、中計で掲げた基本方針の方向性はずれていません。経営基盤の強化や革新的な成長に向けた取り組みなど、確実性を持ってスピーディーに対応を図っていきます。
――グローバルネットワークの連携強化による海外市場の開拓も進んでいます。
コロナ禍で1年遅れた形になりますが、昨年台湾に現地法人を作りました。来年1月にはベトナムに現地法人を設立する予定です。インドネシア、タイを含め4極で海外への市場開拓の下地ができてきました。現状、海外売上高は全体の13%程度ですが、これを20%には持っていきたい。
連携という面ではアンリアレイジさんをはじめ、ユニチカトレーディングさん、コットン∞での豊田通商さん、信友さんなどとの取り組みが進んでいます。自社だけではなかなか進まないビジネスも、連携していけば可能性が広がります。
――中計の折り返し地点です。
中計で掲げた経営基盤の強化では定性的な面で着実に進みつつあります。新たな市場展開に向けた設備投資では、シキボウリネンが新工場増設のため、約8億2千万円を投資します。また、シキボウ堺(堺市)には約37億円を投じて食品用増粘安定剤の新工場を作り、25年1月の稼働を計画しています。さらにシキボウサービス(大阪市中央区)の保険代理店事業を譲渡するなど、資本の効率化も進んでいます。
次の革新的成長に向けた取り組みでは、その基盤となる人材育成にも力を入れ、中途やキャリア採用も強化しています。
サステ経営への取り組みでは、従業員エンゲージメント(愛着心)の向上へアクションプランも組み立てています。定性的な動きはしっかりできており、人的資本の充実を図りながら成長を続けていきます。
〈私の旬/日本シリーズ〉
プロ野球ではセ・リーグで阪神タイガース、パ・リーグでオリックス・バファローズが優勝した。阪神優勝だけでも関西での経済効果は約800億円。もし日本シリーズで関西の球団である両軍が対決すれば「1千億円の効果があるといわれる」と尻家さん。取材の時点ではまだ分からないが、「ぜひ実現して関西が盛り上がってほしい」。ちなみに尻家さんが応援するのはオリックス。近鉄バファローズの本拠地だった藤井寺球場が近所だったことから「応援しちゃいますね」。
【略歴】
しりや・まさひろ 1988年シキボウ入社。2018年総務部長、19年執行役員コーポレート部門経営管理部長、20年執行役員コーポレート部門経営戦略部長兼財務経理部長、21年執行役員コーポレート部門財務経理部長。21年6月から代表取締役兼社長執行役員